表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

21/32

視線を感じる

「あいつだろ? あの氷室を一撃で倒したって一年」

「ああ。しかも、素手で氷室の氷を砕いたって話だぜ」

「あれで、元無能力者って……」

「いやぁ、また一気に注目の的になってしまいましたなー遊殿」

「あ、あははは……」


 能力総合検査を境に、遊は更に注目を浴びることになった。上級生の中では、まだ弱いほうである集一であるが、それでも無傷で、更に一撃で倒したことから上級生からも注目されることに。ただこうして、廊下を歩いているだけで、視線が集まる。


「あの目は、もうなくなったけど。これはこれで、きついものがあるなぁ」


 前までは、仲間はずれ。部外者を見るような目ばかりが集まっていたが、今では珍獣でも見ているかのような視線が自分に集まっている。


「それにしても、先日の戦闘がネットで話題になっていたなんて……」

「水華のことも書かれてたよねぇ。まあでも、水華の場合は昔から注目されてたから、やっぱりかーみたいな反応だったけど」


 水華も、能力総合検査で上級生に勝利している。一年で、上級生に勝利したのは遊と水華の他にももう一人存在している。

 隣のクラスの生徒だ。


「火美乃ちゃんだって、いい感じだったんだけどなー。おしーなー! もうちょっと時間があれば、勝ててたんだけどなー」

「まあまあ、それでも火美乃だって教師の採点ではかなり優秀生徒だって言われてたぞ?」

「マジで!?」

「うん、マジマジ」

「まーじ!?」

「ま、まーじ!!」

「じーま!?」

「しつこいよ!!」

「えへへ、めんごめんご」


 こんなやり取りももう何度目か。しかし、それでも火美乃とは離れられない。彼女には、不思議なオーラのようなものがあり、子供とじゃれているみたいだ。落ち込んでいても、彼女と居ればたちまち元気になれそうな、そんなオーラが彼女にはある。

 ただ。


「まったくもう……毎度のことだけど、疲れるなぁ」


 その元気のよさについていけず、疲れることもしばしば。


「どったの?」

「火美乃の元気のよさは、すごいなーって」

「火美乃ちゃんの長所だよね」

「当然だよ!! 元気のよさだったら、誰にも負けないもんねぇ!!」


 自慢げに胸を張っていると、正面から篤が歩いてくる。


「三人とも! 能力総合検査の結果聞いたぞ! かなりの成績だったみたいじゃないか! 過去最高とか騒がれてるぐらいだぞ?」

「ありがとうございます、山岡先生」

「ふっ、だけどその中でもわしは最弱だがね……」


 確かに、火美乃の言っていることは間違っていない。


「こらこら、国枝。そう落ち込むな。お前もこれからこの学校で成長すれば、トップにだって立てるはずだ」


 篤は落ち込んでいると思っているようだが、遊は別に落ち込んでいないように見える。付き合いは、まだ一ヶ月ちょっとではあるが、火美乃のことはなんとなくわかってきた気がするのだ。

 

「あいー」

「二色、原田。これからも、頑張ってくれよ。お前達は、我が校の誇りだからな」

「はい、頑張ります」

「誇りか。なんだかむず痒いな」


 教師として言うだけのことを言い、去り際に遊の肩へと手を置き小声で呟く。


「まあだが、あんまり無茶はするなよ遊。姉さんも、心配するからな」

「ぜ、善処します」


 無茶をしないとは約束できない。今となっては、遊は常に狙われているのだから。



・・・・・



(無茶をするなって言われてもな……)

「おらぁ!! 行くぞ、人気者!!」


 時間は少し経ち、体育の授業。男女混合のドッジボールとなった。もちろん普通のドッジボールではない。この能力者溢れる学校では、能力を使ったスポーツなど当たり前となっているからだ。

 なので、炎を纏ったボールが飛んでくるなんていうのも普通。


「遊くん、危ない!!」


 遊へ容赦のないボールを水華は、水の塊を出現させそれをクッションに纏った炎を消火すると同時にキャッチする。


「大丈夫?」

「うん、大丈夫だよ。ありがとう、水華」

「おいおい! どうしたんだよ? 変身すれば、あんなボール余裕でキャッチできただろ?」

「出し惜しみしてると、怪我じゃすまないぞ!!」


 人気になったことで、こうやって嫌がらせのようなことをしてくる者達も多くなってきた。彼らの言うように、変身をすれば炎を纏っていたとしても余裕でキャッチできただろう。しかし、それじゃだめなんだ。


(変身しなくても、能力者に対応できるぐらい鍛えないと。またあの時みたいに……)


 とは思っているものの、素手で炎を纏ったボールをキャッチすれば、普通に考えて焼けどしてしまう。能力に耐性のある素材で作ったグローブなどを装備していれば、問題はないが、今はそんなものはない。それぞれ自分の能力を使えば、どうにでもなるからだ。


「貸して、水華」

「え? うん」


 水華がキャッチしたボールを受け取り、遊は相手側を見詰める。そして、一番近くに居て先ほど馬鹿にしてくれていた男子生徒へと投げる。


「馬鹿め! ただのボールになんて当たるかよ! こんなもの俺の砂の壁で!」


 砂を巻き上げ、壁で防ごうとする男子生徒。だがしかし、その前に隣に居る男子生徒へとカーブした。完全に油断していたようで、容易にアウトとなった。


「よし!」

「おまっ! なに当たってんだよ! 能力で防げよ!!」

「す、すまん」


 能力がなくとも工夫すれば子の通りだ。しかも、相手は完全に油断していたので、更にアウトにできる確立が高くなったのだ。


「遊くんすごい! 能力なしで!」

「これも、日ごろの特訓のおかげ、かな?」

「調子にのるなよぉ!!」

 

 一瞬余所見していたところに、砂を操る男子生徒が砂を纏わせ遊へと投げる。


「おっと!」


 が、遊のガードは硬かった。火美乃が炎を纏わせた右手で軽々とキャッチしてみせる。


「こらこらー、おだてられたからって油断しちゃだめだよ?」

「ご、ごめん」

「水華も、あまり遊を褒めちゃだめ! 遊ってば、褒められるとすぐ照れちゃうから」

「で、でも」

「……そい」

「ぎゃっ!?」


 これは驚きだ。遊と水華に注意しつつ、向きを変えずに男子生徒へとボールを当ててしまう火美乃。


「油断大敵だぜ!! はっはっはっはっはっ!!」

「せ、せこい」

「せこくないよ! これぞ、能力を使わずにボールを当てる方法のひとつなのだ!! さあ! さあ! ドッジボールはまだまだこれからだぁ!!」

「まるで、打ち切りみたいな言い方だね……」


 でも、ドッジボールは全ての選手がボールに当たるまで終わらない。少しは能力なしで戦えたので、そろそろ能力の実験を開始することにした。


「エヴォルチェ!」


 そもそもこれはスポーツだ。

 結局のところ、本当の戦いでないと意味が無い。


(なんだか最近誰かに監視されているような気がするから、余計に心配なんだよなぁ)


 まさかとは思い、視線を感じたところへ飛び出したところ、カメラを構えた者が居たのだ。なんと、あの魔法少女的な映像を作った本人。

 

(あれで、視線を感じることなく過ごせると思ったんだけど……)


 気持ち悪く、纏わりつくような視線が時々だが感じる。捕まえたカメラの男とは違い、居場所を掴めさせないようにしている。


「遊! 最後の一人!!」

「了解!!」

「こ、この! やっぱり強ぇ!? うわああっ!?」


 最後の一人をアウトにし、一息つく。


(まあだけど、今のところは襲ってくるような感じじゃないし……大丈夫だよね?)

「ところで、遊の変身って便利だよねぇ」

「え? なんで?」

「だって、変身したら姿だけじゃなくて、格好まで変わるって」


 今の遊の姿は、制服ではなく、この状況にあった体操服となっている。このことから、遊の変身は女になって身体能力が向上するだけではなく、状況に合わせた格好にもなるのかもしれない。

 こんなところで、新たな発見があるとは思わなかった。


「ハッ!? てことは、遊ってば着替えいらず!?」

「え? どういうこと? 火美乃ちゃん」

「だって、状況に合わせた服になるってことは、その場で変身さえすれば! 例えば、海とかプールで変身すれば、水着になるってことじゃないですか!!」


 だがしかし、それは女性のものになるわけだ。戦闘以外で変身するのは……と遊は火美乃の発想に頭を悩ませるのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ