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その挑戦

どうも。本日から勇者はファンタジーから逃れられない! の電子書籍第三話が配信しています!

第四話の予約受け付けも開始していますので、よろしくお願いします!


そして、第三話の配信を記念して、特別編を投稿します。投稿時間は、おそらく午後のどこかです!

「……」

「ご、ごくり」


 遊達は、とある手紙を中心に置き真剣な表情で固まっていた。水華が、流漸と遭遇した次の日。彼が捕まったことはニュースとなった。そして、そこでは学生二人が怪我を負ったこと、水華が流漸を撃退したことも取り上げられ、学校中では、いや色んなところで水華のことで盛り上がっていた。


 しかし、水華はそんなことよりも気になることがある。

 それは、先日玖絶に渡された手紙。

 ちゃんと言われた通り、中身を見ずに遊へと渡した。しかし、遊はその中身を見ようとしない。今も尚、こうして手紙を見詰めたまま硬直状態が続けているのだ。


 それもそのはずだ。

 あの二凶である玖絶から、名指しで手紙を渡されたんだ。誰でも、どんな内容なのか気になるが、中々開けることはできない。


「なんで、僕なんかに」

「ま、まさかラブなレター!」

「いやいや、それは絶対ないよ。男から貰ったって、しかも相手はあの玖絶さんだよ?」

「でも、変身したら超絶可愛い美少女やん?」


 火美乃の言葉を否定することができない遊。その理由は、変身した姿に惚れたという者達が本当に居るからだ。元は男だよ? という意見にも、愛があれば大丈夫! やむしろそれがいいなどという謎の言葉が飛び交っている。

 しかし、それでも玖絶はそんなことはないと思いたい。


「……さ、さすがにもう開けようか。こうして見詰めていても、何も変わらないし」

「そ、そうだね。実は、私も昨日からずっと気になってたの。仮面エンジェルちゃんも、私に意味深なことを言ってきたから」

「確か、また迷惑をかけるかもと、見守っててだっけ?」


 それはいったいどんな意味を表すのか。この手紙の中に、全てが入っているに違いない。遊は、二人が見詰める中、決心を固め、手に取る。

 封は、シンプルにのりづけもなく、そのまま折り畳まれたものだ。正直、あの玖絶がのりづけをしている光景が思い浮ばない。中に入っていた紙には、短くわかりやすい文章が書かれていた。


「勝負だ、二色遊。今週の土曜、十四時に旧東京都D地区の二番廃墟で待つ。逃げるんじゃねぇぞ? ……は、果たし状ってことでいいんだよね? これ」

「そう、だと思うけど。ぽん」

「なんで、哀れむような目で肩に手を置くの?」

「やばい人に目を付けられちゃったねって」


 そうだね……と、もう一度手紙を見詰め眉を顰める。手紙を持ってきた水華は、申し訳なさそうな顔をしているが、遊は首を横に振った。


「気にしないで、水華。水華は、ただ手紙を渡すように言われただけだよ」

「で、でも」

「というか、仮面エンジェルが言っていたことって、やっぱり手紙と関係していたみたいだね」


 つまり、迷惑とは玖絶が遊に対して迷惑をかけるということ。そして、見守っててというのは、これを知れば水華などが止めに入るかもしれないと予想してのことだったのだろう。


「どうするの?」

「……」


 正直、戦いたくは無い。能力者になって、強くなったとはいえ、相手はこの能力者社会の頂点とも言われる玖絶だ。興味を示してくれて、名指しで挑戦を突きつけられるなど、光栄なことだ。だが、能力者として一ヵ月半にも満たない遊が、勝てるのか?


「決戦は、明日。もう考える時間もないか……」


 今日は、金曜日。土曜は、明日だ。そして、今日も数時間しかない。そもそも、断ろうにも連絡先も書かれていない。元から、逃げることなんてできないようになっている。このまま無視をしたとすれば、玖絶が直接やってくる可能性が非常に高い。

 なにせ、名を知られているということは、調べれば通っている学校もわかってしまうのだから。それに、こんな機会はそうはないだろう。


「遊」

「遊くん……」


 二人から心配する視線を向けられる中、遊が出した答えは。


「僕は」



・・・・・



 当日の十三時五十分。遊は、旧東京都D地区の二番廃墟へとやってきていた。D地区は、本来一般人などは簡単には入ることはできない。今となっては、犯罪者の巣窟とも言われている場所だからだ。他にも、未知の要素がまだまだあると言われている。

 しかし、今日に限ってはいつも居るはずの警備の者達がどこにもいない。おそらく、玖絶がこの日のために何か手回しをしたのだろう。


「よう、随分とお早い到着じゃねぇか」

「遅れちゃったら、待ってる人に失礼だと思いまして」


 案の定、玖絶は先に来ていた。D地区の二番廃墟は、以前玖絶が犯罪者集団を一挙に捕縛したばかりの場所として有名だ。ここには、Aランクの犯罪者一人をリーダーとして、DからBまでの犯罪者達が、協力しあいながら住んでいたという。

 

「いい心がけだ。俺も、一日半ぐらい待ってから、退屈でしょうがなかったんだよ」

「い、一日半!?」


 食べ終えたパンの袋を丸め、ポケットに突っ込む。一日半ということは、先日から待っていたということになる。嘘を言っているようには見えないし、彼ならば本気でやってみせそうで、否定ができない。


「んぐっ、んぐっ、んぐっ、ぷはぁ! さあ、二色遊。ここに来たってことは、挑戦を受けてくれるってことでいいんだよなぁ?」


 缶ジュースで、喉を潤し、楽しそうに笑みを浮かべて缶を握り潰した。


「……はい」


 どうせ、逃げられないようになっていた。だったら、挑戦を受けたほうがいい。それに、能力者になってからと言うもの、純粋に強くなろうとしていたあの頃の気持ちを取り戻し始めてきていた。ただ、昔と違うところがあるとしたら、無能力者としての無力さを知ったことで、より誰かのために強くなりたいという心に開花したというところだろうか。


 この戦いで、将来的に自分がどこまで強くなれるのかわかるかもしれない。今まで、数え切れないほどの能力者に襲われては撃退してきた。昔からの遅れを取り戻すかのように、経験値を稼ぎまくった。しかし、Sランクの能力者とは一度も戦ったことが無い。

 だからこそ、ここに来た。


「いい面構えだ。覚悟を決めた顔してやがる。先に言っておく! 俺は、ただてめぇをぶっ潰すためにここに居る! 俺は強くなりたい。どこまでも、どんな奴よりも! それには、より強者と戦うことが必須だ。てめぇの未知の強さ……俺の糧としてやるぜ!!」


 どす黒いオーラが、玖絶を覆う。しかし、気持ち悪いというものではなく、気圧される力強いオーラだ。


「ふおお!? オーラで吹き飛ばされちゃうですぞぉ!?」

「ゆ、遊くん! 頑張れー!!」

「……そいつらは、てめぇの応援団ってところか?」

「あははは。一人で行くって言ったんですけど、どうしてついて行きたいって。なんか、すみません」


 こちらも案の定だが、水華と火美乃がついて来てしまっていた。玖絶にとって戦いの邪魔になるのではと思ったのだが、彼女達は断固として置いてけぼりは嫌だと言って聞かなかった。しかし、玖絶は軽く笑うだけで、気にしていないかのように遊へと向き直す。


「別に構わねぇよ。元々、見学客は居るんだからな」

「え?」


 どういうことだ? と、周りを見渡したところ。


「あっ」

「やほー、頑張りたまえー!」


 玖絶右後ろにある廃ビルのところに、一際目立つ見た目の少女がこちらに手を振っていた。


「か、仮面エンジェル!?」

「帰れって言ったんだがな……まったく、鬱陶しい」

「いえーい!! ゆーちゃん! くーちゃんなんかけちょんけちょんにしてやれー!!」

「るせぇぞ!! 黙って、そこで見てろ!!」

「いやん! くーちゃんが怒ったー!!」


 遊は、本物を始めて見たが、ノリが軽い。何か、火美乃に近いものを感じる。


「ほえ?」


 だが、今はそこを気にしている場合ではない。気持ちを切り替え、遊は大きく深呼吸をする。


「エヴォルチェ!!!」


 そして、変身起動呪文を叫び、光に包まれる。


「そいつが、てめぇの変身した姿か。マジで、女になるんだなぁおい」

「ですが、男よりもかなり強いですよ」


 光は弾け、少女の姿になった遊は、にやりと笑い構える。


「そうかい。まあ、そうじゃなくちゃ……」

「消えた!?」

「面白くねぇ!!」

「ぐっ!?」


 一瞬にして、背後に回りこまれたが、反応速度は負けていない。裏拳を、右腕でガードし、そのまま左手で玖絶の腕を掴み取る。


「せい!!」

「細い腕のわりに、力強い投げだ。見掛け倒しじゃねぇのが、わかって安心したぜ!!」

「ととっ!?」

 

 投げ飛ばされるも、すぐに体勢を立て直し、攻撃を仕掛けてくる。それとも回避し、今度はお返しにと背後へと回りこんだ。


「反応速度もいい! 俺が、一瞬姿を見失うほどの移動速度も!」

「ありがとうございます!!」

「こっちこそ、礼を言うぜ!!」


 拳と拳がぶつかり合い、衝撃波が生まれる。互いに、後方へと吹き飛ばされ、再び距離が離れた。


(いける。玖絶さん相手に、戦えてる)


 とはいえ、相手もまだ本気を出しているようには見えない。油断をしていれば、重い一撃を食らうことになるはずだ。


「遠慮なんてするなよ? 俺も、遠慮なんてしねぇ……マジで、いくぜ!! はっはっはっは!! 予想以上の強さだなぁ!! 二色遊!!」


 先ほどのぶつかり合いで、玖絶は更に高揚したようだ。どす黒いオーラが、大きくなり、まるで意思を持っているかのように、玖絶に巻きついていく。


「死ぬんじゃねぇぞ?」

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