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兄妹無双

 万全の体制で臨む決勝トーナメント、剣爛武闘祭デュオの決勝はトーナメント形式で一六組三二名の生徒が試合を行う。

 四回勝ち抜けば優勝する計算になるが、学院の実力者が集っているので容易には勝ち抜けないだろう。

 そのように思ったが、一回戦目の相手はぬるかった。

 先日、俺が目を付けたデュオではない相手と当たったのだ。

 そのものは一般生(エコノミー)特待生(エルダー)のデュオだった。選民意識と劣等感の塊である階級(クラス)がデュオを組むなど珍しいが、このものたちは少し変わっていた。

 一般生(エコノミー)の女生徒が特待生(エルダー)の男子生徒を尻に引いているのだ。――いや、尻に敷くというかペットにしているというか。

 一般生(エコノミー)の女生徒は特待生(エルダー)の男子生徒の首に鎖を付け、家畜のように扱っている。

 鎖をぐいと引き、イケメン特待生(エルダー)に顔を近づけ、妖艶に微笑む。特待生(エルダー)の男子生徒は骨抜きにされていた。

 俺とエレンは彼らの前に立つと、吐息を漏らす。

「なるほど、色香によって上位者を虜にしたか」

「そういうこと。逆立ちをしても特待生(エルダー)にはなれないけど、特待生(エルダー)を飼い慣らすことは出来るの」

「まさしく犬だな」

 鼻息荒く興奮している特待生(エルダー)を哀れむ。

下等生(レッサー)の男が将軍になることはないけど、下等生(レッサー)の女が将軍の妻になることはままある。この美しさを利用してどこまでも上り詰めてみせるわ」

「上り詰めたところで横に居るのは女を見た目でしか判断しない豚よ」

 エレンがさげすむように言い放つ。

「豚で結構、豚と寝て栄華を勝ち取って見せるわ」

 エレンの皮肉にまったく堪えることのない女生徒。住んでいる世界が違うのだろう。もはや言葉で語る必要はなかった。

 エレンの斬撃が女生徒に向かうが、それを受け止める特待生(エルダー)の男子。さすが計算高い女が選んだだけあり、男子生徒の実力はなかなかだった。

「愛だ! 僕と彼女の愛は誰にも引き裂けない!!」

 目がハートマークになってるかのような情熱を感じる。男は好きな女性のためならば火の中にも飛び込めるというのは真実のようだ。そして愛のためならば実力以上の力を出せるというのも真実のようだ。

 あのエレンが押されている。斬撃を受けても平然とし、力任せの反撃を行ってくる男子生徒に辟易しているようだ。

「熟練の闘牛士が恐れを知らない若牛に押されている感じかな」

 ならば俺も参戦するまで、と腰の剣に手を伸ばすが、聖剣のティルが助言をしてくる。

『リヒト、剣爛武闘祭は相手を殺したら失格負けだよ』

「分かっている」

 剣爛武闘祭はあくまで余興、血を好まない。会場には結界が張られ、致命傷を与えられないようになっている。

 ――もっとも実力者が本気を出せばその結界の上からでも致命傷を与えられるのだが。無論、俺はそのような愚かなことはしない。俺の目的はこの大会で優勝することなのだから。

 ゆえに加減をした斬撃になってしまうが、それでもただの特待生(エルダー)なら一撃で倒せるはずであった。

 ――はずであったのだが、その計算はもろくも崩れ去る。

 俺の一撃を受けた特待生(エルダー)は平然としていたのだ。

 斬撃が届くとは思っていなかったが、ダメージを受けないのは想定外だった。

 やつはにやりと、

「愛は世界を救う!」

 と白い歯を見せる。

 その光景に驚愕するエレン。

「兄上様、愛はここまで人を強くするものなのでしょうか」

 ならば私はもっとお兄様を愛したい!

 と続けるが、俺は即座にそれを否定する。

「気持ちが肉体に好影響を与え、実力以上の力を発揮することはある。しかし、やつはそういった物語の主人公タイプではなさそうだ」

 へらへらと女生徒の色香に惑っている男、精神力がありそうには見えない。

 ならばなにが彼の実力を引き上げているかと言えばそれは薬物であった。

 あの女、自分の手駒に薬を投与しているのだ。

「な、薬物ですか」

「ああ、合法的なもののようだが、使用者の肉体を確実にむしばむタイプのものだ」

 先ほどから男子生徒の口から漂うアーモンド臭、おそらくではあるがディアヘルムという筋力増強剤を使っているように見える。

「ディアヘルムって競走馬に使う薬物ではありませんか」

「ああ、人間に使っても効果があるが、その代わり心臓を蝕む。男性機能にも重大な欠陥を与えるという報告もあるな」

「それを自分を愛してくれる人に使うなんて……」

 エレンは言葉を失うが、女生徒は知ったものですか、という態度を崩さない。

「わたしはこの薬の作用と副作用は説明したわ。この男が勝手に飲んだだけ。どうなろうと知ったことじゃない」

「その通り!」

 男も気にした様子がない。得物の斧を握りしめると、鋭く重い斬撃を放ってくる。心をかき乱されているエレンはその攻撃を避けることが出来ず、剣で受け流そうとするが、北部の名工が鍛え上げた宝剣でもその膂力に対抗することは出来ない。

「……しまっ」

 宝剣を吹き飛ばされるエレン、そのままエレンの頭部に斧の一撃が飛んでくる。魔法による防御障壁があるとはいえ、まともに食らえば一命に関わるかもしれない。本人も周囲の人間もそのように確信したが、その心配は一瞬で消え去った。

 妹の頭部に斧が届く直前に、二対の剣が飛び出てきたのである。


 聖剣ティルフィング、

 魔剣グラム、


 白と黒の神剣が斧の一撃を完璧に遮った。

 ガキン、と魔法武器独特の波濤が飛び散る。

 それを見て特待生(エルダー)の生徒は驚愕する。

「な、なんだ、その強力な剣は」

「神剣」

 一言だけ返す。

「な、神剣だと!? おまえのような下等生(レッサー)が神剣を使いこなすというのか」

下等生(レッサー)が装備してはいけないなどという法はない」

「な、ちょ! それはいいとして神剣をふたつ同時に使いこなすやつがいるなんて聞いたことなんですけどー」

 後方から督戦する女生徒は驚愕の声を漏らすが、たしかにその通りだ。だが、彼女に詳細を説明する必要はないだろう。また、彼女もそれを求めていなかった。

 彼女は三下の悪役であるが、間抜けではないようで、斧を神剣で受け止めている今が好機だと察したのだろう、呪文を詠唱し始める。

 〝氷槍〟の魔法だ。もしかしたら男子生徒ごと俺を突き刺す算段なのかもしれない。分かってるわね、的な視線を男子生徒に送る。男子生徒も「おう」と俺が動けぬように斧に力を込める。

 まったく、どうしようもないバカップルだ。

 馬鹿は死ななければ治らない、恋は盲目、という言葉を思い出す。

 しかし同時に「百年の恋も冷める」という言葉があることも思い出す。

 男子生徒はともかく、女子生徒の目的は剣爛武闘祭での優勝、その夢が絶たれれば男子生徒になんら価値を見いだせなくなるだろう。

 次の武闘祭を目指し、新たな戦力を探し出すに違いない。さすれば男子生徒もさすがに気がつくはず。

 哀れな男を薬物から開放するため、俺は男を蹴り上げ、妹の名を呼んだ。

「エレン、同時に決めるぞ」

「承知しましたわ」

 即座に反応する妹。可憐な声は俺の後方十メートルの場所で響いた。

 つまり妹は言われるまでもなく、移動していたのだ。

 そのことを察知した女生徒は「なっ、いつの間に!?」と目をぱちくりとさせる。

「この武闘祭はデュオです。互いの気持ちを理解し、相手のために尽くせるペアが勝つのです」

「そういうこと。俺は妹の賢さ、素早さを信じていた」

「私は兄上の〝力〟を信じています」

 エレンの信頼に応えるため、足腰に力を込める。

 薬物によって膨れ上がった筋肉を持つ生徒を押し返す。

「な、なんだと!? この俺が力負けするのか? こんなもやしのどこにこんな力が」

「リヒト兄上様は細マッチョです」

 エレンは即座に訂正するが、一応、説明はしてやる。

「武術は筋肉だけじゃないのさ。筋力で劣っていてもこのようにてこの原理を利用してやればいい」

 さらに男子生徒を追い詰める。

「それと見た目の筋力に惑わされるのは三流のすること。魔法使いは己の筋繊維に魔力を送って、普段使わない筋肉をフル活用できるんだよ」

 人間は己の身体を負荷から守るため、自己制御(リミッター)を課しているらしいが、それを解き放てば何倍もの力を発揮することが出来るのだ。

 薬物によって筋肉を肥大させる以上の筋力アップも可能なのである。

 ただ、理屈では分かっていても、理解できないようだ。俺の筋強化魔法は特待生(エルダー)であっても到達できない〝領域(レベル)〟であった。

「この上はなにも語るまい」

 犬に向かって礼節を説いても無駄なように、恋と薬物によって脳が溶けた男に魔術の真理を説いても無駄であった。

 エレンもそのことが分かっているのだろう。女子生徒に必殺の一撃を加える動作を始める。

 ふたり同時に行きますわよ、などと言葉を発する必要はない。幼き頃からともに剣を交えてきた兄妹に言葉など不要だった。

 俺が男子生徒の体勢を崩したのと同時に、妹は必殺の剣を解き放つ。


「飛燕疾風剣!」


 文字通り空を舞う燕を落とすかのような速度の抜刀術を繰り出すエレン。

 色香と策謀に長けているだけの一般生(エコノミー)ではその剣閃を見ることさえ叶わないだろう。

 痛いと思う前に女生徒は気絶したに違いない。

 一方、俺はティルフィングで横薙ぎの一撃を放った。

 二刀流で攻めなかったのは最近、グラムばかり使用してティルが不平の声を上げているのを知っていたからだ。

『うきー、ワタシというものがありながらそんな黒光りのラーグーばかり使っちゃってさ』

 その不満を押さえつけるため、あるいはその負の力を利用し、薬物強化された男子生徒を切り裂く。

 聖剣ティルフィングはやつの防御結界と易々と切り裂く。

『ワタシは鉄や大岩も切り裂くんだよ? こんな筋肉馬鹿の筋肉なんてチーズみたいなもの』

「たしかにチーズのように匂うな」

 男子生徒は反論する暇なく、斬撃を受ける。覇が筋肉に当たった瞬間、攻撃属性を『斬』から『衝』に切り替えるが。

 (チーズ)くさい男だが、だからといって怪我をさせていいものではない。この武闘祭は人殺し厳禁であるし、『手加減』できる実力差があるうちは手加減しておきたかった。

『さすリヒ! 最強の上に慈悲深い』

「こんな男の命を背負いたくないだけさ」

 そのように言い放つと男子生徒を気絶させる。

 ほぼ同時に対戦相手を倒す兄妹、その見事な手際に観衆は歓喜の声を上げる。


「す、すげえ、なんて兄妹なんだ」

「兄のほうは本当に下等生(レッサー)なのか? なにかの間違いなんじゃ」

「いや、間違いなく下等生(レッサー)だ。噂によると入学試験がギリギリだったらしい」

「ならばまさしく落ちこぼれじゃないか」

「そうかもしれないが、最強の落ちこぼれだよ。なんでも過去、ギリギリの最低点で入学したものはいないらしい。皆、多少は最低ラインよりも上の点を取るんだよ。だが、あの男は本当に最低点で入学した。――それも狙ってやったという噂がある」

「本当かよ、それって満点を取るよりも難しいんじゃ」

「ああ、それだけは間違いない。なんでそんなことをしたのかは知らないが」


 それは目立ちたくないためさ、と心の中で説明するが、今現在、とても目立っているので口にすることは出来なかった。

 ……これならば最初から特待生(エルダー)として入学すればよかった、と思わなくもないが、過ぎたことを悔やんでも仕方なかった。

 特待生(エルダー)になったらなったで、面倒くさいことが山ほどあるのだ。

 その中のひとつが十傑制度だ。特待生(エルダー)は常に切磋琢磨し、頂点を目指せ、という気風が王立学院にある。特待生(エルダー)たるもの、十傑となって学院生たちを導いていかなければいけない。

 その資格なし、と判断されれば成績優秀にもかかわらず退学処分を受けることがあるのだ。事実、特待生(エルダー)十傑にほぼ内定している妹は忙しそうだった。

「今度、十傑推薦会議があるのですが、それに向けての所信表明演説の原稿を提出しなければいけないのです」

 十傑になったらなったで、定例会議への参加、学院の密命の実行、といろいろと時間を取られるらしい。

 王女の護衛を考えれば特待生(エルダー)にならなくてよかったのかもしれない。

 そのように思い直していると、その特待生(エルダー)十傑のひとりであるシスティーナの視線に気がつく。

 彼女は俺の動きを余すことなく観察している。

 彼女とは決闘で勝利したし、その後の勝負でも負けたことはなかったが、戦うたびに動きが良くなっている。俺の弱点を見抜き、己の長所を活かした戦いをしてくるのだ。

 次に戦えば負ける可能性も十分あったが、気になるのは彼女よりも彼女の父親だった。

「あれ以来、動きがまったくない」

 あれとはアリアローゼ親派のロナーク男爵家に警告を与えた件である。

 ロナーク家で暗殺未遂事件を起こした暗殺集団〝老木〟の幹部が斬首され、ロナーク家の門前に陳列された事件である。

 無言の圧力を受けたロナーク男爵は精神的動揺を受け、王女率いる改革派から離脱を表明中である。それを防ぐための剣爛武闘祭参戦なのだが、直接的にも間接的にも妨害を感じなかった。

「俺の参加を拒んだのがバルムンクだったかは不明だしな」

 もしもあれが違うのであれば、あれ以来、なにもレスポンスがなかったことになる。バルムンクの娘であるシスティーナは父を尊敬しているようだが、父の暗黒面は知らないように見える。国のために尽くす〝嫌われもの〟と認知しているようだ。暗殺や謀略に手を染めるものという認識は持っていないように見える。

 この大会に参加したのも俺と戦うためだと思われる。

「よく考えれば変だな。俺を参加させたことも。参加後の妨害がないことも」

 参加を許したのは剣爛武闘祭中に返り討ちにした方が王女の声望が下がる、と判断したからかもしれないが、その後、声望を下げるような妨害はない。

 ロッカールームには画鋲も剃刀も仕掛けられていないし、嘘の時間を教えられることもない。提供される水には毒物の類いは一切入っていなかった。

 バルムンクの息が掛かった強敵もシスティーナくらいだった。

「俺が優勝しても気にしないのだろうか」

 たかだが王女の護衛などいつでも始末できる、と思っているのかもしれない。

 いや、思っているのだろう。

 そのように結論を纏めかけたとき、場内にざわめきが起こる。

 システィーナの試合が始まったのかと思ったが、そうではないようだ。その横の会場で戦闘を行っている一般生(エコノミー)のデュオが人間離れした戦いをしたのである。

 例の人形のようなデュオ。

 およそ感情を感じさせない動きをする男女のペアは俺が覚えた違和感を現実化させる。

 激闘の末、対戦相手の槍を腹に受ける少年、防御障壁を貫き、腹に大穴をうがつ。

 少女のほうも対戦相手に右腕と右膝から下を一刀両断される。

 通常、そこで勝負ありなのだが、剣爛武闘祭の主催者は試合を止めなかった。見れば禿げ上がった頭皮を持つ執事がなにやら指示をしている。

 お偉いさんの横やりが入ったようだ。

 会場の熱気にやられて「血祭り」を見たくなった大貴族でもいるのだろうか。あるいは――、

 そのように想像を巡らすが、一介の参加者にはなにもできない。一方的殺戮ショウを見物するしかない。

(……命の取り合いになるようならば俺が止めるまで)

 結果、不合格になろうが、仕方ない。妹も殺人を傍観するような兄など持ちたくないと考えてくれるはず。俺の意志に呼応するように、妹も腰の宝剣に手を伸ばす。

 改めて妹の正義心に感心するが、彼女の正義心が試されることはなかった。

 槍で大穴を開けられた少年の腹部がうごめきだしたのだ。露出した内臓が別の生き物かのように動き始め、拡大生産していく。特に腸が爆発的成長をする。多頭竜ヒュドラのように腸をうごめかせ、伸縮させる。

 その光景を見た槍使いは顔面を蒼白にさせるが、次の瞬間、腸によって手足と首を拘束される。

 会場のものは等しく驚愕した。

 一方、少女のほうも常軌を逸している。失われた四肢の根元から血管が伸び出ると、それが切れ落ちた四肢を拾い上げる。血管の先からあぶくが出て切れた四肢を結合している。

 人間離れした光景――、いや、事実、彼らは人間ではないのかもしれない。この世界には機械仕掛けの人間(オートマタ)人造人間ホムンクルスと呼ばれる疑似生物がいる。国や都市によっては彼らにも市民権が与えられることがあるのだ。

 ここは魔法の国であるし、先進的な王都、オートマタやホムンクルスも普通に歩いているのだ。

 ただ、市民権が与えられてはいるが、人権が与えられているかは別の話。彼らは性的倒錯者や異常者の実験台にされることも多かった。

 目の前の少年少女も似たようなものだろう。おそらく、ホムンクルスだろうが、このような重傷を負っても即座に回復できる〝処置〟が身体に施されているのだ。これは身体に多大な負荷を与えるはず。彼らの強靱さは寿命と引き換えのはずだった。

 見ればシスティーナも気がついているらしく、絶句している。哀れみ、あるいは同情の視線を送っていた。

「……惨いことする」

 俺とシスティーナは彼らの境遇を哀れんだが、彼らは気にすることなく、戦闘を継続する。

 哀れみや憐憫の感情を理解することができないのだろう。彼らはただ戦うことを命じられた生物だった。

 自分に重傷を負わせた対戦相手に反撃する。

 異常な回復力を持つ戦闘人形に対戦相手は驚愕する。自分たちの最強攻撃が通じないことに動じたのだ。あるいはその最強攻撃を間断なく続ければ戦闘人形たちの回復力を凌駕する可能性もあったが、一度恐怖を覚えた戦士は使いものにならないものだ。

 対戦相手は防戦一方になり、やがて抵抗が無益であると悟ると、白旗を揚げた。

 審判に降伏を申し出た瞬間、ホムンクルスの少年少女の攻撃がぴたりとやむ。

 彼らに闘争心はない。

 ただただ制作者の命令のままに戦う人形なのだ。

 その姿を見てシスティーナは「哀れな……」と、つぶやいた。

 姫様もメイドも妹も同様の感情を抱いているようだ。

 俺も同じであるが、彼女たちと違うところは決勝を見据えているところだろうか。

 先ほどの戦いでこのホムンクルス・デュオが最強であると悟った。

 トーナメント表を見れば特待生(エルダー)デュオと彼らが激突するが、彼らに勝つことは出来ないだろう。

 仮にもしも決勝でシスティーナが当たっても同じだった。

 その考察に反論する神剣。ティルが青白く輝き反論する。

『ちょっとそれはなめすぎじゃない? ワタシは何度も剣を交えたから分かるけど、ティナはなかなかの実力者だよ』

「ああ、それは知っている剣技だけを見ればエレンを凌駕しているだろう」

『ならワンチャンあるんじゃ』

「ないね。剣爛武闘祭デュオはふたり一組が基本の大会、片方の実力が図抜けていても限界がある」

『あ、そうか。ティナの相棒は即席ひょろ眼鏡だもんね』

「実力もだが、信頼感もないしな」

『納豆を食べたくなるほど納得』

「…………」

 おっさんのような物言いに呆れるが、無視する。

「それに仮にティナのデュオがティナの双子の妹だとしても結果は同じだ」

「え、そうかな。ティナがふたりいたら無敵だと思うけど、リヒト×エレンデュオに匹敵すると思うよ」

「ああ、そうかもしれないな。デュオ武闘祭は互いの連携が大事だ。しかし、あのホムンクルスの少年少女にそのようなものは些細なことでしかない」

『どいうこと?』

 珍しく神妙な声色で尋ねてくるティル。

 俺は短く答える。  

「あのホムンクルスのデュオは人の形をした化け物だよ。人間の手に負える相手じゃない」

 その回答を聞いた聖剣は沈黙によって俺と危機感を共有した。

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