神剣の匂い (ティル視点)
そのように学院生活を楽しむリヒト。
その光景を彼の腰から眺めるは神剣ティルフィング。
彼女は今の状況を呑気に楽しむ主を呆れてみていた。
『リヒト、君はたしかに最強不敗の神剣使いだけど、人間の悪意を甘く見すぎ』
彼は幼き頃より、義母と兄たちの悪意をはね除けてきた。その知略と武力によって。ゆえに過剰気味の自信があるのだろう。学院生の子供の悪意などいくらでもはね除けられる、と。
その考え自体、間違ってはいない。
義理の息子を殺そうとする義母の悪意に比べればたしかに先日のヴォルクの嫌がらせなど、取るに足らない。
しかし、それは彼個人だけに言えること。
『君は人の悪意には強い。それは認める。でも「人々」の悪意には無頓着過ぎる』
今もリヒトはこの教室にやってくるなり、この教室を二分した。善意と悪意でふたつに割ってしまったのだ。それはリヒト・アイスヒルクの個性がまばゆく、無視できないものである証拠だが、その個性が常にプラスに働くわけではない。
事実、この教室にいる特待生たちもリヒトのことを認知した。
この学院で最強と呼ばれる人々がリヒトの存在を疎ましく思い始めたのだ。
リヒトの実力は特待生に比肩する。いや、上回っているだろう。しかし、彼らはエリートの中のエリート。その実力を補う武装を持っているものもいた。
……この教室からも自分と同じ神剣の匂いがぷんぷん漂ってくる。
特待生の中にはリヒトと同じ神剣使いがいるのだ。
『……ワタシは最強の神剣だけど、目覚めたばかり。何百年も惰眠をむさぼっていたんだ。その力を十全には使えない。だけど、神剣の中にはワタシよりも実戦経験を重ねてきたものもいる』
そんな相手と対峙したとき、ワタシは。いや、「ワタシとリヒト」は相手に勝てるだろうか。神剣ティルフィングは真剣に考察するが、その答えは容易に導き出せなかった。
神剣は再び主の顔を見る。
女性が黄色い声を上げるのも納得の顔立ちだが、彼はこれからやってくるだろう厄災を知らない。リヒト・アイスヒルクは、これからやってくる「ふたつ」の試練に耐えなければならなかった。
神剣は少し躊躇した末、そのことをリヒトと相談し始めた。
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