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学生寮に向かう

 こうして俺は王立学院の下等生(レッサー)となったわけだが、通学自体は翌日からだった。となるとお姫様に丸一日授業をさぼらせたのではないか、と気になるが、彼女は笑って言った。


「今日は日曜日でございますよ、リヒト様」


「あ……」


 俺としたことが失念していた。


 エスターク家ではあまり曜日に根ざした生活をしてこなかった。


 旅人になってからはカレンダーなど見たこともない。


 曜日という概念を喪失しかけていたのだ。

 その様をみてメイドのマリーはぷぷぷ、と笑う。


「小説家や高等遊民、もしくは引退したご隠居のようね」


「たしかに妹に良く浮世離れしているというか、枯れているとまで言われていたな」


「話が合いそうな妹さんだこと」


「きっと朝まで話し込めるだろうな」


 そのようなやりとりをしていると、メイドのマリーが離れていく。どこに行くのだろう? と尋ねると、アリアが代わりに答えてくれた。


「マリーはリヒト様の入学手続きに行きます。事務棟に行くのでしょう」


「なるほど、じゃあ、我々は屋敷に戻っていいのかな?」


「まさか、王立学院の制服を着て、試験にも合格したのです。もう、勝手に外出することはできません。これからは外出手続きを踏んでくださいね」


「面倒くさいが了解した。でも、屋敷に戻れないんじゃ、どこに泊まればいいんだ? 野宿か? まあ、敷地は広いし、材料はたくさんあるからテントくらいは作れるだろうが」


 俺の言葉にアリアはくすくすと笑い出す。


「なにかおかしなことを言ったかな?」


「いえ、魔法や教養に関する知識は深いのですが、ちょっと世間の常識がないところが多いなと思いまして」


「エスターク城の箱入息子なんだよ。ほとんどが書庫で手に入れた知識だ」


「ならば学生寮という言葉はご存じですか?」


「知っている。学生だけが集まって共同生活を行う場所のことだ。物語によく出てくる。一度、入ってみたいと……あ、そういうことか」


「そういうことですわ」


「俺は学生寮に入っていいのか」


「左様でございます」


 アリアはそう言うと、俺の手を引き、学生寮に案内する。


「この学院には大小三六の学生寮があります」


「多いな」


「全校生徒一〇〇〇人ですからね。基本、全寮制です」


「ということはアリアも学生寮に入っているのか?」


「はい。中等部の特待生(エルダー)向けの女子寮に入っていますわ」


「俺は下等生(レッサー)で、男子だから一緒には入れない。護衛できないな」


「ご安心を。特待生(エルダー)は従卒を付けることが許されています」


「メイドさんと一緒に住んでいるというわけか」


「その通りです。身の回りで困ることもありませんし、マリーの武芸は天下一品です」


「となると俺の役割は校内の見回り、火急の際に駆けつける態勢を維持する、でいいのかな」


「そのように御願いします」


「御願いされよう」


 と言うと彼女に下等生(レッサー)の寮に案内してもらう。


 下等生(レッサー)の寮は学院の南側にあった。朝日が目に染みるだろうが、学院生の朝は早いので丁度いいのだそうな。まあ、目覚ましはいらないということだろう。

「面白かった」

「続きが気になる」

「更新がんばれ!」


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― 新着の感想 ―
[一言] 「この学院には大小三六の学生寮があります」 「多いな」 「全校生徒一〇〇〇人ですからね。基本、全寮制です」 と、ありますが、中等部だけで千人なのでしょうか? 自分は、町立中学・県立高…
[気になる点] 曜日の概念は聖書の創世記からですが、似たような宗教がこの世界にもあるんでしょうか? ちなみに日本で七曜制が取り入れられたのは海外との取り引きの為だったそうです。
[気になる点] 学生寮入るのに妹はどうやって駆けつけるんだ?
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