年相応になった?
本日二話目!
さすがに、部屋の中はかなり綺麗だ。これもゆかりが模様替えをしたおかげなのか? 外観からは、想像もつかないほど、整った家具の配置と綺麗な壁だ。女性の部屋としては、若干寂しいところもあるが、一人暮らしの部屋ならば、これが当たり前なのだろうと遊は納得しつつ、まずはゆかりを床に下ろす。
「敷かせてもらいますね?」
部屋の隅っこに綺麗に畳んで置かれてあった布団を発見。一言ゆかりに断ってから空いているところに敷き、ゆかりを底へ移動させて寝かせた。
「ありがとう。おかげで、助かった」
「いえ。でも、本当に大丈夫ですか?」
まだつらそうな表情をしているゆかりを見て、遊は病院に行ったほうがいいんじゃないかと考えるも、首を横に振って制す。
「これも能力の反動、みたいなものだから」
「能力の?」
強い能力には、反動を受ける者達も少なくは無い。例えば、熱を操る能力者の場合は、使い過ぎると一時的に体温が下がってしまう。
例えば、音速で移動し過ぎると、筋肉痛になり、一時的に動けなくなるなど。能力者も万能ではないのだ。どんな能力も使い過ぎると、体にダメージを与えてしまう。そのため、学校などではその調整についてなども厳重に注意し、学ばせている。
「そう。君に会う前に、ちょっと無理しちゃって」
「ゆかりさんの能力って」
「秘密」
これも反省すべきところだ。普通に考えて、そこまで親しくない者に自分の能力をやすやすと教えるわけがない。少しだけ親しくなったところで……これが現実だ。
「すみません。じゃあ、頭痛薬とかは」
「そこの棚の上に薬箱があるから」
「わかりました」
ゆかりが指差す棚へと向かう途中、遊は隣の小さな棚に置かれている写真盾に目が行く。
「それは、だめ」
「わっ!?」
予想はしていたが、やはり見てはいけないものだったらしく、ゆかりが手をかざしたと思いきや、写真盾が急に倒れる。
日差しの反射でよく見えなかったが、念のためゆかりへと視線を向ける。
「……み、見えた?」
「い、いえ」
案の定、怒っていた。こんなゆかりの表情を見たのは、初めてだったので遊はまたやってしまったと三度目の反省をして、薬箱を頭痛薬を取り、コップに水を汲んでゆかりに渡す。
「んぐっ……」
「さっきはすみません。勝手に部屋のものを見ようとして」
「いいの。そうなることを覚悟で、君を部屋に入れたんだから。これは、私の失態。それよりも、君。さっきから謝ってばかりね」
「す、すみません」
「ほら、また」
「あっ……」
ゆかりの言われるまでもなく、そう思っていたが、どうも反射的に口から出てしまう。女性との二人っきりの対話のため緊張しているのか? これもまた人付き合いを避けていた弊害なのか……。
「なんだか、能力者になってから弱弱しくなった」
「弱弱しく?」
それは、どういう意味だろう?
「最初、君を見た時は、神経を研ぎ澄ませて、周りを寄せ付けないようなオーラを放ってた」
「……」
忘れるはずがない。無能力者だった頃の遊は、無能力者なりに周りから舐められないようにいつでも神経を研ぎ澄ませ、人を寄せ付けないようにしていたが、まさかゆかりにもわかられていたとは。今思えば、慣れないことをしていたと恥ずかしくなってくる。
「それが、能力者になってからは、年相応……ううん、ちょっと幼い感じになってる。もしかして、あの時のお友達のおかげ?」
「ま、まあ……そう、ですかね」
更に追撃をかけるかのように、淡々と遊へと言葉という攻撃を仕掛けてくる。
(幼い……幼いかぁ……)
自分では、そう思っていなかったが、周りから見たら子供みたいに見えているのだろう。今までが、今までなために、無意識にそうしていたのか?
「どうしたの?」
「い、いえ」
年上から見たら、自分は幼いのだろうが、男としては少し複雑だ。
(というか、今は半分男で半分女なわけだからぁ……なんだか最近は、変身して過ごすのが多くなってきているような気がするし)
それもこれも、ネット民が馬鹿騒ぎをしているせいだと遊は頭を悩ませる。襲われるようになってからは、今まで以上にネットの反応を気にするようになった。その理由としては、自分が襲われる度に、相手を撃退する度に、新たな情報が音速の如く拡散していくからだ。この前など、魔法少女遊ちゃん! などというタイトルで、変身する時のところを色々と加工された動画が投稿されていた。
無能力者の時など、一度騒がれてからは、徐々に終息していき、見かけられた時だけ陰口を言われたり、睨まれたりするだけだった。
それが、こんな能力を得てからは、どういうことなのかどんどん情報が拡散していき、有名人になっていく。ある者は、その圧倒的な強さを求めて。またある者は、その容姿を求めて……。最近では、一緒に行動している水華や火美乃までが、巻き込まれている始末。このままでは、やっと落ち着いた日常が、おかしくなってしまう。
(今後は、変身を極力抑えて、男の姿でも戦えるように鍛えないといけないかな)
「おーい」
「え? あ、はい。なんでしょうか? ゆかりさん」
また考え事をしてしまっていた。呼びかけてきたゆかりの顔は、最初よりは大分よくなったのか。いつもの落ち着いた表情になっていた。
「悩みがあるなら、聞くけど」
「あー……っと」
「まあ無理にとは言わない。ただ、自分一人で悩みよりは、誰かと一緒に考えたほうが楽になるってことだけは、覚えておいて」
「わかりました。あれ?」
ゆかりから、アドバイスを貰ったところで、携帯電話が鳴り響く。画面に表示された水華の名前と現在時刻を見て、遊はぎょっと目を見開く。
「す、すみません! ゆかりさん! 僕、そろそろ」
「別にいい。用事があるなら、そっちを大事にして。私は、もう大丈夫だから」
見た感じが、大丈夫だが、薬を飲んだからってすぐよくなるわけじゃない。無理をしているのかもしれないが……。
「はい。それでは、失礼します」
「うん。今日は、助けてくれてありがとう。今度は、本屋で」
「わかりました。では、また今度です!!」
いまだ鳴り響く携帯電話を手に、遊は急ぎアパートから出て行く。そして、すぐ通話ボタンを押し、右耳に当てようとするも。
《こらー! 遊!! なんですぐ出ないんだよー!!》
「なんで火美乃が水華の電話から……」
《遊くん! だ、大丈夫? また襲われたりしたの?》
《やはり、我らが共に行動しなくてはならないのではないでしょうか? 軍曹殿》
《そ、そうでありますね!》
なんだかんだでノリのいい水華である。本来ならば、もう帰宅している時刻。案の定、二人は心配になって電話をかけてきたようだ。
ゆかりとの会話に夢中で、すっかり忘れていた。それもそのはずだ。彼女とあんなにも話したのは、これが初めて。緊張はしたが、初体験だったため嬉しかったのだろう。こうして、二人から電話がかかってくるまで、忘れていたのだから。
「ごめん、二人とも。すぐ帰るから」
《ならば……今から五分以内に帰ってこないと!》
「帰ってこないと?」
《ひゃっ!?》
《水華の体が大変なことになるぞよぉ!!》
「……りょ、了解です」
これは、真面目に早く帰らなくてはならないようだ。水華の色気のある声が響く中、そっと通話を切り、一目散に走り出す遊。
あの火美乃ならば、何をやるかわからない。水華の安全を守るため、いつも以上に急がなくては、と。




