16、補給
※本日二本目です
(……予想はしてたけど、結構時間がかかるなぁ……)
自分ひとりに任された仕事だったら、たぶん半分の時間で回り切れる。
やろうと思えばできたことをしないのは、この旅路は過程が大事だということだ。
実際、途中途中で出会う人々との交流で、聖女と勇者の株は右肩上がりを続けていた。
「これからも頑張ってくれ! これはオマケだ!」
「うちからもちょっとだけれど、多めに入れておいたわ」
「北の奴らも助けてやってくれ。……ほらよ。餞別だ」
そして、その日。
リッカはシュカとフォリアにくっついて共に街を回っていた。
ここはこの先一番の大都市であり、補給をするためというのと……
「わあ。応援ありがとうございます! 力の限り頑張ります!」
たぶん、聖女フォリアの気分転換も兼ねてのショッピングだろう。
シュカの隣をついて歩く彼女は、とても生き生きとしていている。
魔物になってしまった人間の浄化をしてまわるなんて、悲しい現場ばかりに違いなく、ああやって笑っている彼女を見るとすごく安心できた。
卸屋で直接大量に買い付けたものを、リッカはせっせと魔法でしまう。
「いつもありがとう、リッカちゃん」
「え?」
しまうのを後ろで待ってくれていたフォリアに言われて、リッカの手が止まる。お礼を言われるようなことをした心当たりがなかった。
キョトンと目を丸くして見返せば、フォリアは優しく綻ぶ。
「荷物、たくさん運んでくれて」
「……それがあたしの仕事ですから!」
いやいやと小さく手を振ってみせると、ふいにこちらの様子を窺っていたシュカと視線がかち合う。
「補給は終わりだ。残りの時間は好きにしろ」
彼はそれだけ言うと口を閉じてしまった。
その言葉が、自分たちに言われたものだとフォリアとリッカが気がついたのは同時だった。
「リッカちゃん! 一緒に街を回りましょう!」
「あ、あたしでよければ……!」
ぱあああっと、満面の笑顔が眩しい。
断る理由もなく、リッカは彼女に頷いた。
◆
「見てください。リッカちゃん! この食材、お星様みたいですよ!」
「珍しいですね。皇国では見たことがないかもしれません」
「あまくて美味しいんだよぉ。ぼく、これ好きだったんだぁ」
シュカの気遣いで、年が近い皇国の少女同士、並んで街を探索する。
もちろん、護衛は外せないので、ハルルやシンディ、なぜかまだついてくるシュカにミザロと、おまけにソルドも一緒だ。
ソルドの勧めでカットフルーツを買って、休憩を挟みながら街を歩く。
「あっちにはねぇ、工芸品を売ってる青空市場があるんだよ。変わったものがたくさん置いてあって、おもしろいと思う」
「へぇ! それは覗いてみたいです!!」
いつの間に情報を収集したのか、この都市に来たことがあるのか。どちらかは分からないが、ソルドが案内をしてくれてスムーズに進める。
「本当に活気に溢れた賑やかな街ですね。見応えがあってすごく楽しいです」
「……この都市は前皇帝にものを貢ぐための中継地のような場所だった。他の街に比べたら豊かなのはそのせいだ」
「……そうだったんですね」
フォリアの抱いていた疑問を読み取ったシュカが、後ろから彼女に答えた。
(――ってことは、どこかに転移装置があるんだろうな)
この世界における物流の要になるのは転移装置だ。
基本的に国が管理する装置であり、その管理は厳重にされる。
この都市のどこかに、あの便利グッズが設置されていることだろう。
時に移動魔法は、装置のほうが性能が良いなんて場合もある。ハズレの得意型と言われることもあるから、世知辛い。
「こっちだよ。おねぇちゃん!」
ソルドの提案で青空市場に足を運ぶことになり、リッカもそれについていく。
装飾品から始まって、さまざまな雑貨が並ぶ市場はどれも気になってなかなか前に進めない。
「そこのお嬢さんたち! よかったら見ていかないかい? 西の砂漠で見つかった珍しい石を使ったアクセサリーなんか置いてあるよ」
また声をかけられて、フォリアの足が止まる。
どうやらアイザインと呼ばれるその黒い宝石が気になるらしく、彼女の目はそれに釘付けだった。
(ラピスラズリみたいに、黒い石に星みたいな金色が混ざってる。綺麗だな)
リッカもフォリアと一緒にその石を見て、それからその色合いで気が付いた。
(なるほどね。モルディール卿の黒髪と金色の目と同じだ)
フォリアが釘付けになる訳だ。
「綺麗ですね〜! 何かひとつ買ってもいいかな〜」
「! わ、わたしも!」
しゃがみ込んで商品を見定めるフリをして、彼女が買いやすいように自分からそう言い出してみると、予想通りフォリアも購入したかったみたいだ。
どれにしようかなぁと悩むフォリアを見守りつつ、他の商品に視線を向ける。
装飾品だけではなく、それを納めるための箱も並んでいた。
「あれ? これって」
「お目が高いね。宝石細工が施されたオルゴールだよ」
その中にはただの綺麗な箱だけではなく、オルゴールも混ざっていて、開けてみれば聴いたことのない旋律が流れる。
「わぁ。ぼく、オルゴールなんて初めて見た」
興味があったのか、リッカの隣でソルドが目を丸くした。
少年には面白くない品かと思ったが、意外にもソルドはリッカの手の上で鳴るオルゴールを見つめている。
「他にもあるのかな」
そして、彼は並んでいた他の箱に手を伸ばす。
選んだのは、隅の方に置かれていた小さな青い箱。
ソルドがそれを開けようとした瞬間。
リッカはその隙間から見えた魔法陣で、全てを悟る。
「――ダメっ!!」
反射的に動いていた。
ソルドの持っていた箱を掴むと、彼と後ろにいるフォリアを庇うために自分の胸の中にそれを抱きよせる。
その次の刹那、開いてしまったトラップ付きの箱が光を放った。
「リッカさ――!!」
「リッカちゃん!!!」
頼むから致命傷は勘弁してくれ。
その願いと共に、リッカは爆音を聞いたが最後、気を失った。




