ドワーフのセツ
学生寮に向かうと、気のいい中年の女性が、
「あんた、もしかして今日、入学するっていうリヒトちゃんかい?」
と尋ねてきた。
ドワーフの中年女性で、ほがらかにして気やすい態度の女性。いわゆる田舎のおばちゃんを絵に描いたようなタイプだ。
名前をセツというらしい。
セツはきやすい態度でぼんぼんと俺の背中を叩くと、
「学科長から聞いてるよ。季節外れの転入生がくるって。あんた、エスタークからきたんだって?」
と、ほがらかな笑みを見せた。
「……その近辺にあるアイスヒルクという街出身です」
身分を隠すために嘘をつく。
「そうかい、どちらにしろ、北の人だね。寒さには強いだろうが、今日はなんだか、底冷えするだろう。今、あたいがジンジャー・ミルクティーを作るから、待っていな」
そう言って厨房に向かおうとしたが、途中、戻ってくる。
「そっちの綺麗な特待生ちゃんは恋人かい? 入学早々にやるね」
と小指を立てる。
まったく、いつの時代の人だ。そんなふうに溜め息を漏らすが、アリアは悪い気分ではないようだった。
「普通の職員は下等生と特待生を恋人に結びつけようとはしません。慧眼の女性です」
「俺たちは恋人じゃないが」
「ですが、恋人よりも密な絆で結ばれた関係です。〝命〟を守って貰う関係ですから」
「なるほど、まあ、たしかに見る目はあるのかも知れない」
そう漏らすと食堂に向かう。おばちゃんが大声でおいでと言ったからだ。
立派な食堂の椅子に座っていると、豆を煎って蜂蜜を添えた菓子と、ジンジャー・ミルクティーが出てくる。両者、なかなかの甘露だった。
「これを入れるのはコツがあってね、ジンジャーをその場でみじん切りにするのさ。作り置きは駄目。香りが落ちるから。それに――」
延々と続くセツの話、このままでは日が落ちてしまいそうだったので、豆と飲み物を頂くと、「美味しかったです」と礼を言い、この寮の寮長に話を繋いで貰えないか頼んだ。
「ああ、そうだった。あたいはただの食堂のおばちゃん、寮長様に話を付けないとね」
「ジンジャー・ミルクティ、大変、おいしゅうございましたわ」
にこりと微笑むのはアリア。生来の品の良さが滲み出ている。
「お粗末様だよ。じゃあ、今から呼んでくるね。あんたら、寮長室は分かるかい?」
「一階の奥でしょうか?」
「その通り。そこで待ってておくれ」
セツは気やすく言うとそのままどこかに消えた。
「面白かった」
「続きが気になる」
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