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召喚士の嗜み【本編完結済み】  作者: 江村朋恵
【5th】the first kiss - Take it easy♪
121/180

(121)プロローグ~山下未来希II~



プロローグ

 おひさしぶりです。

 山下未来希やましたみらのです。


 4月の終わりに当時付き合っていた男と別れ、派遣先が潰れるという出来事がありました。

 その後、色々ありました。

 まさか自分の身の上に物語のような出来事が降りかかってくるとは、その時まで夢にも思っていませんでした。

 ──その7日間は今でも鮮明に覚えています。記憶に残っています。

 何度目かという就職活動をしなくてはならないと嘆息を我慢していた私は、白い光に捕らえられて異世界へと誘われました。

 私を“召喚”したのは、パールフェリカと名乗る少女で辿り着いた先のお姫様でした。

 あの白い光がパールの召喚士としての力であったと知ったのは……もう帰る間際の事です。

 本当に色々とあったのですが、結論として、あちらの世界とこちらの世界は霊界というもので根底では繋がっているらしいという事。

 こちらの世界の“神”については地域によって様々、多くの神話がありますので考えないとして、あちらの世界の“神”は唯一であるのは間違いなさそうです。

 あちらの“神”……アルティノルドの力は霊界を渡れないといいます。そうであるのならば、召喚士の力とは、一体何なのでしょう。

 あちらの世界には召喚術というものがありました。

 召喚士の力によって霊界への扉を作り“霊”を呼び寄せ、アルティノルドの力を代償にその“霊”に力を使わせたり、実体化させるというのが基本的なシステムです。

 アルティノルドは召喚士の力を“想い”の力──であるように言っていました。

 アルティノルドの力というものは召喚士の精神力を差し出して世界アルティノルドに満ちた力を抽出するらしいのですが。

 そんなものが“力”になるのであれば世界中の人々が何でも出来てしまう気がするのですが、そう簡単な話でも無いようで。

 あちらの世界で私が“やれば出来る”と思って行っていた事はこちらでは出来ないのです。

 唯一出来たのはあちらの世界へ渡る魔法陣を生み出す事。

 こちらの世界で具現化出来るのは、アルティノルドの力はありませんから、私の力、つまり召喚士の力であるという事になります。

 魔法陣を生み出すなど、こちらの世界では夢のような出来事。現実とは思えません。一体、この力は、何だと言うのでしょうか。

 霊界を渡れるという事とは一体……。

 ──こちらの世界へかえってきてから、私は就職活動に勤しみ、パールフェリカを見習って笑顔を上手に使い分けてみたのです。それが功を奏したのか7社目の面接で成功しました。このご時世、とてもラッキーだったと思います。

 上手にと言っても最初の内は慣れず誤解を生んでしまい、後始末にまだ追われていますが。

 具体的には例の“片想い”による告白を片っ端からお断りするという、相手の方に対しては大変失礼な……作業です。

 上司の誘いを断る時ほど面倒な事はありませんが、自分が振りまいてしまったツケなので仕方ありません。

 パールフェリカには身分という大きな盾があり、私にはそんなものが無かったという事を忘れていたのです。

 上司は既婚者ですから、泥沼化だけは絶対に避けたいところです。また、年下の先輩同僚というのも扱いがとても難しいというのに、最初に無理に愛想を振りまいてしまい、最初の1ヶ月目は本当に苦労をしました。

 自分の行動に責任を持つという信念を貫く事がこれ程苦痛だったのは初めてでした。

 私一人の事ではなく、相手の気持ちがある事ですから……──もう会うまいと決めているあちらの“彼ら”の顔がちらついてしまって、どうしたら良いのか困ってしまいますから……。

 彼らには会わないと決めてはいますが、休みの度にあちらの世界へ散歩に行ったのはそんなストレス発散の意味もあったのです。

 今は仕事にも大分慣れてきたので、お盆休みも近い事ですし、お金を使わずに小旅行が“楽しめる”のではないか、会社の人たちからの電話攻撃からも逃げられるのではないかと期待をしています。

 休養は、必要ですから。

 最近は休みの日になるとあちらの世界のどこに行こうかと転々と見て回っていたのですが。

 そう、8月になったばかりの日曜日の今日もそのつもりだったのです。

 あちらも暑くなってきましたが日本の蒸し暑さとは違います。素敵な避暑地です。涼しげな装いで気分転換を図るつもりでした。

 髪は左耳の下あたりでまとめて、その先をエアリーに巻きました。黒髪は重くなりがちですから。

 上着はレースブラウス。7分袖の袖部分は丸い薄いレースが何枚か重ねて長さを形作っています。レースの厚みの違いで肌の透け具合が異なって、そこに風が吹き込んだ時の新しいグラデーションの透明感の変化が私には無い動きという要素を見せてくれて素敵です。

 純白レースは細い糸に細かい目地で透けやすいものですが下地の服がアイボリーで下着が透ける事はありません。

 広めの襟ぐりや胸の下のライン、裾に絞りがあってエレガントでありながらアクセントで、やはり私には縁遠いキュートな女性らしさも垣間見える雰囲気です。

 下はミントカラーに花柄がプリントされたサテンティアードスカート。上着のレース部分と同じように3層長さを変えて、動きを魅せてくれます。着丈は膝上。サテンの軽やかさが暑さを軽減してくれる点がポイントアップに繋がっています。

 ふわふわの服と来て、素足に黒のグラディエーターサンダルががっちりと受け止め、文字通り地に足を付ける感じです。全体を統一、まとめに黒い石のついた多層ながら軽いゴールドのチェーンネックレス、ブレスレットとアンクレットもシンプルなもので。服に合わせて目元のメイクが通勤モードより少しだけ濃い目です。光沢よりもウェット感のあるグロスを選んでみました。

 おしゃれを装いつつ服は全てニッセンです。安くて種類が豊富なところが好きです。

 6畳間の真ん中に立ち、行楽気分一杯であちらへ渡ろうとした、その時。


 ──ピンッポーーン。ピンポピンポピンッッポーン。


 呼び鈴です。この鳴らし方には覚えがあります。

 ですが私の足元には既に七色の魔法陣が浮かび上がっています。居留守をしようと決めた時。

 がちゃがちゃっとドアノブが揺れました。開錠の音と同時にドアが開き、玄関の水色のカーテンを揺らしました。1Kですので6畳間からすべて見えています。

 現れた男に、私は当然見覚えがあります。

 忘れていました。

 異世界へと“召喚”された経験から、親しい人に鍵を渡すようにしていたのを。

 彼は酷く驚いた顔をして靴も脱がずに──。

 やれやれ……。

 なんだか、少し、困りましたね。

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