それって愛?
ふたつの試練が訪れる、そのうちのひとつはおそらく、一般生や特待生絡みだと思われた。そのことを神剣に話すと、彼女は『さすがはリヒトだね』と褒めそやしてくれた。
もうひとつはなんだろうか。
アリアローゼ姫関連――彼女の暗殺でなければいいが、と思ってしまうが、神剣は『ふふふ……』と謎の笑みを漏らすだけで答えてくれなかった。
『そのときがくれば分かるさ』
と意味深な言葉だけ残す。
「……まあいいさ。降りかかる火の粉は払い除けるだけ」
そのように言うと話題はアリアローゼ姫に移る。
『ところでリヒト、王女様は意外に人気者だったね』
「そうだな。意外でもなんでもないが」
灼熱の瞳と髪を持つ眼鏡の少年、特に彼には好かれていたようだ。それにクラスの半分の男子からは好意を寄せられているように見えた。
『王女様だからかな』
「それもあるだろうが」
それ以上にアリア自身の人柄が愛されているように見えた。
身分の違いなど感じさせない対応をしているのだろう。
また毎朝、学院の花壇の手入れをしたり、孤立しているものに話し掛けたり、人心を掴む行動を重ねているように見える。それも計算ではなく、天然で。そのような少女を疎うのはなかなか難しい。
少なくとも特権意識の少ない平民や一般生、下等生の心は掴んでいるように見えた。
「――ただし、それでもすべての人間を納得させることは不可能だが」
『どいうこと?』
神剣は首をかしげる。
「簡単な話だ。あの赤毛は姫様に惚れているようだが、残りの特待生は姫様を蔑視していた。おそらく、〝欠落者〟だと馬鹿にしているのだろう」
『ああ、そうか。本来ならば下等生なのに、王族のコネで〝名誉〟特待生になっているんだっけ、お姫様は』
「一部の下等生や一般生はそれが気にくわないらしいが、過半の特待生はもっと気にくわないみたいだな」
『そっかー。まあ、特待生たちからすれば、実力で勝ち取った席に、コネで座られたら、溜まったものじゃないよね』
「かもしれないな。しかし、俺は姫様の騎士、どんな理由があろうとも姫様を侮蔑するものは許さない」
『それって愛?』
「まさか」
『そうかな。愛とは見返りを求めぬ行為、それに依怙贔屓から始まると思うんだけどね』
「…………」
神剣相手に珍しく沈黙してしまったのは、以前、同じような台詞を小説で読んだことがあるからだ。
――まったく、無機質も時折、侮れない。
そんなふうに思いながら、アリアローゼのもとへ向かう。
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