1、ラゼ・オーファンという少女
衝動書き連載を始めてしまいました。
温かい目で、お付き合い頂けると幸いです……。
(追記)2021.07.24
書籍化を想定していない、お粗末文章で申し訳ないです。雰囲気でッ、どうか雰囲気で楽しんでください…
書籍の方が、辛うじて本の形を維持しております。
「ふぁあ〜」
大きな欠伸をひとつ吐いて、上着を着込むとラゼはのっそりベッドから下りた。
肩までしか無い焦げ茶の髪は、あっちこっちに跳ねて、手で梳かすくらいでは収拾がつかない。
重たい瞼を擦り、長い前髪を掻き分けて適当に髪を下の方でひとつにまとめると、ぐぐぐっとその場で伸びをする。
朝は得意とは言えないが、ひとり暮らしも短くないので、だいたいいつもと同じ時間に起床する。
カーテンを開ければ、眩しい朝日が部屋いっぱいに差し込んだ。
それから彼女は、パンと目玉焼きとスープで簡単に朝食を済ませて、顔を洗って歯を磨く。
鏡に映った自分は、特に目立った特徴の無い普通の少女。
まぁ、実際ラゼは今年で十六歳を迎える姿ふつーうの娘だ。髪と目の色もどこにでも見かける茶色。顔立ちはお世辞にも美しいとは言えたものではないが、化粧で色々と仕込むにはやりやすい良い顔をしている。
背の高さは、同年代の女の子と比べれば少し低いが、気にしてはいない。
着替えてコートを羽織り、帽子をかぶる。
身嗜みを確認すると、彼女は使い古した四角いバッグを持つ。
「よし。今日も一日頑張ろ」
その言葉と共に、彼女の足元には魔法陣が浮き上がった。
ここは魔法が存在する世界。
魔石と呼ばれる特殊な石を使用することで特別な力——魔法を使うことができる。
人は皆、魔石を所持し、その能力で豊かな生活を繁栄させてきた。
それは火や風、水、雷、土などを生成したり、身体能力を操作するものだったり。個人の得意不得意で使える魔法の威力は異なる。
たった今、常に魔石のピアスをしているラゼが使ったのは転移の魔法で、あらかじめマーキングをしてある場所へと移動することができるものだ。
光に包まれたかと思えば、次の瞬間には違う場所。
その部屋は先ほどまでいたベッドとキッチン、洗面所が詰まった小さな自宅とは違い、大量の書物と書類が所狭しと壁に整列している。
「おはようございます。オーファン代表」
かっちりと軍服を纏った男性が、ハキハキと挨拶した。
代表? 誰のこと?
そう疑問に思った方がいらっしゃるかもしれないが、この部屋にいるのはラゼとこの男性の二人のみ。
ということは、それが誰に向けられた言葉なのかは考えるまでもない。
「おはようございます。ボナールト大尉」
ラゼはこんな歳下にも敬意を払って接してくれる部下に、清々しい気持ちで返事をした。
ラゼ・オーファン。今年で十六歳。
現在はシアン皇国軍の魔物討伐部に所属し、国に仕えて10年が経つ軍人である。
彼女が転移してきた職場は、参謀本部とは少し離れた場所に置かれた軍の施設だった。
「代表。こちら、今朝届いた参謀本部からの通達です」
「ありがとう」
バッグと上着を厳しい長机の向こうへ片付けながら、ボナールト大尉が出した書類を受け取る。
「うわぁ……」
封を切って中身を確認して、彼女は思いっきり顔をしかめた。
朝から嫌なものを見てしまい、テンションはだだ下がりだ。
「代表。顔が……。その様子から察するに、召集ですか?」
乙女にあるまじき表情をしていることをボナールト大尉はやんわり指摘する。
ラゼの副官である彼は、既に何度もこの顔を見たことがあるので、今更引くことはない。
むしろその内容を的確に察して見せた。
「その通りだよ。それも残念な、ゴホン。光栄なことにあの閣下からだ……。午後は本部に行かないといけない」
あああ〜、とラゼは頭を抱える。
ボナールト大尉も、あー、と気まずそうに声を合わせた。
皇上陛下(陛下を皇上と呼ぶのは、マジェンダ帝国の皇帝と区別するためだ。)の右腕でいらっしゃる宰相閣下からのお呼び出しだ。
楽しい話をされる訳がない。
それどころか限りなく厄介事を持ち込まれる。
毎回そうだ。断言しよう。
ラゼは心の中で、彼を死神閣下と呼んでいたりするのだが、全くもってその名は相応しく、彼に呼び出されて与えられる仕事はどれも危険度が高い。
「もう嫌だなぁ……。私ついこの間、バルーダに遠征行って、討伐してきたばかりなんだよ? 偶にはゆっくりデスクワークをさせて欲しいよ」
「しかし代表。机と向き合うばかりでは、身体も鈍ってしまいます。魔物が尽きない以上、軍人である我々が数を減らさなければ」
「そんな正当な答えを返さないで欲しい……」
ラゼは机に顎を乗せた。
この世界には二つの大陸があり、ひとつには人間が。もうひとつには魔物が生息している。
「バルーダ」とは魔物が住む大陸のことを言い、つい三日前まで彼女はそこで魔物を討伐していたのだ。
反対に今いる大陸を「オルディアナ」と呼ぶのだが、バルーダは全くオルディアナとは異なる生態系をもっており、わからないことも多い。
そんな場所に送り込まれて、ラゼは隊を率いてひたすら魔物を倒す。
今やオルディアナで必要不可欠となった魔石は、魔物の額から獲れるものなので、この討伐は各国が競うようにして行われている。
「閣下に呼ばれるのも仕方がないことですよ。なんたって代表はS級の魔物を討伐した成功回数最多のエースオブエース。代表の個人情報は伏せられていますが、『狼牙』の称号を得る者がシアンにはいるということで各国がその存在に警戒しています」
「うーん。まあ、生きるためには頑張るしかないからね。ちっちゃい時から色々やってはきたけどさ……」
私には前世の記憶があるから。
ラゼは開きかけた口を閉じて、心の中で呟く。
五歳で軍に所属した彼女が只者な訳が無かった。
現在、いや何年も前からシアン皇国は隣り合うマジェンダ帝国と何度も衝突している。
その境に生まれてしまい、戦争に巻き込まれて孤児になった彼女は、治安の悪い一帯で生きるのに必死だった。
その時、軍に志願して隊士になれば、ご飯が食べられると耳にして、お腹がペコペコだった彼女はすぐにその話に食いついた。
最初は五歳のチビが、何ができる?という感じで相手にされなかったが、念のためと受けさせられた試験で、それはもう大人顔負けの知識を披露したものだから、あっさり入隊が決まった。
使えるものは使う。
これがシアンのやり方である。
彼女もそこまでお気楽な思考の持ち主では無いので入隊が決定してから、これはもしかして普通にのたれ死んだ方がマシだったか?と考えることもあったが、年齢と頭脳が評価されて、特別な訓練を施されることになり、とりあえず戦場には送られず命を繋いだ。
魔石の起動方法から始まり、武術、戦術、暗号などを学び、ある程度習得して八歳になると諜報部に配属されることに。
前世の記憶とは恐ろしいもので、齢八歳にして、ラゼは完璧に諜報活動に加えて捕虜の奪還など数々の任務を遂行してみせた。
実際は、ただ単に死にたくないから全力で毎日生きていただけなのだが、その思いとは裏腹にどんどん任務が追加され、戦時中ということもあり、敵戦力の無効化とバルーダでの魔石の回収(つまりは魔物の討伐)が評価されて、彼女は昇進に昇進を重ね十二歳になるときには中佐の位置についていた。
諜報部を離れて中佐になった直後、結局マジェンダの侵攻とシアンの徹底的な防御の拮抗はまたしても崩れず、マジェンダが攻撃を止めて休戦となったため、冷静になった本部から年齢を考慮されてそれ以上の昇進はストップ。
しかしながら、彼女の武功は年齢など問わず優れたものであり、『狼牙』という称号が与えられた。生きてこの称号を得たものは、今のところラゼが初めてだ。
さらに加えて、彼女はシアン皇国の特殊部隊——皆、顔を黒いマスクで覆い、危険な任務をこなすことから〈影の目〉と呼ばれる——の過酷な選抜試験を通過して、これ以上ない優秀な軍人に成長していた。
今は幹部として、少数精鋭の〈影の目〉の一員として、魔物討伐のエースとして、任務を全うしている。
そんなラゼの能力を知っている者は彼女のことを、その肩書き以上の敬意を込めて「代表」と呼ぶ。
(そもそも彼女の存在を知る者自体が、軍の上層にいるものだけであるため、彼らは幼いが強力な戦力を認めざるを得ないのだ)
ラゼ自身も常にマックスを求めて行動しているので、今のところ食糧が無くなること以外、怖いものは無い。
こちとら不安が無くなるまで力をつけてきたのだ。
「はぁ。今日はご褒美にプリン買おう」
ラゼは逃れることができない指令は早々に受け入れることにして、その後の楽しみに思いを馳せる作戦に出た。
「プリンですか? そういえば、マーガー通りのケーキ屋で幻のプリンが売っているそうですね」
「ボナールト大尉、私がそれを知らないとでも?」
「……流石です、代表」
ボナールト大尉は苦笑した。
「だけどね、大尉」
ラゼは起き上がって、肘をつき、組んだ手を額に置いた。
「『幻』『数量限定』という言葉ほど恐ろしいものは無いんだよ。私は誰になんと言われようとも、食べ物については目を光らせているんだけれどね……………何故だかいつも邪魔が入って、買いに行く機会が無い」
「……………」
ボナールト大尉は沈黙した。
深刻な様子で一体何を言い出すかと思えば……。
しかし、彼は彼女の食に対する情熱をよくわかっているので、本気でこう言っていることを馬鹿にはしない。
「機会が有れば、わたしも何か買ってきておきますね」
「え、本当?! やったぁ! 仕事頑張れる! 楽しみにしてるよ大尉。勿論お返しはするからね!」
きらっきらに目を輝かせるラゼは、年相応だ。
これがあの狼牙なんだよな、と不思議な気分になりながら、ボナールト大尉は頷く。
「さてと。昨日、収穫した魔石については報告書を提出しておいたから、今日は遠征中に溜まった書類を片付けていかないとね……」
「はい。いつも通り、代表の確認が必要なものを重要度が高い順に並べておきました」
「ありがとうございます。いつも助かるよ」
ラゼが魔石についての審査と報告書を書き上げる間、ボナールト大尉は溜まった書類を整理してくれる。
季節は冬。
窓の外には雪がちらちら踊っている。
前世の記憶にあるスキーとやらをやってみたいなー、と思いながらラゼは資料に手を伸ばした。
※ATTENTION
ご感想頂いている通り、こちらの作品はカルロ・ゼン様の『幼女戦記』というお話に影響を受けております。
オマージュとしてお楽しみいただけると幸いですが、不快に思われる方がいらっしゃいましたら、すぐに作品を削除させて頂く所存です。
内容は全く違う話を書かせて頂いているつもりなのですが、「これは駄目だろ」と思われた方は、メッセージをいただけると幸いです。
作者未熟のため、判断ができずこのような文を載せさせて頂きました。
ご協力お願いいたします。




