外伝 冬至 (新連載開始)
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こことは違う世界、地球という場所にはクリスマスというイベントがある。
地中海という場所で生まれた聖者の誕生を祝う日らしいが、暦上の冬が来たことを告げる日でもある。
いわゆる冬至祭というやつであるが、冬至祭ならばこの世界にもあった。
長く厳しい冬がきたことを実感する日であり、地球とは違って恋人同士で乳繰り合う風習はなかったが、それでもエレンは冬至祭が好きであった。
エレンが生まれた北部では冬に備え、冬至にたくさん栄養を取る風習がある。脂肪を蓄えて冬を乗り切る儀式なのだが、エレンの兄はご存じの通り食いしん坊、冬至の前後になるとそわそわするほど気分が上がるのだ。
この世界で一番兄を愛している妹としては兄のテンションが上がるのはなによりもの喜びであった。
今現在、エレンは北部ではなく、王都にいるわけであるが、この王都でも冬至を祝う風習ある。北部人のようにドカ食いはしないが、七面鳥をさばいてささやかな祝い事をする風習があるのだ。それを聞いた兄は喜んでいるようだが、エレンとしてはせっかく王都に来たのだから、冬至祭を特別なものにしたかった。だからこのような提案を行う。
「兄上様、異世界ではコスプレをして大人にお菓子をねだる風習もあるそうです。クリスマスのお祝いと複合してやってしまいませんか?」
お菓子か悪戯かー、と食料を強奪するイベントがクリスマスの前にあるらしい。
その事実を話すと兄は真剣な表情で端正な顎に手を添える。
「ふうむ、たしかに合理的かもしれないな。ターキーをくれないと悪戯しちゃうぞー、というわけか」
「その通りです。ちなみに性的な悪戯をご所望ならエレンは常にウェルカムですわ」
ばっちこーい、という感じで言うが丁重に無視されると、エスターク兄妹はコスプレをすることにした。
「狙いは下等生の食堂のおばちゃんのセツさんだ。彼女のコスプレを披露してターキーを強奪、もとい恵んで貰おう」
「セツさんのターキーは絶品ですものね」
異論がなかったエレンはサンタクロースの格好をする。ミニスカサンタさんだ。あまりにも短すぎるスカートに兄は顔をしかめたが、これくらいやらなければターキーは得られません、というと納得してくれた。やはり兄は食べ物に弱い。
ちなみにパンツが見える心配は皆無だと胸を張ることができる。
「なんでそんなに自信満々なんだ」
兄は不思議な顔をするが、それよりも突っ込みたいのは兄の格好であった。白い布を頭からかぶっているだけの兄を凝視する。
「それはなんなんですか? ……おばけ?」
「ゴーストではない」
「てるてる坊主?」
「そんな怪しげなものでもない。これははんぺんだ」
「はんぺん?」
「東洋の食べ物だな。魚の身をすりつぶしたものをふわふわに仕上げたものだ」
「なぜ、そんなものを……」
「セツさんの作るおでんという料理には必ず入っているんだ。セツさんは関東風だと言っていた」
城育ちのエレンには分からない単語ばかりだったが、いつか一緒に食べたいと思った。
さて、このように落差の激しいコスプレをセツさんに見せると、彼女は喜んでターキーを分け与えてくれた。
ほくほく顔の兄を見てエレンは嬉しくなるが、セツは年配の女性らしく、エレンのスカートの短さをたしなめてくる。兄は「やはり下着が見えるんじゃないか?」と心配したが、エレンは自信満々にこう答えた。
「大丈夫です。絶対見えません。だって履いていませんもの」
その言葉を聞いた兄とセツはなんともいえない表情をした。
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