王女暗殺指令
リヒト・アイスヒルクがそのような思いを抱いている裏で、アリアの政敵は蠢き始める。
ランセル・フォン・バルムンク侯爵の執事は学院の関係者と接触する。
先日、公衆の面前でしこたま打ちのめされ、その辱めのあまり、不登校になっていた生徒に近づいたのだ。
そのものの名はヴォルク。ヴォルク・フォン・ガーランド。
男爵家の長男だ。
彼は先日、食堂でリヒトに喧嘩を売り、返り討ちに遭った。
そのやられ様は「噛ませ犬」と呼称するのもはばかられるほどであったが、禿頭の執事はこの男を高く評価していた。
実力を評価しているわけではない。溢れ出る負の感情を評価しているのだ。
彼は寮の一室に引き籠もり、念仏のように「リヒト……殺す……」と、つぶやいていた。
このような感情に囚われているものこそ、この剣を持つに相応しい男なのだ。
執事は布で包んでいた剣を取り出す。
怪しげで不気味な光を放つ剣。
異様なオーラを纏っている。黒いもやも見えた。
視界に入れただけで病人ならば呪い殺せそうなその剣は〝神剣〟と呼ばれるものだった。
この世界には神代の時代、あるいは異世界にルーツを持つ神剣と呼ばれるものがある。
神剣は通常、〝聖剣〟と〝魔剣〟に分類されるのだが、禿頭の執事が持つそれば、明らかに魔剣に分類されるものに見えた。
それほど禍々しく、おどろおどろしいのだ。
事実、その剣、
魔剣グラム、
には恐ろしい逸話がある。
この魔剣はこことは異なる世界の英雄シグルドという王を死に追いやったのだ。
毒竜を倒し、英雄となった男の命を奪ったのである。
この剣は持ち主であるシグルドの才能に嫉妬し、その命を奪ったという伝承がある。
そのような伝承を持つ魔剣と、嫉妬に狂うヴォルクの相性はぴったりだろう。
ヴォルクは憂鬱な目で剣を見つめると、夢遊病患者のような動作で剣を握った。
――その瞬間、魔剣とこの精神疾患者が共鳴したような気がした。
少なくとも禿頭の執事にはそう見えた。執事はにやりと微笑むと、「王女暗殺指令」を実行するため、部下に使いを出させる。
魔剣グラムと嫉妬に燃えるヴォルグ、それと学院を襲う襲撃者、この三重奏に〝あの〟小僧は耐えられるだろうか。
執事は興味深く、ことの行く末を見守った。
半年、更新できずに申し訳ないです!
2月20日に書籍版発売が決まり、手直しなどに忙殺されておりました。
素晴らしいイラストも添えて貰っております。
ファンタジア文庫から発売しますので、是非、お買い求めください。
2巻発売とコミック版発売も決まっております。




