詐欺メイクの本領
そのように会話をしていると、マリーの化粧も終盤に差し掛かる。複雑な手順を踏んでいるが、非常に手慣れている。
「これが詐欺メイクの本領よ!」
とのことだったが、気にせず、終わりを待つ。
「身代わりと言ったが、影武者を持つ気はないのか?」
「影武者?」
「ああ、要は偽物の代理人を用意する気はないのか、と聞いている」
「まさか、そんな気は一切ありません」
「アリアローゼ様がそんなことするわけないでしょ。誰かを犠牲にして保身に走るなんて有り得ない」
いつの間にかメイクを終えたマリーがやってくる。いつものメイドさんになっていた。
「まあ、そうだな、性格上有り得ないか」
「そうよ。それにアリアローゼ様に似た美少女なんてそうそういないわ」
「そんなことはない。例えばだが、先日、俺を見つめていた女学生、あの娘はなかなかアリアに似ていた」
「はあ? あんな娘っこが?」
主愛の権化であるマリーは否定するが、アリアは意外にも了承する。
「あの一般生の女性ですね。たしかに少し似ているかも知れません」
「そばかすがあること、それに髪の色が違うが、それ以外は似ている。髪の色も太陽の当たり加減ひとつで同じになる」
「むむー」
俺とアリアの主張に眉をひそめるマリー。彼女は纏めに入る。
「一万歩譲ってそうだとしても、どのみち影武者はなし。アリアローゼ様が厭がるのだから」
アリアに視線をやると、彼女は黙って頷く。たしかな意志を込めて。
「……だな、アリアはそういうお姫様だ」
表面上は納得する俺、しかし、俺は現実主義者にして冷酷家の側面もある。姫様の命と、同じ学院の女生徒の命、天秤に掛けるまでもなく、姫様の命を優先してしまうのだ。
それくらいすでに姫様の信奉者になっているということでもあるが、その姫様自体、そのような〝考え〟を持つ護衛のことを善く思わないことも知っていた。
俺の冷淡な一面を見れば、彼女は失望する。――いや、悲しむか。きっと心を痛めるだろう。ならばせめて〝表面〟だけでも取り繕っておきたかった。
「影武者の件は忘れてくれ。そんなものがなくても俺が君を守ってみせる」
そう言い放つと、腰の剣が「ワタシもワタシも」と補足してくる。
俺は言葉を足す。
「俺とこの神剣が君を守る」
その言葉にアリアは嬉しそうに微笑み、マリーは頼もしそうに俺を見つめてくれた。
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