伝書烏
「……さて、麗しの妹君は今、なにをしているのかな」
そんなことを思いながら手紙を書き終える。
そのまま便箋に入れると、赤い封蝋をする。
この学院の紋章が描かれた封蝋だ。
王立学院の紋章は王家と同じ有翼の獅子。
出資者が王家なのだから当然だが、一応、違いはある。王家の有翼の獅子は大きく翼を広げているのに対し、学院のものは逆に翼が畳んである。混同しないようにするためであろうが、デザイン性は悪かった。
しかし、封蝋は便箋が閉じればいいのだ。
それに「妹以外」の相手から盗み見られないためにあればいい。
そう思った俺は、封蝋に魔法を掛ける。
妹が持つペーパーナイフでしか切り裂けないようにする魔法だ。いや、呪術の類いか。俺が作り出したオリジナルの術式なので、魔術的な手法で開けようとすると、二三五一年ほど掛かる仕様だった。
まあ、そこまでする必要もないのだが、長年の癖なので施しておくと、手紙を使い烏に託す。烏はエスターク城で飼っていたものだ。常に俺の側で生活するように訓練されている。
使い烏に干し肉を与えながら、窓を開ける。
三日月寮の窓から見える景色はなかなかに壮観だ。
建物群を密集させずに計算されて配置されているし、木々や花々と溶け込むように配置されているからだ。
まっすぐに延びる道の奥には青空が広がっている。余分なものがないから道の先に空が見えるのだ。ドワーフの名建築家が設計したらしいが、そのセンスは脱帽するしかない。
どこまでも続く青い道に烏を解き放つ。
無論、その足には手紙を入れた筒が括り付けられている。俺の烏は特別製。野生動物に狩られる心配はないので、確実に届くだろう。
手紙を見た妹はどんな顔をするだろうか。
どのような返事をくれるだろうか。
それが今から楽しみであった。
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