謎の視線
下等生の級友や生活指導の教師の心配りによって無罪放免となった。無論、一般生たちは敵愾心を燃やしてくるが、思ったよりも嫌がらせはなかった。
ヴォルクが無残にして惨めに返り討ちに遭ったという話は、彼らの中にも伝わっているようで、同じ轍を踏もうという輩はいなかったのだ。
「多少なりとも知恵は回るようだ」
と評すが、ゆえに厄介かも知れない。今は様子を見ているだけで、今後、「俺を追い落とせる」と判断すれば徒党を組んで襲いかかってくるかも知れない。
「まあ、あの手合いが何人来ても恐れることはないが」
そのようにつぶやくと、王立学院の学生生活になじむことを心がけた。
王立学院は初等部、中等部、高等部に分かれている。各学部、二~三年所属し、一定の成績を修めれば進級できる制度だ。俺は一五歳だし、中途入学なので中等部生徒となる。
アリアローゼ姫と同じ学年である。
クラスも同じである。
神の配慮だろうか、と一瞬思ったが、小悪魔のようなメイドさんが補足してくれる。
「王族をなめないでよね。それくらいの融通効かせられるんだから」
ドヤ顔のマリー。どうやら裏でなんらかの力が動いていたようだ。
面倒なので細かいことは聞かないが。
さて、同じクラスになったからには、一緒に登校してもいいだろう、と一緒に歩みを進めるが、途中、視線に気が付く。
(……護衛としてさっそく出番かな)
あまりにもな視線に最初、戦慄するが、その視線のおかしさに気が付く。
(おかしい……。姫様ではなく、俺に視線が集まっている)
もしかして手練れの暗殺者なのだろうか?
通常、暗殺者は標的に集中する。
暗殺に熱中するあまり、周りが見えないパターンが多いのだ。
しかし、熟練の暗殺者の中には標的よりも護衛に注目するものもいる。
――という話を剣術の師匠に習ったことがある。
熟練の暗殺者はより視野が広く、厄介、ということである。
さすがは一国の姫君の命を狙うものだ。
大枚をはたいて優秀な暗殺者を雇ったのだろう。
そう解釈し、そのものを見つめる。
一応、物陰に隠れて俺のことを見つめている。
暗殺者と思わしきものは上半身だけ突き出し、こちらを覗き込んでいた。素人丸出しであるが、あえてそうしているのかもしれない。
性別は女。
この学院の生徒だ。
制服を着ている。
年齢は俺と同じくらい。学年は一緒のようだ。蒼いリボンをしている。
一見、どこにでもいるような女学生にしか見えなかったが、むしろこのような生徒のほうが怪しい。真の暗殺者こそどこにでもいるような凡人に偽装するものだ。
最上級の警戒心を持ち、腰の神剣に手を伸ばすが、それをメイド服の少女にたしなめられる。というか笑われる。
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