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市街地奪還作戦 3

伊達市北方 20連1中隊

 桃陵中付近に進出した20連隊が敵集団と接敵し交戦。攻撃班の1/2tトラックは搭載している50口径で制圧弾幕を展開しながら先行した。まず桃陵中を掌握して中隊本部を立ち上げるのが第1目標である。

 田園地帯なので見通しは良いが人間の腰より低い高さの生物を見つけるのは意外と苦労するのを全員が思い知った。地形によっては全く見えなくなる上に草木や地形を伝って至近へ現れる事も屡々である。隊員たちはその度に89式をフルオートで掃射したため弾薬の消費が幾分か激しい。徒歩行軍であるのも緊張感を高める要因だ。このままでは桃陵中へ辿り着く前に部隊が弾切れを起こしてしまう可能性が出て来た。

 中隊長は予め追従していた補給班を前へ出すと共に両迫撃砲陣地へ支援を要請。周辺の生物を可能な限り掃討して貰ってる間にある程度でも弾薬の補給を済ませて、今よりマシな状態で桃陵中に進む算段を組み上げる。

 81mmと120mmの炸裂する音が響く中で行われる補給作業。装填が終わっている弾倉と撃ち切った空の弾倉を手早く入れ替えマガジンポーチに詰めていく。空になった物は補給班が持ち帰って弾込めし次の要請に備えて保管する。攻撃班の各車とも50口径はまだ余裕があった。ミニミは距離の関係で1発も撃っていないしてき弾も出番が来ていないので補給は小銃用の弾だけでいい。

 着弾音が20回を越えた所で補給中の各隊から近場に居る生物は殆ど居なくなったと報告が入り、中隊長は射撃陣地に中止要請を送った。

「どんな感じだ」 

「至近の敵生物は粗方蹴散らしました。桃陵中へ向けて強行突破も可能ですが」

「攻撃班が一番乗りしても内部検索は出来ない。纏まった状態で行かないと確保した事にはならないぞ」

 伊達市北方にある食品メーカー工場の敷地に仮設中隊本部を設けた1中隊は着弾があった一帯を情報小隊分遣班が持つドローンで偵察。小さいクレーターがあちこちに出来ているのが分かる。

 迫撃砲による射撃で生物集団は大きな損害を受け、直上で炸裂する砲弾によって四散した姿が映像に収められていた。しかしこれで万全の状態になる訳ではない。それは仮に相手が人間であっても同じだ。殲滅しようと思ったらどれだけ撃っても足りない。

「こちらガン1、ミヤギノハギの支援が必要であれば向かわせる」

「視認出来る範囲でやって貰えると有難い。赤い煙幕の周辺に部隊が居るので注意願う」

「了解。進出させるがアドニスはどうする」

「2中隊へ差し向けてくれ。こっちは桃陵中を掌握出来れば第1段階が終わって少しは余裕が生まれる筈だ」

 待機中のミヤギノハギ7及び8が低空で進入を開始。ドローンは衝突の危険があるので退避させた。アドニスは第2中隊の支援へ向かわせるためガン1からノスリ2へ要請を出す。

 前線で補給中の部隊は命令通り自分たちの周囲に目印となる煙幕を炊いて存在を誇示する。その周辺を避けて50口径が地上掃射していった。

「各小隊状況送れ」

 小隊長たちから補給作業が完全に終了した旨の返答が届く。部隊は前進を再開。桃陵中までは残り数百メートルだ。

 約10分後。桃陵中の正門を開けて攻撃班が先頭となり校庭に展開中との連絡が入る。それから敷地内の安全確保と内部検索が終わるまで1時間程度を要したが無事に掌握出来た。仮設本部も前進し桃陵中へ本部を立ち上げる事に成功。市内を斜めに突っ切る349号線から北側をこちらの制圧下とするため次の行動に移るがその前に小休止を挟む。

 

 同時刻。隣の地区へ進出していた2中隊もまた、住宅地に潜む生物集団と接触していた。こちらも1/2tトラックによる攻撃班が前衛だ。

 近付くに連れて増えていく一般家屋。そして民家の隙間から姿を現す生物との不意遭遇戦。距離の関係で50口径が間に合わない時はミニミが制圧する。22口径の雨を浴びた生物は穴だらけにされ、アスファルトに体液を撒き散らしながら次第に動かなくなっていった。

 そうして数が増え出す死骸を民家の塀に押し退けたり道路外に蹴り出して部隊は進む。

 これを繰り返している内に問題となって来たのが進みの遅さだ。今居る場所は22即機2中隊の居た住宅地と違いそこまで家屋が密集した場所ではないものの、中途半端に視界が開けているため警戒の意識を遠近どちらに集中するべきかが隊員たちの意識を惑わした。

 監視の目が多いにも関わらず不意遭遇戦が絶えない原因もこれが大きい。

 しかしまだ進めてはいる。もう少し先は完全な住宅地となるのでそこからは苦戦が予想された。

 1中隊が桃陵中掌握を目標としていたのと同じく、2中隊は自動車学校と至近にある病院及びコミュニティーセンターを掌握して中隊本部と生存者及び遺体集積の場所を設ける事が最優先事項だ。

 加えて22即機が居る保原小とを線で結び制圧下のエリアを一気に増やすのが可能であれば今日中に消化したい行程である。

「アドニス3から20連2中、支援の用意があるが状況は」

 消防団の屯所を拝借して作られた仮設中隊本部へ助け船とも言える声が届いた。

「2中隊よりアドニス3、自動車学校周辺の敵掃討を頼みたい。加えて自動車学校から北西方向の住宅地を偵察し可能限り情報収集もしてくれると助かる」

「誤射を避けるため中隊指揮所の場所を知りたい」

「こちらは消防団の屯所。詳細に言うと第5分団第7部の屯所で指揮を執っている。各小隊は介護施設がある道路の一歩手前まで進出中」

「了解。自動車学校周辺の敵掃討及び北西方向の住宅地に対する偵察を実施する。アウト」

 桃陵中に近付いていたアドニス3と4は左に旋回し保原自動車学校へ向けて前進。3が掃討、4はFLIRを用いた偵察行動を開始した。

「こちらアドニス4、何軒かの家に熱源を感知、逃げ遅れと思われる。生物が侵入している家も多数。屋外を移動中の生物は計10体前後、そちらの進行方向に対して10時から2時の範囲に確認した。前進に伴う排除は問題ないと思われるが内部検索も実施するならちょっと話が変わって来る」

「自動車学校の掌握を最優先にする。一般家屋の内部検索はその後だ。逃げ遅れの居る家屋だけ位置を指定願う」

 20mm砲弾がバラ撒かれる光景を横目にアドニス4は逃げ遅れらしき熱源が感知された家屋の詳細な位置を中隊本部へ送り続けた。自動車学校周辺の残敵掃討も程なくして終了。2中隊は一目散に突き進んで施設の内部検索を終えて安全を確保し、1個小隊を病院に差し向けた。

 無事に立ち上がった新たな中隊本部へ病院が掌握されたとの報告が入ったのは30分後。施錠がされていたお陰で内部に生物は存在しなかったそうだ。

 1個班は管理のためそこに残して小隊は本部へと戻される。

 続いて別小隊がコミュニティーセンターに向けて移動を開始。場所は自動車学校の北東だ。住宅が並んだ区画の向こう側である。

「……アドニスの報告にここは含まれてないな?」

「含まれてません」

 目的地のコミュニティーセンター前に到着した小隊長は施設正面の駐車場に乱雑に停められた車を見て小隊陸曹に問い質した。恐らく周辺の住民が逃げ込んで来た事が予想される。

 しかしアドニス4からの報告でここに熱源が存在するとの発言は記録されていない。

「油断せず万一に備えろ。前進」

 インターロッキングブロックで構成される敷地であちこちに見えるのは乾いた血痕。こちらに面したガラスの幾つかに残る赤い手形。89式を構える隊員たちの脳裏には中がどうなっているかなど簡単に想像が出来てしまった。

 同様の事を考えていた小隊陸曹は中隊本部に担架を要請。数は取りあえず10としておく。

 内部検索後、担架は更に10前後が必要となった。2中隊はここを遺体集積所に選定。中を少し綺麗にしてから回収した遺体を安置する。生存者は先に掌握された病院へ集める事も決定。

 アドニス4の情報を基に始まった家屋の内部検索はスムーズに進み生存者は20名を超える。病院が位置的には22即機が居る地点と近いため後送は向こうのWAPCを使って行われた。これで20連隊と22即機の展開地域が線で結ばれ市街地西方のエリアは大きくこちら側の掌握する所となる。

 また1中隊も小休止を挟んでから349号線北方の制圧を進め多数の逃げ遅れを保護し後送。市内北方を東西に横断する県道31号線及び伊達崎橋手前まで進出したがもうこの辺まで来ると穏やかな雰囲気が漂う一帯になってしまったのでそれ以降の前進は中止し桃陵中の本部へ戻った。


44連1・3・4中隊

 西側監視ラインの道を南下し予定通り変電所と上保原駅周辺の安全を確認した44連隊は市内に向けて伸びる県道4号線こと福島保原線を東進。満足な初期対応や避難誘導が出来なかった鬱憤を晴らすかのように敵集団へ向けて戦端を開いた。

 こちらは第4中隊のLAVが主軸になり県道4号と"青春夢通り"が接する交差点まで一気に突き進んだ。4中隊はこの交差点を固守し1中及び3中隊が周辺の制圧に乗り出す。

「ヨークベニマル保原店に避難していた住民30名弱、1個班の護衛を付けて後送します」

「幸楽苑保原店で逃げ遅れた住民及び従業員、合わせて11名保護、負傷者2名確認も意識あり。車両での搬送願います」

 踏み込んで10分としない内に続々と報告が飛び込んで来た。ここからもっと奥へ進めばそこは1つ目の生物集団が市街地に雪崩れ込んだ踏切である。

 4中隊が陣取っている交差点はその延長線上にあった。やはりこの周辺が最も逃げ遅れが多い場所らしい。屋外をウロ付いている敵生物の排除と救出活動が並行して行われる。細かい内部検索をするのは逃げ遅れが居ると判明している場所が全て終わってからの予定だ。

「北方より敵集団の数が増えつつあり。県道4号に沿ってこちらに向け南下中」

「ここで迫撃砲は厳しいか。中多にやって貰おう」

「構いませんが何所に照準器を」

「そこの洋食屋だ。角に出てる所の上が使える」

 交差点至近のウエルシア伊達保原店駐車場に中隊本部を構える4中隊長こと立枝3佐は最初から目星を付けていた場所を指示した。道路を挟んで反対側の角にある一軒の洋食店。2階建てだが一部分が建物からはみ出す作りになっている。その上になら照準器を置けると立枝は考えていた。中に失敬しなければならないがそれは仕方ない。どっちにしろ周辺の建物はいずれ全ての安全を確認しなければならないのだ。

「1個班を内部検索に当たらせて観測員があそこに照準器を置けるようにしろ。選抜は任せる」

「承知しました」

 副中隊長が交差点東方向を警戒している第3小隊から1個班抽出して洋食店の内部検索をさせた。その後で観測員も中に入り居住スペースとなっている2階のベランダ伝いに立枝が指示した場所へ到達。店の看板が横にあるも照準器を置くには十分な広さがあった。急いで準備を進める。

 解体して持ち込んだ地上布置照準器を組み上げ、北に向けて設置。電源を入れて機能が立ち上がるのを待った。

「準備よし!」

 下で終わるのを待っていた班長に声掛けすると直ちに射撃陣地へ要請が伝わる。44連隊本管の対戦車小隊が布陣しているのは399号線沿いにある木材加工会社の敷地内だ。

 指揮所に届いた要請によって1両のランチャーが持ち上がり、ヘルファイアにも似た形状のミサイルが1発飛び出す。市内を目指して一気に飛翔し照準器から送られる情報によって誘導を続け無事に観測員が示す地点へ着弾。爆発と同時に何体かの生物が上空に吹き飛んだ。着弾地点にはそれなりの穴が開くも事態収束後に直せばいい。家屋への被害も最小限に抑えられていた。

 最小限とは言うが窓ガラスは粉々になったか割れたかのほぼ2択だ。外壁は傷付いて様々な破片がめり込み、庭先の観葉植物なんかは焦げるか爆炎で消し炭になる。

 一軒全部を建て替える必要が無ければ御の字との扱いだった。

「次弾発射を要請。以後は着弾の報告を待て」

 2発目が発射された。さっきよりも少し北へ着弾。3発目も更に北へ着弾地点をズラす。これで県道4号を南下する敵集団は勢力を減退し前進が停止した。住宅地の中に姿を消していく。

「撃ち終わり。射撃態勢は崩さず待機願う」

 時刻は午後14時を少し回った。夜間の作戦行動は禁じられているため日没が18時前後とすれば残り4時間程度が活動限界だ。夜間は方面ヘリが交代で監視のみ実施。あらぬ方向に進出を図ろうとしている場合に限り50口径や迫撃砲を使用して叩く事になっていた。地上部隊も各地で掌握した施設に監視と通信の機能だけ残して一旦市街地から退避し休息を取らせる。

「第3中隊、交差点南方の踏切を起点に阿武隈急行西側沿線及び上保原駅至近までの内部検索を終了。工業地区周辺に現状は敵影なし。要救助者はダイユーエイト保原店にて待機中」

「こちら1中隊、えー現在地、西松屋伊達保原店の北にある東西を結んだ1本道まで進出」

「第4中隊はこれより県道349号線と接する交差点まで警戒しつつ前進。到達は敵の出方次第。抵抗が激しい場合は後退する」

「斎木から4中隊長立枝。手前にあるバス停までにしておけ。下手に入り込んで孤立すれば逃げられなくなる。いいな」

「了解」

 伊達体育館に陣取る斎木から条件付きで許可が出た。交差点までは幾分遠い。しかしさっきの中多による攻撃で斎木が言うバス停など消し飛んだ可能性もある。それを理由に前へ出続けてもいいが敵に包囲されるのは回避しなければならない。

「第3小隊まで前進。第4小隊は現在地を固守。バス停まで進むぞ」

 だが味方の損害はいつか出る。既に霊山町で仲間を1人喪っているのだ。これで臆病になり過ぎれば今後の作戦で尻込みし恐怖に打ち勝てない。

 自分たちが強くなるために1度は死線に近付く経験が必要だ。

「各2個班に分かれ左右を警戒。見つけたら構わず撃て」

 立枝は第1小隊長と共に歩き出した。中多の攻撃でアスファルトは抉られ下の土までが露出している。瓦礫と言える存在になったアスファルトの破片を踏みしめながら自らの行いで足元が悪くなった道を進んで行った。

 通りに入って数分後、1中隊が展開している西側から逃走を図って来た生物数体と遭遇しこれを射殺。

 続いて東側の住宅地から何体か奇襲攻撃のように出現して来るも排除。隊員数名が足に噛み付かれて引き摺られそうになるが全て退けた。

 高まっていく血中のアドレナリンを感じつつも何所か冷静なまま対処を続ける。

「バス停を確認出来ません、戻りましょう」

 進むに連れて当然だが遭遇する回数も増える。部隊の統制が取れている内に戻るべきと判断した副中隊長は立枝に進言した。

「やっぱり中多で吹き飛んだか……」

 斎木が言っていたバス停は既に存在しなかった。それらしき物も確認出来ない。だが丸くて何かしらの文字が見える焦げた鉄板が転がっている。これがバス停の一部かどうか分からないが、全員にある程度の経験値は溜まった筈だ。ここまでにしておこう。

「相互に連携しつつ後退! 警戒は怠るな!」

 先頭を進んでいた1小隊から後退。続いて2小隊、3小隊と互いを援護しながら第4小隊が居る交差点まで戻った。軽傷者8名となるも十分に動ける。半長靴が傷付いたのでこれは近い内に交換が必要だ。

「よくやった。得難い経験値だ。今後に生かす機会はまだまだあるぞ」

「せめて中隊長が前に出るのは勘弁して頂けますか」

「今回限りにする」

 その後、3中隊が保原駅に向けて沿線沿いを北上するも敵生物の数が多いため前進を断念。第4中隊が確保した交差点近くのウエルシアへ3個中隊の合同本部を設置した。日没が近付いたため作戦行動は中止。各所へ最低限の機能を残して部隊は西側監視ラインの広域農道まで後退。朝を待つ事となる。

年内の更新は最後になります。

宜しくお願い申し上げます。

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