第二の覚醒
玖絶から溢れ出るどす黒いオーラは、彼の能力だ。闘争本能を、オーラとして顕現させ、身にまとうことで、戦闘力を向上させる。
能力名はブラックオーラ。
オーラを纏うことで、戦闘力を向上させる能力の中でも、玖絶のオーラは特殊。他の能力者は、一般的に緑や青など明るい色に対して、玖絶の場合は黒。ただ色が違うだけだろ? と言われているが、オーラを纏い戦闘力を向上させる能力に関しては、色によって向上率が違うことがわかっている。
例えば、黄色や緑などは、二倍。青や赤などは三倍。そして、玖絶のような黒は五倍もの向上率なのが、実証されている。そして、元々戦闘力が高い玖絶が能力を発動させれば、最強と言えるほどの戦闘力を発揮するのだ。
(それに加えて、くーちゃんのどこまでも強くなりたいという向上心。それが、あのオーラをより大きくしてる。オーラを纏う系は、闘争本能がなくならない限り、所有者がどこまでも高みを目指す限り……大きくなり続ける。ゆーちゃん、そんな彼に、君はどう立ち向かうのかな?)
拳と拳が、足と足が、ぶつかり合う度に大きな衝撃と、打撃音が鳴り響く中。仮面エンジェルは、二人の戦いの行方を想像しながら、笑みを浮かべている。
「はっはっはぁ!! マジかよ! この俺に、ここまでついてこれるとはなぁ!!」
「正直、僕自身もびっくりですよ!」
「なんだそりゃあ? 自分の能力のことだろうがぁ!!」
遊自身も、まだまだ能力については知らないことばかりだ。色々と実験をして、わかったこおてゃ多くある。しかし、それでもこの能力にはまだまだ謎が多くあると確信していた。
「そんなこと、言われても!!」
と、鋭き右ストレートが、ついに玖絶の右頬へと叩きつけられる。
「効か、ねぇよ!!」
そんなはずはない。確かにクリーンヒットしたはずだ。オーラで多少がガードをされているとはいえ、オーラを突き破ろうと力を込めた右ストレートだ。
これは、やせ我慢。
口元から血が流れてるのが、ダメージを食らっている何よりの証拠だ。
「おらぁ!!」
「ぐっ!?」
右頬に拳が当たったまま、玖絶は攻撃を仕掛けてくる。それを、空いている左手で防ぐも、その勢いに押されてしまった。だが、その勢いを利用して、身を回転させる。
「せやああ!!」
「うおおお!?」
玖絶の右拳をがっしりと掴み、そのまま投げ捨てた。戦闘が始まり、まだ三分程度だが。それでも、より長い時間帯戦っていたかのような錯覚に陥る三分だった。
いつもならば、すぐに終わっていた戦闘が、こうも続くと相手が、どれだけ強敵なのか。そして、本当の戦いがどれだけ大変なのか実感できる。
(でも、押してる。あの二凶の玖絶さんを)
彼も、ほぼ本気で戦っているはずだ。そんな彼を、押しているとなると、今の自分はそれだけ強いということだ。
(だけど、油断はできない。戦いは、油断したほうが負ける。そして、どこまで貪欲に勝利を求める者が!)
投げ飛ばされた玖絶は、まだ倒せていない。遊は、どこまでも貪欲に勝利をするために、玖絶へと接近していく。相手に攻撃をする隙を与えるな、攻め続けろ。
「いいぜ、その貪欲な攻め!!」
「なっ!?」
空中では、さすがの玖絶でも体勢を立て直すのは難しい。誰もがそう思っていたが、玖絶はやってみせた。オーラを、動かし近くにあったコンクリートの柱へと絡みつき、遊へと突っ込んできたのだ。
「な、なにあれ!? オーラをあんな使い方した人みたことないよ!?」
火美乃が驚くのは無理も無い。遊も、水華も見たことが無いのだから。オーラとは、ただ戦闘力を口上させたり、身を守る鎧のような役割をするだけだと思っていたからだ。あんな、自由自在に動かすところなど、始めて見る。
オーラをそのまま使って攻撃する能力者は居るが、その能力者は戦闘力は向上しない。つまり、玖絶は戦闘力を向上させているうえに、オーラ自体をも操り戦うことができるということになる。
「俺は、特別なんだよぉ!!」
「そうみたいですね!!」
少し驚いたが、これぐらい特殊じゃなければ、二凶などやっていられないと納得し、真正面から立ち向かう。
「ぷはぁ……! やるじゃねぇか、二色遊! だが、まだ若いな」
「どういうことですか?」
年齢のことを言われているわけではないだろう。確かに、年齢を考えれば遊は玖絶よりは若い。彼は、十八歳で遊は十六歳なのだから。
「確かに、強ぇ能力者だ。けど、まだまだ能力を使いこなせてねぇようだな」
「……」
事実なので、否定することはできない。そもそも、自分の能力は本当に変身能力なのか? どうして女に変身するのか? なぜ今まで発現しなかったのか……。
「俺は、マジなてめぇと戦いてぇんだ。だからよぉ……ここで、てめぇの強さを開花させてやるぜ!!」
「僕の強さを……」
それは嬉しいことだ。できるなら、自分ももっと強くなりたい。そして、この能力についての全てを知りたい。能力は、年を重ねれば自然と成長するが、より成長速度を高めるのは戦いの中だと、昔から実証されている。
彼との、二凶たる玖絶との戦闘ならば、成長速度も尋常ではないはずだ。遊は、拳を握り締め、やる気全開の彼を睨みつける。
「それじゃあ、この戦いで開花してみせますよ」
「おうよ。こっちからも……頼むぜ!!」
今までこんな気持ちにはなったことはなかった。それは、純粋に戦い慣れていなかったというのもあるのだろうが。強くなりたい、こんなにも強い人ともっと戦えるように、勝てるように。
拳を一打放つ度に、蹴りを一打繰り出す度に、体がどんどん軽くなっていく。まるで、空を飛んでいるかのようだ。それは、反応速度がより鋭くなっている証拠なのだろう。
「まだだだ。まだ上がるぜ!!」
遊だけじゃない。戦っている玖絶も、戦う度に動きがより素早く、鋭くなってきている。
「あわわ!? み、見えない! 二人の動きが見えなくなってくるでござるよぉ!? す、水華しゃんは見えてますかぁ!?」
「す、少しだけど。でも、ほとんど背景がぶれてるみたいにしか……」
それだけ二人の動きが早くなってきているということなのだろう。もう、水華や火美乃にはどうなっているのかさっぱりな状態のようだ。
ただ、一人だけ二人の戦いが鮮明に見えている者が一人。
楽しそうに観戦している仮面エンジェルだ。
「いやぁ、これは期待以上だね。本当、彼、いや彼女? って何者なんだろうね。これは、もしかしちゃうかも!! いけいけー!! 二人ともー!!」
しかし、彼女の応援など聞こえないぐらい二人は戦いに熱中していた。
「ぐお!?」
また重い一撃を貰う玖絶。それでも、彼は止まろうとしない。このまま戦いを続ける。拳を相手に叩き続ける。
(しかし、何なんだこいつは。最初は、素人も当然の動きだったのに……俺以上に戦いの中で成長してやがるのか?)
最初戦った時は、まだ玖絶が押していた。それなのに、今となっては急成長したかのように、玖絶が押されている。彼自身としては嬉しいことなのだが、この成長速度は異常だ。
いくら、変身で能力が向上しているとはいえ、ありえないほどの速度で成長している。
(いや、こいつはまるで戦い方を取り戻している?)
だが、そんなことはないはずだ。遊は、つい一ヵ月半前までは無能力者。戦い方を取り戻すというのはおかしな話だ。
「って、考えてもしょうがねぇよなぁ!!」
気になるところだが、今はこの戦いの時間を素直に楽しむのが一番だ。考えていては、楽しむものも楽しめない。
(なんだろう……次第に、考えるよりも先に体が勝手に動いている感覚だ)
自分が急成長していると思っていた。
だが、戦っていく内に、体が勝手に動いているかのような感覚に陥っていた遊。
(まるで、僕の体じゃないかのような……)
―――そろそろだね。
(え?)
またあの声だ。あの三人組の罠にはまった時に聞こえたあの謎の声。不思議と不快な気持ちにはならない、むしろ安心する。
まるで、生まれた頃から聞いていたかのような、そんな安心感がある。
―――その体にも慣れてきたようだから、第二段階に行こう。
(待って。君は、いったい)
―――私は。
(え? なんて、今なんて言ったの!?)
最後の肝心な部分だけ聞こえなかった。何度も問いかけるも、返事がない。
「おいおい! 戦いに集中してくれよ! なあ!?」
「うっ!?」
油断した。謎の声のことに集中してしまったせいで、一瞬だけ隙ができてしまった。それを見逃さない玖絶は容赦のないオーラを纏った右ストレートを顔面目掛けて打ち放ってくる。
このままでは、クリーンヒットする。
大ダメージは確実だ。
しかし。
「なに!?」
拳を当たる直前。
遊の体が光り輝き、玖絶の目の前から消える。気配もない、姿もどこにもない。ならば、逃げたか? いや、この状況で逃げるなどありえない。
「ゆ、遊くん?」
「わ、わあ……」
観戦していた水華と火美乃の声に、玖絶は振り返る。
「なんだ、それは?」
そこに立っていたのは、黄色……いや、金色に輝く遊の姿がそこにあった。




