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三人仲良く

「ふっふっふっふ、さあ遊。あたしに全てを委ねるのです」

「あ、あのさ」

「大丈夫、お姉さんに全て任せなさいさい」

「だからさ……」

「あわわわっ!?」

「さあ! いざぁ!!」

「いざぁ! じゃないって!! いきなり変身してって真剣に言うから、何をするかと思ったら……」


 どこまでも広がる青空の下、遊、水華、火美乃の三人は屋上に集まっていた。それは、突然の出来事。火美乃が真剣な表情で変身してほしいと言ってきたので、遊も友達として役に立てればと変身したまではよかったのだが。


「なんで、制服を脱がそうとするわけ!?」

「君の体をじっくり見たい」

「何ちょっとイケメンっぽい声音で言うんだよ」


 なぜか押し倒して、服を脱がそうとしている火美乃。遊も、抵抗しているのだが、火美乃は全然やめる気配がなく、一緒についてきた水華も顔を赤くしてただただ見ているだけだった。


「まあまあ、いいじゃないのさ。女の子同士なんだし」

「僕は男です」

「でも、今は女の子でしょ?」

「確かに、そうだけど……と、ともかく! なんで脱がせようとしてるのか、理由を教えてよ! じゃないと、ただ服を無理やり脱がせようとしている変態にしか見えないよ!?」


 なんとか説得しようと叫ぶ遊だったが、その慌てようが逆に火美乃のやる気に火を点けてしまったのか。先ほどよりも、力強く、それでいて滑らかに服を脱がせようとする。


「なんで!?」

「その恥ずかしそうにしている表情に、そそられた!!」

「だから!! ちょっと! 水華も見てないで、火美乃を止めて!!」

「え? あ、はい! ひ、火美乃ちゃん? 遊くん、嫌がってるから。ちゃんと理由を説明しないと」

「……ふむ、仕方ないにゃあ」

「まったくもう」


 水華の説得もあり、火美乃は一度引いてくれた。乱れた服装を整えてから、遊はどうしてこんなことをしようとしたのかという理由を聞く。


「つまりね? 変身後の遊が着ている制服とか下着に興味を示したわけだよ」

「なんで?」

「だって、変身したら自動的に生み出されたものだよ? 普通じゃ考えられない製法で作られたものなんだから、興味を示さないわけないじゃん!!」


 確かに、火美乃の言うことはわからなくもない。遊が身につけている服は、変身すれば自動的に生み出されそのまま着用される。いったいどういう原理で作られているのか? どんな素材でできているのか? 気にならない言えば、嘘になる。


「だからと言って、何も言わず無理やり脱がせようとするのは、だめだと思うんだけど?」

「えへへ、つい。なんだか、こうしたほうがスキンシップとしていいかなーって。てへぺろ!」

「てへぺろって……随分古いものを」

 

 制服や下着を脱いだ後、元の姿に戻ればどうなるのか? という実験はまだやっていないため、後で試すことにしよう。


「もう用事が済んだなら、帰るよ」

「まだ済んでない! 脱がせてないもん!!」

「脱ぎません」

「じゃあ、あたしが!!」

「ひ、火美乃ちゃん! だめだよ!!」


 脱がないのなら、自分がと制服を脱ごうとする火美乃を水華が止める。そんな光景を眉を顰めながら見ていた遊は、あることを思い出す。


(そういえば、今日新刊の発売日だったっけ。帰りにいつもの本屋に寄ろうかな)



・・・・・



「おー、ここが遊の行きつけの本屋?」

「そうだよ。ちょっと行き難いところだけど、品揃えはすごいんだ」

「こ、こんなところに本屋なんてあったんだね。私、知らなかった」


 今大人気のライトノベルの新刊を購入すべく、行きつけの本屋あおねへと水華、火美乃を連れて訪れていた。


「それにしても、どうしてこんなところにある本屋に?」

「僕が、無能力者だった頃、普通の本屋とかに行くだけで、視線が集まってさ。他の店もそうなんだけど……なんだか購入しずらくて、ネットで購入するのも考えたんだけど。そんな時、この店を見つけたんだ」


 遊は、下手な有名人よりも有名人だったため、自然と視線が集まってしまう。ただ何かを買おうとするだけでも、まるで監視されているかのように。

 別に何も悪いことはしていないのだから、気にしないほうがいいと思ってはいるのだが、それでもあの頃の遊は、周りに迷惑をかけないようにと気をつかっていた。


「確かに、こういうところだとあまりお客さんとか来そうにないし、いいかもね」

「それに、ここで店員をやっている人がちょっと不思議な人でさ。僕が相手でも、平然と接客をしてくれるんだ」


 そして、いつまでも立ち話をしているのも時間がもったいないので、中へと入っていく。外装はかなり古びていたが、中は意外と綺麗だ。

 火美乃は、中も古びた感じだと想像していたらしく、はーっと声を漏らす。


「なんか、ここの雰囲気好きかも」


 近くにあった本を一冊手に取り、水華は小さく笑う。それはよかったと遊は相打ちをして、目的の本を見つけすぐレジへと向かう。


「いらっしゃい」

「こんにちは、ゆかりさん。これお願いします」

「ん」


 レジの傍に座っていたのは、薄い紫色の髪の毛の女性、琴浦ことうらゆかり。物静かな雰囲気で、赤いめがねをかけている。遊が持ってきた本を受け取りバーコードを読み取る。


「……あの」

「なに?」


 いつものようにお金を渡し、袋に入った本を受け取ったところで、遊は問いかけた。


「驚かないんですね、僕の今の姿見て」


 いつもは、男の姿で来ているが、今は安全面を考えて変身したままなのである。水華や火美乃が一緒のため心配することはないのだが、それでもあの時のことを考えれば、しばらくはこのままがいいだろう。


「別に。知ってるから」

「そ、そうですか」


 いつもと変わらない。自分が話しかけても、表情ひとつ変えず答え、何事もなかったかのように本を読み始める。

 

「……それでは」

「ん。またね」


 店員として、仕事で接している。そんな雰囲気があるゆかりに、遊は名残惜しそうにその場から去ろうとする。無能力者の頃から、何度か仲良くなれるかもと思っていたが、やはりそれは店員として、接していただけなのかもしれない。


「終わった?」

「遊くん、ここって本当に品揃えいいね! 私も今度からここで本を買おうかな」

「あはは、それはいいかも。ゆかりさんも喜ぶと思うよ」

「……ねえ」

「え?」


 帰ろうとしたところで、水華と火美乃の二人で会話をしていたところ、ゆかりが話しかけてくる。正直、驚いた。ゆかりのほうから、話しかけてくるなんて初めてだからだ。それに、遊のほうから話しかけたとしても、それは店員と客的な会話。


「その子達は、お友達?」

「は、はい。そうですけど」

「……そう」

 

 それだけを聞いて、また本へと目を落とす。いったい何を聞きたかったんだろう? 


「どうしたんだろう、あの人」

「……それじゃ、行こっか」

「うん。つ、次はどこに行くの? 遊くん」

「もー、水華ってははしゃぎ過ぎですぜ? そんなに寄り道をしたいんですかな?」

「そ、そういうわけじゃないんだけど……」

「まあまあ。次は、タイヤキとかでも買いに行こうか。この近くなんだ」

「おー、買い食いだね。よろしー! 熱々なのを口にねじ込んであげよう!!」


 それはやめて……と、本気でやりそうな火美乃を抑えながら、本屋から離れていく。


(……なんだか、さっきのゆかりさん。ちょっといつもと違っていたような?)

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