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Lv666の褐色美少女を愛でたい  作者: 石化
第二章 西へ

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第九十四話 ダンジョンマスターたち

 

 最初の仁に対する社歌の印象は、なんだこいつだった。


 いきなり自分のドール・アグレを壊し、こちらの命を人に換算していない興味の薄い表情でこちらを見てきた。そんなレベルの高い冒険者なんているはずないのに、なんでもないかのように彼らは突如やってきた。


 殺されたくなくて、ダンジョンの構造を話した。とっても怖かったので、逆らわないようにしていた。


 でも、いきなりダンジョンマスター同士の戦いなんてものに巻き込まれると、その強さは安心に変わった。

 こちらを見る目に、不思議と親しみのようなものが湧いてきていた。と言うか、よく見ると、優しい目をしていた。


 戦闘はこの人に任せれば大丈夫。そう思っていたら、なぜかめちゃくちゃ弱かった。

 本当にドール・アグレを一瞬でぶっ壊した実力者なのだろうか。


 疑問に思ったけど、それを尋ねる余裕はなくて、ただ二人で協力して、危険なダンジョンを踏破していった。


 確かに弱いけど、時々頼りになって、この人の本当の実力はどうなのだろうと、不思議だった。

 ドキドキしてしまうこともあったけど、それはモンスターとのギリギリの戦闘が多かったからのはず⋯⋯ !

 これは想いなんかじゃないんだから!

 でも、頭を撫でられると安心してしまう⋯⋯ 。


 阿弥那と合流して、なぜか仁の戦闘力が増していた。

 聞いてみるとヒロイン候補と一緒にいると、強化されるらしい。


 ⋯⋯ わたしはヒロインじゃないってことなのかな。


 ちょっぴり拗ねる。



 仁とレンが出撃していった。


 阿弥那の秘密基地に二人っきり。広く感じてしまう。


 阿弥那は何かを考えていてしかめっ面だし、気が滅入る。


 偵察人形でこの階層の形を把握しつつ、わたしは仁のいる場所を示す光点をチラチラと目で追ってしまっていた。


 1日くらい一緒にいただけなのに、なんで寂しいんだろう。

 昔は、阿弥那と社歌が一緒にいて寂しくなかったはずなのに。


 今も、阿弥那はここにいる。

 なら、寂しくなんてない⋯⋯ 。

 でも、記憶の底にそう思うことを許さない何かが眠っている。

 思い出せないけど、とてもひどい思い出。


 それが近くにある気がして、わたしはとても怖かった。



「ねえ、社歌⋯⋯ 。」



 ポツリと、阿弥那が口を開いた。嫌な予感がする。

 でも、その声に、彼女の弱さと迷いと決断が混じっているような気がして、わたしは、その言葉を止めることができなかった。


「私たちが死んだのは、全部私のせいなんだ。私が外に連絡したから、三人とも殺された。私が裏切り者だ」


 脳が、その言葉を受け入れることを拒否していた。

 ずっと探して、そして考えることをやめてしまったはずの物事に、当事者から、正解を教えられた。


 それは救いではなく地獄だ。


 目の前が真っ暗になったような錯覚に陥った。


 あれ。わたし、なにをしようとしていたんだっけ⋯⋯。


 唐突に頭を撫でる仁のイメージが浮かんだ。


 出て行く前、仁は、阿弥那の話をよく聞いてくれと言って頭を撫でてくれた。

 あの時の感触が思い浮かんだ。


 よく、聴く。


 阿弥那の必死な表情と、言っている言葉の意味がわかってくる。


 彼女の言葉は全て真実。


 裏切りではなく、助けを求めるために。

 彼女のせいで、社歌は死んだ。


 だが、それは、何も考えずにただ強盗に言われた通りに動き回るだけだった社歌には、実行できるはずがない解決策だった。


 それは失敗し、阿弥陀には悔恨が、社歌と千樹には憎しみが残った。

 ただそれだけのことだった。


「私を殺してくれても構わない。ずっと君たちの幸せを願っている。」


 そう言って透明な笑顔を浮かべる阿弥那をそれ以上罰することは、社歌にはできなかった。


 社歌は阿弥那を許した。


 そのおかげで、戻ってきた千樹も阿弥那を許した。



 元どおりとは行かないまでも、二人の大好きな姉妹が、ようやく自分の元に帰ってきた。

 社歌は笑顔になる。彼女は今、幸せだ。これからのことを考えてはいないけれど、なんとかなるだろう。



 もしかしたらかなりの部分が仁のおかげなのかもしれない。

 いやきっとそうだ。感謝と慕情に突き動かされたまま、社歌は、ずっとヘリコプターの飛んでいくのを見ていた。






 ●


 ヘリコプターの方に目線を奪われたまま帰ってこない妹たちを見ながら、阿弥那は一人、気を引き締め直した。まだ終わりじゃない。今回のダンジョン戦争は、一歩間違えれば自分たちが死んでいた。


 幸い、今回のような理不尽な女神様の要求は、あの乱暴な植物の神がヘマをしなければなくなるだろう。



 サトラにボロクズのように殺された女のダンジョンマスター、そして、仁兄さんと相打った興盛と言う肉弾派のダンジョンマスター。それは、彼女に身近な死を感じさせた。


 引きこもっているだけでは、決して勝てない世界があそこにはあった。


 女神の勘違いのおかげで、三人とも生き残れたが、全員別々のダンジョンマスターのはずだ。

 妹たちももう一度死に追いやるのは嫌だし、自分が殺されるしかないかと思っていた。


 だからひとまず、この感情は安堵だろう。


 女神のガバガバなシステム。そして、たまたまダンジョンを攻略しにきた特異的な強さの冒険者。

 そのどちらが欠けてもここにはいられなかった。

 とてもフレンドリーだった自分の契約者のことを思う。


 いつものようにとりあえず引きこもろうとした阿弥那を明るくサポートし、他の姉妹との合流に一役を買い、困ったら呼んでよと、言って別れたアメリカ人のレン姉さん。


 彼女のおかげで、阿弥那は少し前向きになれた。ずっと逃げ続けていたことに向き合うことができた。



 そして最初は頼りにならない雰囲気だったが、一夜明けると、その雰囲気が一変し、最後には強者の風格を漂わせるようになった、仁兄さん。あのアドバイスは、投げやりにも思えたが、それでも有効だったことは認めざる得ない。


 もう一人、意味がわからない強さだったサトラ姉さん。

 あの領域に自分のモンスターがたどり着くには何年かかるのだろうか。


 百年経っても無理だと思う。


 千樹は彼女に強い憧れを抱いているようだ。


 一番最初からずっと彼女に助けてもらったのなら、それも当然だろうと納得できる。


 あの三人が、なぜ、自分たちのような目立たないダンジョンに潜ろうと思ったのか、それはよくわからない。

 ただ、幸運だった。それだけは確かだ。


「さあさあ呆けてないで。これからのことを話すよ。」


 パンパンと阿弥那は手を叩いた。

 そろそろ二人を現実に引き戻したほうがいいだろう。


 向こう側の御門優馬と言う男は実に油断のならない顔つきをしている。


 そばに控える天狸と言う眷属も、それに劣らぬ曲者だ。


 サトラ姉さんの動きをあの時間躱し切ったと言うだけでも、とんでもない強者だとわかる。


 あの三人の後ろ盾がなくなった私たちで、抑え込めるだろうか。


 不安だ。


 その不安を乗り越えて、それでも阿弥那は姉妹たちの前に立つ。


 ●


 千樹は大好きなサトラが去って行くのをじっと見ている。


 中華の栄を被らされた直後から、全ダンジョンの一括管理法が頭に流れ込んできているが、彼女にとっては知ったことではなかった。


「朕はもう会えんのかな⋯⋯ 。」


 いつの間にか変わった一人称を当然のように受け入れて、残念そうに見上げる。



 阿弥那に引っ張られてみれば、目の前に御門優馬の姿があった。

 男の姿に威圧される。

 サトラもいないこの状態で、男と向き合うのは、強盗のせいでトラウマを抱える千樹にとって、拷問にも等しかった。


「何やってるんですかマスター。女の子を脅かしちゃダメですよ。」


 そこに天狸が割って入った。


 ねーとこちらと目線を合わせてにっこり微笑む。


 その姿に、千樹のストレスは幾分軽減された。



「私が通訳しちゃいますよー。えっとですね。マスターが言うには、まずどんなことができるのかと、どんなダンジョンにして行くかについて相談をして、ですね。」



 不本意そうな御門優馬だったが、程なく諦めたようで天狸に通訳させることになった。


 ●


 中国の壁を巡らせた街の外は、モンスターがうろついている。


 軍の兵器を投入しても、後から後から湧いてきて、対処が追いつかない。



 そんな状況がいつからか変化していることに、人々は気付き始めた。


 モンスターの出現率が低下している。


 街の外に出ても、モンスターに襲われることはほとんどなく、襲撃も散発的だ。


 減らせば減らした分だけ確かに安全になっている。


 昔のように街道に馬車、そして車が行き交い始めた。



 今は嵐の前の静けさだと主張する人もいたが、目先の利益のためにその意見は黙殺された。


 ダンジョン禍前は世界一を視野に納めていた中国の巻き返しが、今始まる。


 ⋯⋯ ダンジョンからモンスターが再び出て来ない保証はどこにもない。










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