奇妙なパーティー
眠りというやつは一時間三〇分ごとに深い眠りと浅い眠りを繰り返す。レム睡眠とノンレム睡眠というやつであるが、理論上、それらを一巡させれば体力は回復する。
ショートスリーパーにして自在に眠りに落ちることができる俺はあっという間に眠りにつくが、その日はいつもと違った。普段、見ないはずの夢を見たのである。
眠りに落ちるとそこにはアリアがいた。
彼女は自分の館のベッドから起き上がるとにこにこと微笑んでいた。
彼女の胸には蒼い蜘蛛はおらず、健康そうだった。
ただ、互いに言葉を発することなく、見つめ合う。
彼女の美しい顔立ちは永遠に見ることができた。ここが夢の中であると分かっていても健康体の彼女は美しい。見飽きるという言葉はなかったが、一時間と三〇分の間だ、ただただ無言で彼女の笑顔を堪能する。
夢の中でも俺は常に彼女を救う決意を燃やしていた。
きっかり一時間三〇分後に起きると、マリーが目をぱちくりとさせていた。狐につままれたような顔とはこのことだ。魔法によって眠らされたことの怒りなどどこかに消し飛んでいた。
彼女は自分の頬をぎゅーっとつねると、
「マリーはまだ夢の中なのかしら」
と寝ぼけたことを言った。
「夢ではない。あれはバルムンク候だ。見張りをして貰っている」
「あんた、一国の大臣様を見張りに使ってるの?」
「恐れ多いことだがお任せした」
「いつか牢にぶち込まれるわね」
「そのときは保釈金を積んでほしいが、それよりも先に出発するぞ。やはり禁断の地はすぐそこだ」
それを聞いたマリーは「なら余裕で間に合いそうね」と姫様を背負う。マリーにはこの場に留まって姫様とともに待って貰おうかと思ったが、彼女が拒否するのは目に見えていたし、アレフトを倒して血清を手に入れ戻ってくる時間を考えると、一緒にきて貰ったほうがいいと判断した俺は彼女の帯同を許した。
こうして眠れるお姫様とそれを背負うメイドさん、そして俺とバルムンク候という奇妙なパーティーは禁断の地に足を踏み入れた。




