黄色い声の秘密
「リヒト、まさか、あの娘っこに斬り掛かるつもりじゃないでしょうね」
「そのまさかだが。姫様の命を狙うのならば男も女も関係ない」
「ちょ、ちょっと、それまじで思ってるの?」
「当たり前だ。おまえは違うのか?」
「同じよ。でも、ただの女学生に襲いかかるほど馬鹿じゃないわ」
「ただの女学生じゃない。さっきからずっとこっちのことを見つめている」
その言葉にマリーは盛大な溜め息を漏らす。
「……いや、抜けているとは思っていたけど、ここまでとは。武芸は無敵、魔法は最強、でも、乙女の心を読むことに関しては完璧落第生ね」
「どういうことだ?」
意味が分からない。
「あの子はただのファンよ」
「ファン? 姫様の?」
「ち・が・う」
わざと一文字ずつ強調し、俺の鈍感さをなじるメイド。
「あの子はあなたのファンよ」
「俺のファン?」
ますます分からない。
「この学院にきてまだ一日しか経っていないぞ」
「一日だろうが、一年だろうが、関係ない。おおかた、昨日の大立ち回りの噂が彼女の耳にも届いたのでしょうね。それとリヒト、毎朝、剣の素振りしているでしょう」
「うむ」
「昨日、何人かの女子が、早朝、三日月寮に行けば、〝尊い〟かつ〝エモい〟光景が見られると言っていたわ。鼻血を出して帰ってくる生徒もいるみたい」
「??」
「鈍感。つまり、あんたの稽古っぷりが格好いいって評判なのよ。乙女のハートをがっちり掴んでいるの。この細マッチョめ」
「なんだそれは。頼んだ覚えはないが」
その答えにマリーは再び溜め息を漏らすと、肩を落とした。
「まあまあ」
とは彼女の主のアリアの言葉。
「リヒト様がもてもてになるのは想定済みです。……この容姿ですから」
「アリアローゼ様、リヒトを甘やかさないでください」
「しかし、事実でしょう?」
「……そうですが。ですが、彼には静かに学院生活を送って貰わないと。このままではファンクラブが出来る勢いです。そのようになれば警護もままなりませぬ」
「それはそれで一興ですね」
くすくすと笑うアリアローゼ。
女性は大げさだ、と思いつつ彼女たちの言葉を無視するが、実は彼女たちのほうが慧眼だった。
その後、アリアと同じクラスに向かうのだが、教室に入ると黄色い声が響き渡る。
教室の扉を開け、自己紹介をするなり、
「きゃー!!」
と甲高い声が。
さらに何人かの女生徒は失神する。
「これが噂のリヒト様。……お近づきになりたい」
「ああ、ご尊顔を拝すだけで気が遠くなる」
「恋人はいるのかしら……ごくり……」
生唾を飲む音が響き渡る。
異様な光景だが、それとは対極的に男子の視線は冷たい。
皆、親でも殺す! かのような呪詛に満ちた視線を送ってくる。
分かりやすいが、いちいち構っていられないので、それらの視線を無視していると、別の視線に気が付く。男子の中にも好意的な視線を送ってくれるものがいたのだ。
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