第70話 エスコルヌ女子爵はサー・ポーロ士爵をざまぁする(1)
◇サー・ポーロ士爵 SIDE◇
その日は持ち回りで定期的に開催されている近隣領主サロンの会日だった。
会場はとある貴族のお屋敷である。
そこへサー・ポーロ士爵はいの一番に乗り込んでくると、
「あの不誠実な女狐めが……! 今日この場で糾弾してくれるわ……!」
イライラを隠そうともせず、ブルブルと貧乏ゆすりを続けながら入り口を厳しい視線で睨み付け、エスコルヌ女子爵の到着をいまかいまかと待ちわびていた。
そしてエスコルヌ女子爵がいつも通りにやってくるや否や、サー・ポーロ士爵は顔を怒りで真っ赤に染めて、鼻息も荒くエスコルヌ女子爵に詰めよった。
「エスコルヌ女子爵! あなたはワシをずっと騙しておりましたな!」
挨拶すらせずに貴族らしからぬ大声をあげたサー・ポーロ士爵に、既に大半が集まって、小グループに分かれて談笑していた貴族たちの視線が一斉に注がれる。
そこにあるのは、サー・ポーロ士爵の下品な振る舞いに眉をひそめる冷笑、失笑といった冷ややかなものばかりで、サー・ポーロ士爵に味方するような暖かい視線は1つもありはしなかった。
しかし怒り心頭のサー・ポーロ士爵はそんなことにも気付かず──否、まったく周りが見えておらず──エスコルヌ女子爵に激しく詰め寄っていく。
「これはこれはサー・ポーロ士爵。ご無沙汰しております。ところで穏やかな昼下がりに、そんなに声を荒げて一体どうされたのでしょうか?」
対してエスコルヌ女子爵は貴族らしく、にっこりと笑みを浮かべながら優雅に対応する。
そのことにサー・ポーロ士爵はさらに怒りを膨らませた。
馬鹿にされたと思ったのだ。
「シラを切るつもりか! ずっとワシを騙しておったじゃろう!」
「騙す? わたくしがですか?」
「そうじゃ!」
「はて? 一体なんのことをおっしゃっているのでしょう?」
エスコルヌ女子爵はピンと伸ばした人差し指を口元に添えると、流麗な動きで小首をかしげた。
「この期に及んでその態度とは! ならばはっきり言ってやるわい。冒険者ギルド移転の話に決まっておるじゃろう!」
「ああ、そのことでしたか。それで、それがどうかされたのでしょうか?」
「な――!」
エスコルヌ女子爵の返答に、サー・ポーロ士爵は思わず絶句した。
信じられないといった面持ちで、大きく目を見開いてエスコルヌ女子爵の顔を見つめる。
「わたくしはサー・ポーロ士爵を騙すようなことを、したつもりはございませんわ。なにか勘違いをされているのではありませんか?」
一瞬、頭が真っ白になったサー・ポーロ士爵は、しかしすぐに意識を引き戻すと、再びエスコルヌ女子爵を問い詰め始めた。
「裏でこっそりと移転の作業を進めながら、ワシには一言も告げなかったではないか! 言う機会は何度もあったであろう? あのフィブレとかいう小僧と裏で密約を行っていたこと、知らんとでも思うたか!」
他でもないフィブレから「エスコルヌ女子爵は一番最初の共犯者だ」と聞かされたのだから、これは確定的な事実だった。
ゆえにこれはサー・ポーロ士爵にとって、切り札ともなる事実だったのだが――。
もちろん今日この場でサー・ポーロ士爵から問い詰められるであろうことを、エスコルヌ女子爵は予測していた。
当然、あらかじめ想定問答は用意してある。
エスコルヌ女子爵は、事前に準備した通りに言葉を返していく。
「それは大きな勘違いですわ」
「か、勘違いじゃと?」




