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詐欺メイク

 彼女の寮は外装もだが、内装も豪華だった。安っぽい木材など一切使われていない。高級な木材を惜しげもなく使っている。それでいて前衛的な建築法も試されており、とても洒落ていた。


 豪壮な家に住む趣味はないが、建築自体には興味があったので、しばし見とれていたいが、ここは特待生(エルダー)だけが住まうことを許された楽園。下等生(レッサー)の俺が長居をするのはよくないだろうと、そそくさと彼女の部屋に向かう。


 アリアの部屋は二階にあった。


 二〇一と書かれている。プレートには彼女の名前と従者の名前が記録されている。無論、従者はマリーだ。


 特待生(エルダー)は従者を持つことが許されているというのは本当のようで、他の部屋も同様のプレートが掲げられていた。


 マリーはアリアのメイドなので、当然、この部屋にいるはず。コンコンコン、と三回、ノックをするとそのまま入る。


「自分の部屋にノックをするのは初めてかも」


 アリアは嬉しそうに語る。たしかにそんな機会は滅多にないだろう。そんな返答をすると、乙女の部屋に入った。


 内装はいわずもがな。


 造りから家具類に至るまで、王侯貴族の風格を漂わせているので、深く言及しない。


 それよりも特筆すべきは香りだろうか。


 この部屋からはとても芳醇(フローラル)な匂いが漂っている。


 芳しい匂い、甘く切ない匂いだ。

 アリアがいつも纏っている匂いを凝縮したものだ。


 香水や芳香剤の匂いではなく、その匂いの源はお姫様そのもののようだ。


 美人は匂いもよいのだな、という感想を心の中で抱くと、マリーがいるだろう化粧台に向かった。


 そこにいるのは一生懸命に白粉を塗りたくっている少女だ。一心不乱にやっているため声を掛けづらいが掛ける。


「マリー、なにをやっているんだ?」


「なにってそりゃ、化粧っしょ」


 なんの悪気もなく答える。


「アリアをひとりにするのは感心しないな」


 その言葉に「まじで!」となるマリー。どうやら姫様は黙ってひとりで部屋から出たようだ。アリアは「ごめんなさい」となる。ふたりでしばし説教するが、問題の根本はマリーの化粧のような気がするのでそこにも突っ込む。


 マリーは抗弁する。


「し、仕方ないじゃない。マリーはアリアローゼ様みたいに美人じゃないんだから!!」


 逆ギレ気味であるが、たしかに、と、うなずくこともできない。


 マリーの化粧は中途であるが、この時点でもかなり濃いことが確認できる。もしも化粧をすべて取り払えば、平凡な顔が見られそうだった。


「マリーはね、顔にはそばかすがあるし、日によっては一重になっちゃうから、アイプチ必須だし、まつげも足さないとだし、化粧で顔を立体的にしないといけないの! この苦労が男に分かってか!」


 たしかに分からなかったし、ヒートアップしてきたのでこれ以上、言及はしなかった。ソファーに掛けて彼女の化粧の完了を待つ。


 その間、アリアはお茶を注いでくれる。


「新作のハーブティです」


 と渡してくれたお茶は、苺の香りがした。とても美味しい。


 しばし、温かいお茶でリラックスしていると、アリアが語りかけてくる。


「マリーの化粧に賭ける情熱、許してあげてください」


「女の化粧に文句を言う野暮にはなりたくないが、ほどほどにな。あいつは君の護衛でもあるんだ」


「そうなのですが、マリーが化粧にこだわるのはわたくしのせいなのです……」


「君の?」


「はい。マリーは実は目頭の辺りに傷があって……、わたくしを守るときに作ったものです」


「それを隠すために化粧をしているのか」


「はい。それといざというときはわたくしの身代わりになるためです」


「というと?」


「マリーはわたくしそっくりに化けることが出来るんです。最悪のときはわたくしの身代わりとなって死ぬつもりです」


「……そうか」


 そのような話を聞くと、彼女の化粧愛を批難することはできなかった。


 以後、俺はマリーの化粧の長さをなじることはなかった。

「面白かった」

「続きが気になる」

「更新がんばれ!」


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