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心技体

 心技体、心の試験は勇気を試すもの、技の試験は人心を得るもの、ならば体の試験はなんであるかといえば単純なものであった。

 十傑の中でひとりを指名し、そのものを打ち倒す、であった。

「単純にして明快ね、分かりやすくて助かるわ」

 とはマリーの言葉であるが、俺も同じ感想を持っていた。

 ただ、ひとつだけ過酷なところがあるとすれば、それは対決するものを挑戦者が選ばなければいけないことであった。

 十傑の中からひとりを選び、そのものを打ち倒さなければならない旨をアレフトは伝えてくる。

「そんな決まりがあったのか」

 軽くエレンを見るが、彼女はこくりと頷く。

「一応、誓約で言ってはいけない決まりでしたので黙っておきました」

「まあ、いいさ。ちなみに序列一〇位まで誰を選んでもいいのか?」

 エレンは首を振る。

「最近十傑になったものは駄目です」

「それが許されるのならば新入りを挑戦者に選ぶのが道理だものな」

「はい。当然ですが、十傑に勝利しなければ十傑にはなれません」

「ならば当然、序列一〇位を選ぶものが多いはずだが」

「一〇位は残念ながら欠番です。九位の私も先日なったばかりなので対戦不可です。私が対戦相手ならば〝便宜〟をはかれるのに……」

「誇り高きエスタークの娘がそんなことをいうものじゃない。それにおまえは兄上様を舐めすぎだ」

「兄上様ならば十傑の〝下位〟ならば一蹴できる、と?」

「ちょっと違うが、まあ、概ね合っている」

「しかし、それは十傑を舐めすぎです。この試験は遊びではありません。順位入れ替え戦も兼ねているのです」

「というと?」

「この試験は十傑の序列選定も兼ねているんです。もしも新入りに負ければ降格もありえます」

「十傑の順位は勝負によって決まるのか?」

「それだけではありません。組織に対する貢献度、序列上位からの信任、あらゆる能力が査定され、学期ごとに決まります」

「おめおめと新入りに負けたらマイナス査定ということか」

「はい。ですから私以外は本気で襲い掛かってくると思ってください」

「となると新入りとおまえ以外の人物、そしてなるべく勝てる相手を指定すればいいのか」

「はい。エンラッハさんとエルザードさんも選択できません」

「一〇位は欠番、九位、八位、七位も駄目」

「となると六位を選択するかい?」

 アレフトが穏やかな笑顔で尋ねてくる。

「六位はシスティーナだな」

「システィーナ・バルムンク、勝ち気な怪力娘。名うての大剣使いだ」

「システィーナ嬢ならば何度も勝利しています。彼女ならば勝率は高いけど」

「たしかに何度も決闘をしていて御しやすいが、彼女の腕前は日ごとに上昇している」

「負ける可能性もあるということですか?」

「それはない。しかし、選択肢から外したい」

 俺の目的は十傑の全員と手合わせすること。剣を交えれば相手の本質が分かり、犯人の目星が付けられる。システィーナの人となりは知り尽くしているので今さら剣を交える必要はなかった。

「ならば五位のヴィンセントかい? 先日、勝利したばかりだが」

「やつにも負ける気はないが、遠慮する。〝一度戦った相手〟は眼中にない」

「となると必然的に四位のマサムネになるけど……」

「そうだな、それがいい」

「正気かい? マサムネの抜刀術は飛燕すら打ち落とすよ」

「ならば三位のあんたでもいいが」

「おっと、それは困る。〝わずか〟でも負ける可能性がある相手と戦いたくない」

「あんたも言うじゃないか。ま、こっちとしてはなるべく早く十傑全員と手合わせしたいんだよ。あんたともやってみたいが」

「光栄だね。端的事実だけ言うと十傑の四~二位の三人は実力が伯仲している。四位を倒せるのならば君の実力は一位に匹敵する、ということになる」

「マサムネを倒しただけじゃ一位を凌駕するとは認められない、と」

「残念ながらね。君はたしかに最強の下等生(レッサー)だけど、アーマフには及ばないね」

「そんなことはありません! 兄上様は最強にして不敗です!」

 剥きになったのは妹のエレンだった。

「そーよ、そーよ。このすかした下等生(レッサー)は強さだけは最強なんだから」

 マリーも援護してくれるが、アレフトは冷静に言う。

「最強の下等生(レッサー)、善悪の彼岸の力を与えられた無敗の剣士」

「善悪の彼岸もばれているのか」

「十傑は耳が早いんだ」

 にこりと笑うと彼は続ける。

「通常、どんなに優れた剣士も一本しか持てないはずの神剣を三本も同時に使いこなす歴史上でも希有な存在」

「手の内もしっかりばれてるな」

「そもそも三刀流自体、あらゆる時代の剣豪が夢見ては諦めている特殊な剣術だからね。まさかあのような方法で実現させるとは太古の剣神でも夢にも思っていなかったんじゃないか」

「どうも」

「しかし、それでもアーマフには勝てない」

「確信を持っているのね、根拠はあるの?」

 マリーは食い気味に尋ねる。

「あるさ。アーマフも三本の神剣を同時に使いこなす」

 その言葉にマリーとエレンは、


「な、なんですって!?」


 と反応するが、それも仕方ない。俺ですら眉を動かしてしまった。

「あ、ありえません! 善悪の彼岸の力はアリア様だけが与えることができる超越的な力」

「そうよ。どの文献にも善悪の彼岸の力を得られるのは同じときを生きられない、とあるわ」

「僕にすごまれてもね。アーマフに言ってよ」

 あんたんとこのボスでしょ、とマリーは詰め寄るが、アレフトは十傑はそんな仲良し組織じゃないよ、と反論する。

「まあ、アーマフの能力自体、謎に包まれているが、〝君とは違った手法〟で三本の神剣を使いこなすと思っていて」

「情報有り難い。ますます興味を持ったよ」

「どういたしまして。それで対戦相手はマサムネでいいのかな?」

「ああ」

「じゃあ、午後、決闘広場に向かわせるよ。ちなみにマサムネの得意技は抜刀術だ」

「手の内を晒しすぎじゃ?」

「いったろ、十傑は仲良し組織じゃないって」

 クスクス笑うと糸目の男は背中を見せ立ち去っていった。

 足音も立てずに歩く様は聖職者に見えなかったが、今はそこを追求するときではないだろう。十傑選定試験の最終試験、体の試験に合格しなければならない。

 目下のところ集中すべきは十傑最強の抜刀術使いマサムネの攻略法を考えることであった。

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