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暗殺集団老木


 アリアローゼ・フォン・ラトクルスはこの国を改革しようとしていた。

 富の不均一、法の不平等、いわれなき差別、それらを是正し、この国に住まうものをすべてに幸福をもたらすのが使命だと思っていたのだ。

 そのためには女王、あるいはそれに近しい存在になるのが手っ取り早いと思っていた。アリアローゼには兄や姉が何人かいるが、彼ら彼女たちを差し置いて王位に就けないか、日々模索していた。

 第三王女、それも妾腹の娘が女王など有り得ない。

 宮廷の保守的な勢力は口をそろえていうが、宮廷はそのような輩だけでなく、この国を改革しようとする人々もいた。俗に〝改革派〟と呼ばれている人々である。彼らは少数であるが、それぞれ大志を持っており、有象無象の保守派よりも遙かに有能だった。アリアローゼは彼らの信を得るため、日々、夜会や根回しに精を出していた。

 その日もとある男爵の家に赴き、人脈を構築していたのだが、話が国家百年の計に及ぶとつい長居をしてしまった。日付が変わるほど熱心に議論を交わすとそのまま宿泊することになった。

 その話を聞いたとき、俺は片方の眉をつり上げる。

「予定にないが」

 アリアローゼの忠実なメイドに尋ねる。

「そりゃ、予定にないっしょ。予定に入れてないのだから」

「彼女の警備を統括するものとしては困るのだが」

「まあでもこんな夜更けに馬車で帰るよりはいいんじゃない?」

「まあ、そうだが」

 本当はもっと早く話を切り上げてほしかった、と言っても始まらないだろう。

「この屋敷の主は信用できる。国を思う気持ちがなければあのような議論は交わせないだろう」

「でしょ。食事に毒を出される心配も、寝込みを襲われる心配もない」

「しかし、男爵だけあって屋敷は手狭だな」

「あんた、人様の家によくもまあ」

「警備的な観点から言っているんだ。あまり護衛もいないようだし」

「そりゃ、そうだけど」

「緊張感も足りないようだ」

 窓から外を眺めると、門番があくびをしていた。中にはボトルに入れた蒸留酒を飲んでいるものもいた。

「戦力には換算できそうにない」

「そっか、じゃあ、マリーたちが頑張って警護しないとね」

「そういうことだ」

 話がまとまった俺たちは協力して姫様を警護することにする。マリーは彼女の部屋で眠り、その間、彼女の部屋の前で俺が寝ずの番をするという寸法だ。

「てゆか、あんた、寝ないの?」

「寝ない。安心しろ、授業中にたっぷりと寝るから」

「ならいいけど」

 本当はよくはないが、学業よりも護衛のほうが遙かに大切だった。俺は廊下に背を預けると、片目をつむった。

「出た! 必殺、リヒトのヤバイ特技」

「うるさい」

 ヤバイ特技とは右脳と左脳を交互に休める特技である。右脳を休めるときは左目を、左脳を休めるときは右目をつむるのだ。脳を交互に寝かすことにより疲労回復を図る技である。無論、熟睡には遠く及ばないが、それでも脳を休める効果はあった。この特技を駆使すれば三日間は寝なくても済むほどである。

 俺はマリーにヤバイといわれても、通りがかった男爵家の使用人に気味悪がれられても気にせず護衛を続けた。すると深夜、俺の想像通りの展開となる。

 男爵の家はさほど大きくない。さらに王都郊外にある。つまり強襲をしても周囲に気がつかれにくい。王都の護民官に助けを求めても数時間の時差(ラグ)が発生してしまうのだ。その時差を利用すれば、人ならぬもの、〝魔物〟を使役することも可能だった。

 深夜、丑三つ時、つまり午前二時、俺は小さな物音に気がつく。がちゃりとなにかが倒れる音を聞いたのだ。それが門番がなにものかに倒された音だと気がついたのは、俺の耳が地獄耳だからではなく、魔法で聴覚を強化していたからだ。これがあるのを予期し、探索系の魔法をこれでもかと掛けておいたのである。

「――敵は人間の暗殺者(アサシン)三人、それにゴブリンが三〇匹か」

 王都郊外であることをいいことに数で攻めてきたようだ。ゴブリンで屋敷を強襲させ、その混乱に乗じてアリアを討つというのが敵の作戦だろう。

 ちなみに敵は〝バルムンク〟だと思われる。現在、アリアローゼと対峙するものは多いが、その中でも最大にして最強の敵がバルムンクだった。

 ランセル・フォン・バルムンク侯爵はラトクルス王国の財務大臣を務める重臣である。リヒトとエレンの父であるテシウス・フォン・エスターク伯爵と並び称される人物で、治のバルムンク、武のエスタークなどといわれている。

 彼を犯人だと断定するのは、このように大規模の集団を、手際よく集めることができるものが限られているからだ。

 それに彼には動機と前科があった。前日、学院生をけしかけ、アリアローゼを誘拐したのである。特殊な〝素体〟でもあるアリアローゼを欲したということもあるが、それ以上に〝政敵〟となり得る彼女を排除しようとしたのだと思われる。

 今はまだ小さな存在であるが、アリアローゼは将来の大敵となると思っているのだろう。

 その判断は限りなく正しい。バルムンクは糞野郎だが、人を見る目だけはあるようだった。

「それと策謀力も高い」

 アサシンが門番を倒すと、ゴブリンどもが闇夜に紛れて侵入してくる。静かな行軍だ。指揮官の指示が行き届いているのだろう。その指揮官を雇ったバルムンクの目はやはり慧眼だった。

「ただ、まあ、相手が悪かったかな」

 侵入者は手練れであるが、王女を守る〝護衛〟はそれ以上の手練れだった。ゴブリン程度ならば何人襲いかかってきても負ける気がしなかった。

「それにこの事態を見越していたから、〝罠〟を無数に仕掛けておいた。やつらは狩る側ではなく、狩られる側だったと自覚することになるだろう」

 不適に笑みを漏らすと、腰の神剣に手を伸ばす。聖剣ティルフィングだ。女性人格を持つ無機質に語りかける。

「これからゴブリンどもを切り裂くが、準備はできているか?」

 彼女は元気な声で答える。

『もちろんだよ。やる気満々だよ!』

「そいつはいい」

 ついで反対側の魔剣に話し掛ける。

「グラムよ、先日以来の抜刀となるが、大丈夫か?」

『笑止、我を誰だと思っている。憤怒の霊剣とも呼ばれている我の実力を見せてくれよう』

「そいつは頼もしいな。しかし、今日は派手な魔法剣とかはなしでお願いする」

『ほえ? なんで?』

 ティルフィングはアホの子のような声を上げる。

「姫様は連日の夜会でお疲れだ。今宵はゆっくり眠ってもらいたい」

『え、姫様を起こさず倒すの?』

「できれば」

 魔剣グラムも驚く。

『それは無理ではないか。三〇匹ものゴブリンだぞ、乱闘になる』

「ま、そのつもりでってことだ。一応、姫様の寝所には防音魔法を張った。無論、この付近まで押し入れられれば起きてしまうだろうが」

『じゃあ、この入り口付近で倒すってことか。それならばまあ』

 ティルフィングは納得したようだが、グラムはまだ信じられないようだ。そんな魔剣に聖剣は言う。

『ふふん、グラムはリヒトとの付き合いが短いから分からないようだけど、リヒトは超強いんだからね。見てな、あっという間にゴブリンをミンチにしてしまうから』

『まるで我がことのようだな。戦うのはリヒト殿だろう』

『ワタシとリッヒーは一心同体なのさ』

 ふたりのやり取りを聞き終えると、俺は右手でティルフィングを抜刀し、左手でグラムを抜刀した。そのまま闇に紛れるような形で一階に降りていった。


 バルムンクが雇った暗殺者、ガイルは暗殺者のエリートだった。ラトクルス王国の山間にある暗殺者の村出身だ。そこには〝老木〟と呼ばれた老人に育てられた暗殺者がいた。彼らは世界中の権力者に重宝され、日々、暗殺に手を染めていた。本日はラトクルス王国の財務大臣様に雇われての〝畜生働き〟だった。

 畜生働きとは家に押し入って、標的を含め、家人全員を皆殺しにする仕事を指す。畜生にも劣る仕事ゆえ、そのように呼ばれるのだが、ガイルはそのような仕事も躊躇なく受けた。仕事に貴賤はないと思っているからだ。

 またバルムンクは金払いもよかったし、この国の最大権力者のひとりだった。コネクションを構築しておいて損はないと思ったのだ。ゆえに腕利きの部下ふたりを連れ、ゴブリンの兵も借り受け、男爵家を襲撃したのだ。すでに門番はすべて殺したので、あとは〝標的〟であるアリアローゼを殺し、男爵一家を皆殺しにすれば任務完了だった。

「これで豪邸が買えるほどの金が貰えるのだから笑いが止まらん」

 暗殺の里は貧しい山間にあるが、里の暗殺者が大金を稼ぐおかげで潤っていた、ガイルの家も小貴族ほどの規模を誇っているのだ。

「愛人の数を増やすかな」

 そのように俗にまみれた思考をしていると前方からなにか気配を感じた。即座に海老反りになったのは鍛錬しているおかげであったが、部下の助けまではできなかった。前方から現れたのは杭。避けることができなかった部下は串刺しとなる。

 腹に杭が刺さった部下の死に顔を見る。「なぜこの俺が」そのような顔をしていた。無理もないこのようなブービートラップが用意されているとは夢にも思わなかったのだろう。

 我々、暗殺者一族は常に狩る側、〝狩られること〟になれていなかった。

 死の罠を見たガイルは慎重になり、行軍を停止する。周囲の気配を探ると蝋燭の燭台を手に取り照らす。見れば足下にはワイヤーが張ってあった。

「なるほどね、これで我らを転ばせるのか」

 転ばした先には鋭利な刃物が置かれていた。これで突き刺すつもりだったのだろう。古典的だが効果のある手法だった。

 ガイルはゴブリンに先に進むように指示をする。知恵のないゴブリンは恐怖をものともせず暗闇を進むが、ワイヤーを避けた瞬間、天井から酸が降ってくる。強酸性の物質がゴブリンに降りかかってきたのだ。

 のたうち回る緑色の小悪魔。ガイルはそれを無視する。ゴブリンなど介抱する義理はなかった。ガイルにとってゴブリンは道具でしかないのだ。仲間の悲劇に動揺するゴブリンの尻を叩く。

「緑色の小鬼ども。おまえたちはゴミだ。クズだ。俺たち人間様の家畜でしかないのだ。餌がほしくば家畜として命令に従え!」

 ガイルはさらに前進するように命令する。ゴブリンはガイルの怖さをよく知っていたので、躊躇しながらも従う。恐る恐る暗闇の中を進むが、暗闇に溶け込んだ数秒後、悲鳴が聞こえる。


「ぐぎゃ!」

「がはっ!」

「あがしっ!」


 醜い断末魔の叫びが聞こえる。この世のものとは思えない悲鳴だった。

「いったい、どのような殺され方をしたのだ」

 そのように思ってしまったガイルはゴブリンの死体を確認するが、ゴブリンは皆、首を切り裂かれていた。見事な手際で首だけを切り裂かれていたのだ。

 この暗闇の中で首だけを狙いこのように切り裂くなど、信じられないことだった。夜の眷属(ナイト・ウォーカー)でもこのようなことは不可能であろう。

 もしかして自分はとんでもないやつを敵に回してしまったのではないか。そのような恐怖に駆られるが、それでも逃げ出すことはできなかった。

 残った人間の部下に話し掛ける。

「先手を取られつつあるが、そうそう何個も罠を仕掛けることはできまい。それに殺されたゴブリンはたったの数匹、今から屋敷に火を放つ。混乱に乗じて王女を討ち取るのだ。畜生働きは中止だ。王女の首さえ持って帰れればいい」

 バルムンクは「最低でも王女の首」と言った。目撃者を残すことになるが、それも仕方ない。目撃者はバルムンクに始末して貰うしかない。

 ガイルは腹心にそのように説明するが、部下の返答はなかった。

 恐怖に臆して話せないのだろうか。

 部下がいるほうに振り返るが、彼は悠然とこちらを見ていた。なんだ、ぼうっと突っ立って、そのように叱りつけようとしたが、それはできなかった。腹心がゆらりと前方に倒れたからだ。

 見れば腹心の背中には刺し傷があった。黒光りする剣によって背中を斬られていたのだ。

「な、くそ、こいつも……」

 まだ姿の見えぬ反撃者に怒りを燃やすが、その反撃者は暗闇の中から悠然と姿を現した。

 王立学院の制服に身を包んだ若者。

 下等生(レッサー)の紋章を制服にくくりつけた二刀流の少年がそこにいた。

「く、貴様は誰だ」

「なんだ、バルムンクは標的の情報を教えてくれないのか」

「詳細は聞いている。男爵家のものはふぬけ、アリアローゼには固有の武力はない」

「なんだ、やっぱり聞いていないんじゃないか。アリアローゼには腕利きの護衛がいるんだよ」

「おまえのことか」

「ああ」

「自分で言うとはな!」

「それなりに鍛練を積んでいるからな」

「抜かしよる!」

 ガイルがそのように言い放つと後方からゴブリンが襲い掛かってくる。醜悪な小鬼は俺の喉笛を掻き切ろうとするが、一閃でそれを払いのける。

 右手のティルフィングでゴブリンに袈裟斬りを決め、左手のグラムでゴブリンの首を跳ね飛ばす。

「な、二刀流だと」

「二刀流など珍しくないだろう」

「ああ、暗殺者は特にな。だがおまえの持っている剣はなんだ。それは神剣だろう」

「ああ、そうさ」

「神剣をふたつ同時に操るものなど聞いたことがない」

「世の中は広いってことさ」

 アリアローゼの無属性魔法、「善悪の彼岸」によって俺は聖と魔、両方の神剣を装備できるようになっていた。ふたつ神剣を同時に装備し、効果を発動できるようになったのだ。それはこの長い歴史を誇るラトクルス王国の中でも希有な存在だった。だが、細かな説明は不要だろう。この卑劣な暗殺者と再会することはない。この男は今、死を迎えるのだ。

「俺は姫様と違って慈悲の心は持っていない。おまえはなんの罪もない門番を容赦なく殺した。俺もおまえを容赦なく殺す」

「ほざけ」

 そう言うと男は真っ黒な短剣を抜き放つ。それと同時にゴブリンが三方向から襲い掛かってくるが、俺はそれを「回転斬り」で跳ね返す。

「か、回転斬りだと」

「剣術の初歩の初歩だが、極めればこれくらいの芸当はできる。ましてや聖剣と魔剣によって解き放てば――」

 ゴブリンをなます斬りにしつつ、ガイルの腕を切り裂くことなど余裕だった。


 ぼとり――、


 ガイルの黒装束から腕が落ちる。

 ガイルは苦痛に顔をゆがめるが、聞き苦しい声を出さなかったのはさすがといえた。さすがは暗殺者を率いるだけはある。ガイルは即座にリヒトに及ばないことを知ると、リヒトの横を駆け抜ける。

「貴様のような化け物を相手にする必要はない。俺が狙うのは王女ただひとり」

 そのように言い放つと、残りのゴブリンを総動員し、俺の足止めを狙う。一〇数体のゴブリンが同時に襲い掛かってくるとさすがの俺も辟易する。ガイルが屋敷の奥に進むのは阻止できなかった。

「ふはは、見たか。これが〝老木〟仕込みの暗殺術よ。目的を果たすためならば皆が一丸となり、犠牲も厭わない」

「オール・フォア・ワン・ワン・フォア・オールの精神か」

「そういうことだ」

「言葉だけ聞けば美しいが、結局、おまえの名声と富を築くための犠牲ではないのか」

「その通り。だが、ゴブリンの低能ではそのようなことも分かるまい」

「かもしれないな」

「それではさらばだ。腕利きの護衛よ。いつかあの世で王女と再会できる日を祈れ」

 そのように言い放ち、王女の寝室へと続く階段を駆け上がろうとしたガイル。しかし、とある人物によって遮られる。

「あー、ちなみにバルムンクは凄腕の護衛だけでなく、凄腕のメイドさんについても話していなかったようだな。もしも来世があったら、バルムンクに抗議するといい」

 なにを言っているんだ? ガイルはそのような表情をするが、次の瞬間、目を見開く。二階の入りにメイド服の娘が立っていたのだ。彼女は怒髪天を突くかのように怒りに燃えていた。

「アリアローゼ様の命を狙っただけでも不届き千万なのに、このマリーを夜中に目覚めさせるなんて……」

 ごごご、という音と炎揺らめく背景が出現したような気がする。

「マリーは最近、お化粧の乗りが悪いっしょ。にきびもできてしまったし、夜更かしは美容の大敵!」

「五月蠅い! あばずれ! そこをどかねば殺すぞ!」

 マリーの実力を知らないガイルは罵倒の言葉を発するが、それが彼の死刑執行宣誓書となった。マリーは懐からクナイをふたつ取り出すと、それをガイルに投げつける。

 暗殺者の長であるガイルは不意の攻撃にも強かった。まさかメイドが忍術の使い手だとは夢にも思っていなかったようだが、それでもクナイを払いのける。

「ふ、効かんわ!」

 そのように豪語するが、彼の強気はそこまでだった。その生命も。

 マリーが投げたクナイは二本ではなかったのだ。マリーは二本のクナイを投げると同時に同じ挙動でもう二本クナイを投げていたのだ。

 同じ軌道上にあるため、ガイルの視線では後続のクナイがまったく見えなかったのである。

 後続の二本のクナイ、一本はガイルの額、もう一本は喉に突き刺さる。ガイルは声を発することさえできずにその場に崩れ落ちる。

 マリーは冷然とガイルを見下ろすと、そのままクナイを回収し、掃除を始める。

「さすがはメイドだな、侵入者の排除も後始末もお手の物だ」

「冗談でしょ。マリーが倒したのはたったのひとり、あなたは暗殺者ふたりとゴブリン三十匹を倒したのだから」

 マリーは呆れながら周囲を見渡す。俺の周囲には無数の死体が転がっていた。

「この量をひとりで、しかも大きな音を立てずに倒すなんて、あんた、化け物ね」

「褒め言葉と受け取っておくよ」

そのようにうそぶくとマリーの手伝いを始める。たしかに俺たちは客人であるし、王女の家来として礼節を守りたかった。

しばらくすると男爵家の家人もやってきて血だらけの惨状に驚くが、俺たちが男爵家と王女を救ったことを知ると深く感謝してくれた。

恩人である俺たちにこれ以上、後始末はさせられないと、死体の処理を代わってくれた男爵家の使用人たち、そのまま風呂を勧められると、俺たちは深夜に入浴する。清潔な衣服も用意されると、朝まで眠るように勧められた。

明日は学校もあるし、彼らの進めに従うことにする。マリーと寝所の前まで一緒に歩くと、彼女に寝所によっていくように勧められる。

情愛の誘いではなく、ちょっとしたご褒美であるようだ。なんでも最高に可愛いものを見せてくれるとのことだった。なんであるか、ある程度察することができたので、素直に従うことにした。

マリーはそうっと王女様の寝所を開ける。するとそこには最高に可愛らしく寝息を立てる少女がいた。

「見てご覧なさい、この世界で一番可愛い寝顔を」

 誇大でも誇張でもなく、真実だったので、俺は姫様の寝顔を堪能するとこう言った。

「それにしてもすごい大物だな。騒ぎは最小限にしたとはいえ、起きることがないのだから」

 アリアローゼの眠りは深く、一度眠ったらあの程度の騒ぎで起きることはないらしい。俺が防音魔法を施したお陰でもあるが。

「大物には違いないわね。なにせこのお方は未来の女王陛下なのだから」

「たしかにな」

 ふ、と笑うとこのように纏める。

「ラトクルス王国の女王は彼女のように清廉で、度量の深い人物でなければ務まるまい」

 なにせ、この国には王であろうが、王女であろうが、構わず襲撃してくる佞臣奸臣の宝庫なのだ。〝平凡〟な気質の女性に〝王〟が務まるわけがなかった。

 すやすやと眠る未来の王女様の寝顔を数分ほど鑑賞すると、俺は自室に戻った。

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