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タマネギヘアーの寮長

 俺たちは言われたとおりに寮長の部屋を探す。寮はとても広いが、寮長の部屋は一番奥、さらに一番豪華で大きいと相場が決まっている。探すのに苦労はしなかった。


 途中、セツというドワーフの女性のバイタリティの話になる。


「それにしてもすごい女性でした」


「だな。ドワーフが街にきて働いているのも珍しい」


「北部ではそうかもしれません。保守的な土地柄ですから。しかし、この王都ではドワーフも珍しくありません。国中から出稼ぎにきています」


「そういえば街でエルフを見かけた。噂に違わぬ美しさだったな」


 すらりとした体型、絹のような金髪、美しい顔の造形。まるで人形のようであった。


 部族全体があのように美しいのなら、男たちはさぞ幸せだろう、と続けると、アリアは「ぷくぅ」と頬を膨らませている。おたふく風邪にでもなったのだろうか?


 そのように考察しながら寮長室を開けると、そこにはすでに人がいた。


 タマネギヘアーの妙齢な女性。年の頃は三〇から四〇くらいだろうか。年齢不詳であるが、間違いなく美人に分類される女性だった。


 凜とした表情をし、縁のない眼鏡を掛けている。

 彼女は書類仕事をしていたが、俺たちに視線を移さず質問をする。


「この王立学院にノックもせずに寮長の部屋に入ってくるとは初めてです」


 アリアは慌てて弁明する。


「申し訳ありません。料理人のセツという女性にここで待つように言われたものですから」


「――なるほど、たしかにわたくしがいない間に客人がきたら部屋で待たせて、と言いましたが、それは今朝のこと。わたくしはとっくに戻ってこうして書類仕事をしているというのに……」


 ドワーフのセツはおっちょこちょいの上に、忘れっぽい人のようだ。困ったものだが、不思議と怒りは湧かなかった。人徳のなせるわざだろう。


「事情は分かりましたが、誰もいないと思ってもノックはするように。今のが試験でしたら、赤点ですよ」


「それについては深く謝罪します。歩きながら話していたもので、失念していました」


 アリアはぺこりと頭を下げると、やり直します、と俺の手を引いて、いったん外に出た。


 アリアは優雅な手つきで、コンコンコン、と三回ノックをする。


「どうぞ」


 という言葉があるとそのまま中に入ると、彼女は深々と頭を下げた。俺も真似をする。


 寮長の鋭い声が響く。


「……ノックは三回したわね。それは意図的?」


「はい。王宮でそう習いました。相手がいるか確認する場合のノックは二回、いると分かっている場合は必ず三回するように、と」


「なるほど、さすがは王女ですね」


「恐縮です」


「しかし、そちらの黒髪黒目の新入生はあまり礼儀がなっていないようね。あなたよりも遅れて頭を下げたし、誠意もこもっていない」


「それは申し訳ない。俺は北部育ちだ。幼き頃から遊び相手は狼だった。狼はノックしないんだ」


「なるほど、北部人ね。ならば一回目は大目にみますが、二回目はなくてよ」


「分かっている」


「…………」


 寮長様は睨み付けてくる。


「……分かっています。すみませんでした」


「エクセレント」


 彼女はそう言うと席から立ち上がり、俺たちの前に歩み寄る。

 なかなかに小柄だ。


 威圧感があるのと、タマネギヘアーで大柄に見えたが、実際にはアリアよりも小さいくらいだった。

「面白かった」

「続きが気になる」

「更新がんばれ!」


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