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【web版完結】軍人少女、皇立魔法学園に潜入することになりました。〜乙女ゲーム? そんなの聞いてませんけど?〜  作者: 冬瀬
軍人少女、聖女一行を護衛することになりました。 〜勇者に魔王? 聖女は親友!? そんなの聞いてませんけど?〜
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15、勇者の旅路

お世話になっております!

2024年5月2日に、

小説『軍人少女、』の5巻が発売されることになりました!!

今回もたっぷり加筆させていただいております。

最終巻になりますので、是非是非ご購読のほど宜しくお願いします!



 シュカ・ヘインズが勇者と呼ばれ出した頃。

 聖女の視察隊は目的の地まで半分に到達していた。

 魔物化してしまった人間が原因と思われる事件を解決しながら、着実に進んでいる。

 まあ、リッカはシュカたちがギルドの依頼をこなす間は、街で留守番をしているだけだし、移動の間も馬車に揺られているだけなのだが。


「勇者様! どうか、私にも同行させてください! きっと役に立ってみせます!」

「断る。邪魔になるだけだ」

「っ……。そんなっ」


 今は、次の目的地へと発とうとしていたところ。

 勇者に助けられたという娘が、やけに気合の入った服装で見送りに来ているなと思えば、ご覧の通り。


「でも、その人より絶対私の方が強いですっ!」

「えっ……!」


 他人事のように見守っていたところ、少女が指さしたのはリッカだった。

 とんだトバッチリである。


「私聞きました。その人はずっと街にいただけで、何もしてないって!」


 それはそうだ。リッカはただの荷物持ち。

 戦闘要員で聖女の視察隊に参加している訳ではない。

 やることもなく街でお留守番するしかない。

 それを、まるでお荷物のように言われるとは……。

 隣で口元を覆い、くつくつ湧いてくる笑いを堪えているハルルを蹴飛ばしてやりたくなった。


「私も収納魔法の使い手です! しまってある武器を取り出して戦うことだってできます! だから、彼女の代わりに私を!!」


 自分の胸の上に手を置いて、彼女は訴える。


(まあ、流石に許可しないで――)


「なら、やってみろ」

「……………………ん?」


 心の声を遮られた。

 唖然として前を向けば、シュカがこちらを向く。


「お前が持っている物資をすべて出せ。リッカ・バウメル」

「えっ!?」


 この展開は予想していなかった。

 リッカはギョッと目を見開き、周囲の視線を確認する。


「おいおい。正気か? ここに来て、リッカさんに離脱しろっていうのかよ?」

「お前は黙ってろよ。皇国軍人。ここでは隊長の言葉が優先だ」

「…………あー、はいはい。わかりましたよ」


 相変わらず当たりの強いミザロの言葉を、ハルルは吐き捨てた。その反応がミザロを見切ったように見えて、リッカの胸中は複雑だ。


「あんたも早くしろ」

「…………はい……」


 最悪、部隊を離脱することになったら、遠くから後をつけてでも護衛をすればいいだろう。

 なんなら、そっちのほうが楽だ。ハルルにもこれ以上、不快な思いをさせなくて済む。

 リッカは大人しく言うことを聞くことにする。


「じゃあ、どうぞ」


 だから、言われた通りに共和国のために用意された残りの物資を全て、自分の背後に空いていたスペースに呼び出した。



「…………な、なによ、この量……」



 そして、それを見た少女が絶句する。

 勇者に命を救われたその少女は、お荷物が荷物持ちをしていると思っていた。

 ここは平和な皇国とは違って、自分の身は自分で守らないといけない国だったから、皇国から来た荷物持ちより断然自分のほうが役に立てると思っていた。

 それなのに――。


「この後にいく都市でまた補給するらしいですけど、どうぞよろしくお願いしますね!」


 なんでもない顔でそうのたまう皇国の娘に、少女は一歩後ずさる。

 ――自分が収納できる分より、五倍はある。

 一体なにをどうすれば、これだけの量を所持できるのか、まるっきり見当もつかなかった。


「んじゃ、オレたちは帰りますか。リッカさん」

「やることはなくなりましたからね」


 さあさあ、と。ハルルが彼女をかばうようにエスコートするのを見て、その少女はその場に崩れた。


「――――――り、です」


 ぽつりとこぼした言葉は、リッカたちには届かない。


「無理です!! 私にはこれだけの量を運ぶことはできません!!」


 別に勝負をしていた訳ではないが、酷い敗北感がその少女を支配する。

 魔法の性能以前の問題として、まず、これだけの物資をしまったことを覚えることすら危ういだろう。

 当然、取り出すためには何が異空間にあるのか、覚えていないと取り出せはしないのだ。


「ということで、ごめんねぇ。おねぇちゃんは戻ってねぇ」


 ソルドがリッカの前に立ちはだかり、両手を広げて通せんぼする。

 自分のすべき振る舞いをよく分かっている子だ。

 リッカも、彼相手なら言葉に従いやすい。


「せっかくリッカさんが、この役目を快諾してくれたのに酷い扱いだよな。そうは思わねーの、勇者サマ?」


 しかし、ハルルの機嫌は非常に悪かった。


「ハルルさん。別にあたしは何も不便してませんし……」

「悪かった。一番手っ取り早いと思ったが、手間をかけさせた」


 案外あっさりと、謝罪の言葉がシュカから聞こえた。

 リッカはぱちぱち目を瞬いたのち、我に返る。


「大丈夫ですよ! すぐ収納しますね!」


 彼女からすれば、この荷運び役という役目にこだわりはない。

 これで険悪になるのも馬鹿らしかった。


「一体どうやったら、そんなに……。やっぱり、皇国と旧帝国では魔石の質が違うの……?」


 ぼそぼそ、座り込んだままの少女が独言を言っている。


「……そうよっ。石が違うせいで!!」


 少女は諦めきれないらしく、今度はそんなことを言い出した。


「いい加減にしてね。キミ。てか、下心丸出しの女なんて隊に入れるわけねーだろ。さっさと家に帰んなよ」


 痺れを切らしたサリードにトドメを刺されて、少女はがっくり項垂れる。


(……モテる人は大変だな……)


 実のところ、勇者に惹かれた娘がアプローチしてくるのはこれが初めてではなかった。

 彼に助けてもらった独身女性の皆様は、かなりの確率でオとされている。

 そして、それを牽制するのはサリードの役目らしく、嫌われ者を買って出ているようだった。


(どの世界でも勇者はモテるって相場が決まってるのか……。そのうち魔王でも出てくるんじゃないかな……)


 冗談混じりにそんなことを考えながら、リッカは荷物持ちとして仕事に戻った。



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