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光と闇のファミレス

「くっくっく、殺気もねぇ、見た目はただのガキのくせに。あれだけの戦闘力があるっつーのは、マジで笑えるぜ」


 とあるファミリーレストランにて、玖絶はコーヒーを注文し、先ほど購入した漫画を片手に、にやりと笑みを浮かべる。ディスタには、近づくなと言われたが、我慢できず一目見るだけということで、行く先を聞き、見てきた結果……かなり上機嫌な様子。

 変身前の遊は、玖絶から見たら、ただの子供だろう。しかし、ディスタに見せられたデータを思い出すと、それも全て吹っ飛ぶ。


「しかも、まだまだ伸びるってんだから」


 楽しみでしょうがない。何の興味もない漫画を買ったが、これも相手の目を欺くため。だが、読んでいけばなかなか楽しいものだ。

 空いている左手で、コーヒーカップを手に取る。


「よいしょっと」

「……てめぇ、何のようだ?」


 そんな時だった。当たり前のように、正面に座る人物を玖絶は睨む。全身真っ白な軍服のような格好をし、顔を仮面で覆っている紅のツインテールの少女。

 何か騒がしいと思いきや、そういうことだったのかとコーヒーカップを置く。


「何とはなによー。皆のアイドル仮面エンジェルちゃんが、来てあげたのにー。ぷんぷん!」

「うっぜぇ。俺は、てめぇのことが嫌いなんだよ」


 二凶と対を成す光の使者二天の仮面エンジェルだ。見た目は、可愛い女の子なのだろうが、顔全体を仮面で覆っており、素顔はわからない。とはいえ、その人気は圧倒的だ。

 その証拠に、周りは更にざわついている。


「おい、あれって二天の仮面エンジェルじゃないか?」

「うわ、本物かよ。生で見る初めてだ、俺」

「しかも、一緒に居るのってやっぱり二凶の玖絶だよな……ちょっと、写真撮ってみるか?」

「ば、馬鹿! やめておけって!」


 周りの客の反応を見て、玖絶は舌打ちをする。


「だから言ったんだよ。てめぇのせいで、大騒ぎじゃねぇか」

「えー? 私のせいにしちゃうの? くーちゃんだって、大概有名人じゃーん。あっ! 店員さん。私、ホットココア!」

「は、はい! かしこまりました!」


 たまたま近くに居た店員にホットココアを注文し、仮面エンジェルは玖絶と再び向き合う。


「いつまで俺の目の前に居るつもりだ? さっさと消えろ。戦いてぇってんなら、やってやるぜ?」

「ぶー! くーちゃんと戦うのなんて、疲れるからやだよー! それに、私ってば正義の味方だから! 正義のためじゃないと戦わないのー」

「けっ! だったら、さっさと消えろ。それと、そのくーちゃんっつーの止めろ」

「可愛いからやだー」


 まるで子供のような仮面エンジェルの態度に、苛立ちが増すばかりだ。玖絶にとって、彼女のような性格は苦手中の苦手。そのため、一緒に居るだけでも苦なのだ。


「結局てめぇは、何しに来たんだよ。ただ俺に会いに来ただけじゃねぇんだろ?」

「え?」

「……まさか、本当に会いに来ただけってんじゃねぇだろうな?」


 そうだとしたら、そろそろ手をしてしまうかもしれない。玖絶が、彼女のことを嫌いなのは、彼女自身もわかっているはず。

 それなのに、突っかかってくるとしたら、嫌がらせをしているに違いない。


「じ、実は……」

「……」

「おっと」


 わざとらしくもじもじしていた姿についに手を出してしまう。飲んでいたコーヒーを容赦なく仮面エンジェルへ向けて、かけた。

 しかし、仮面エンジェルもそれを予想していたかのように、通り掛った店員のおぼんを奪い取りガードする。


「もう、女の子相手でも容赦ないなぁ。あっ、店員さん。ごめんね? テーブル汚れちゃった」

「い、いえ。今、お拭きいたしますね」


 テーブルに広がるコーヒーを店員が拭き取った後、別の店員がホットココアを持ってくる。一度、喉を潤し、ほっとしたところで、仮面エンジェルは玖絶に告げる。


「くーちゃん。彼と戦うなら、気をつけたほうがいいよ?」

「何のことだ?」

「ディスタから聞いたよ。くーちゃん、二色遊と戦うんだって?」

「ああ。今にでも戦いてぇが、あの仮面女が時を待てってうるさくてな……って、今思えば、俺の周りにはなんで仮面を被った女ばかり寄ってくるんだか」


 ディスタしかり、目の前の仮面エンジェルしかり。最近会ったまともな女と言えば、先ほどの本屋あおねの店員であるゆかりぐらいだろうか。


「モテモテー!」

「るっせぇよ。そんで? 気をつけろってのはどういうことだよ」

「彼の力は未知数なんだって。くーちゃんってば、戦いを楽しむ癖があるから、その時に何かしらあってやられちゃうんじゃないかなーって」

「戦いは、楽しむもんだ。俺の戦い方に、口出しすんじゃねぇよ」


 と、もう仮面エンジェルと話すことはないとばかりに漫画に視線を移す。だが、仮面エンジェルはまだまだ言いたいことがあるらしく、口を閉ざさない。


「だってさ……もし、二凶であるくーちゃんが元無能力者にやられちゃったら、世間はどうなっちゃうんだろうね?」

「……俺が、そう簡単にやられるかよ」

「だよねぇ。まあ、くーちゃんなら心配いらないよね。じゃあ、私は正義のお仕事があるからこれでー。んく! んく! ぷはー! じゃあねぇ!!」


 ホットココアを一気飲みし、そのまま去って行く仮面エンジェルを見て、玖絶は漫画を置く。


「あの仮面女……煽るだけ煽って帰りやがった。たく、女ってのはマジでわからねぇな」


 ここもかなり騒がしくなってしまった。玖絶は、静かな場所を求め、ファミリーレストランから早々に出て行く。

 

(そういえば、二色遊が変身した姿も女だったな……まあ、俺は女だろうがなんだろうが)


 ぐっと拳を握り締め、止みかけの空を見上げる。


「強ぇ奴なら、容赦しねぇけど」



・・・・・



「ゆ、遊くん! 遊くん! 見てくだせぇ!」

「どうしたの?」


 あおねで漫画を買い、さっそく読んでいた遊へとそのまま遊びに寄っていた火美乃が大慌てで、呼びかける。水華は、母親の手伝いで遅くなるそうだが、終わった来るそうだ。


「今ね、駅前のファミリーレストランで、二天の仮面エンジェルが悪崎玖絶と一緒にお茶してたんだって!」

「え!?」

「ほら! これが証拠だよ!」


 火美乃が自分の携帯電話を突きつける。写っていたのは、仮面エンジェルと玖絶が一緒のテーブルに着いている光景だった。傍から見ても、楽しそうにしているようには見えないが、この組み合わせはまたネットを騒がせるだろう。


「あっ、しかもこの漫画」


 小さく、結構ぶれているためよく見えないが、玖絶が持っている漫画は、ゆかりが言っていたように遊と同じ漫画だった。


「この後、仮面エンジェルに容赦なくコーヒーをかけたとか!」

「え!? それって、本当のことなの?」

「証拠はないみたいだけど、本人がそう呟いてるからねぇ」

「本人?」

「これ」


 再び火美乃の携帯電話を見ると、仮面エンジェルという名前で呟いているアカウントが表示されていた。そこには、くーちゃんにコーヒーかけられちゃったーとある。

 

「これ、本物なの?」


 よくSNSでは、同じ名前の偽者が多い。これが本物かどうか疑問な遊だが。


「本物だよ。だって、圧倒的にフォロワー数が違うもん」

「確かに……」

「いやぁ、それにしても仮面エンジェルも只者じゃないよねぇ。無言でいきなりコーヒーをかけられたって言うのに、おぼんでガードしたんだって」

「それはすごいな。でも、おぼんがなかったらどうしてたんだろ?」

「避けてたんじゃない?」


 さすがに、仮面を被っているからと言ってコーヒーがかかったら、服が真っ白なので、染みが着いてしまう。それに、コーヒーが広がる前に防がなければ、おぼんで防ぎきれず、結局かかってしまう。そう考えれば、火美乃の言うように只者ではない。

 

「避けても、コーヒーが広がったら、かかっちゃうような……」

「それに、座っているところにも落ちるかもだしねぇ。そうだ! 今から急げば、仮面エンジェルに会えるかも!! 駅前だから、走れば五分ぐらいってところかな?」

「え? 今から会いに行くの? さすがに、どこかに行っちゃったんじゃないかな」

「そっかー、忙しい人だもんね。そうかもねー」


 それに、止んだと思った雨がまた激しくなり始めた。今から出て行くのは、止めたほうがいい。


「あっ、水華からだ」

「なんてなんて?」


 そろそろ手伝いを終えて、こっちに来る頃だろうと思っていたところ水華からメールが届く。確認すると、どうやらもうちょっとかかりそうとのことだ。


「仕方ない! この火美乃さんが手伝いに行こうじゃないか!」

「だ、大丈夫?」


 やる気は十分だが、火美乃だから少し不安になる遊。手伝いが、邪魔になるんじゃないかと……いや、さすがの火美乃でも、それはないか……。


「大丈夫大丈夫! 水華だって、早くこっちに来たいと思ってるだろうし。それじゃ!」

「う、うん。いってらっしゃい」


 勢いよく飛び出していく水華を窓から確認。傘も差さずに、激しい雨の中、突き進んでいく。家が隣とはいえ、さすがに傘は差したほうがいいと思う遊だった。

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