神剣の考察(ティル視点)
リヒトとバルムンク、対極的な朝を送ったわけであるが、共通点は多い。
どちらも早起きで、どちらも〝神剣〟を持っているという共通点だ。
バルムンクの蔵には数本の神剣があり、リヒトが稽古で振るっている剣もまた神剣だった。
数日後、神剣同士が相まみえることになるのだが、両者はまだその運命を知らない。
バルムンクはリヒトが神剣を持っていることを知らなかったし、リヒトはバルムンクが小賢しく蠢動していることを知らなかったのだ。
しかし、リヒトの持つ神剣ティルフィングだけは違った、彼女は運命めいたものを感じながらリヒトの稽古に付き合っていた。
『この学院にはワタシと同じ匂いを持つものがたくさんいるみたい。さすがは伝統と格式がある王立学院』
ティルフィングは珍しく真剣にそう漏らしたが、数秒後にはいつものお気楽さを取り戻していた。
『ま、他に神剣がたくさんあってもどうでもいいんだけどね。なぜならば最強の神剣はワタシだし、それに――』
と続けるとティルフィングはこう結ぶ。
『ワタシのマスターは最強の剣士。ダマスカス鋼を斬り裂き、ゴーレムを一刀両断する化け物。最強のワタシに選ばれた、〝最強不敗の神剣使い〟なんだから』
その言葉はリヒトの耳には入らない。ティルフィングが心の中で言った言葉であったからだ。それにリヒトは朝の稽古に夢中だった。玉のような汗をかきながら、無心に剣を振るっていた。
最強の上に、稽古も手を抜かない。そりゃあ、不敗になるよ、そう思いながらティルフィングは歴代最強の主を見下ろした。
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