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Lv666の褐色美少女を愛でたい  作者: 石化
第二章 西へ

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第八十四話 終戦の空

 

『なん⋯⋯だと。』


 龍鳳は、痛みと、それに勝る驚きで俺の方を見つめている。



 俺に対する警戒はしていなかったらしい。


『お前は、俺の操心で操れる程度のレベルのはずだ。この俺に傷をつけることができるはずがない。』


 なおも言葉を重ねている。この戦場においてそれは致命的な隙だ。

 俺はそれを引き延ばすように答える。


「悪いな。俺の強さはレベルだけじゃないんだ。」


『どう言う意味⋯⋯ っ?!』


 巨体を素早く横転して、龍鳳はサトラの上からの激突を避ける。サトラは、ドラゴンの頭に槍を突き入れた後、その反動を用いて飛び上がり、壁を蹴って隙を伺っていた。


 こちらに気を取られていたはずなのに、これにも反応するのか。

 本当にたいした実力者だ。だが。



 サトラの激突と、龍の墜落。二つの衝撃で丈夫なダンジョンの床はかなりの損傷を示していた。

 そこからサトラは何事もなかったかのように立ち上がる。衝突の衝撃を彼女は微塵も感じていなかったようだ。


 俺はサトラの隣に立って、龍鳳に向けて千鳥を構えた。


「負ける気はしないぞ。」


『仁のために、負けない。』



 不思議な一体感が湧き上がる。

 先ほど習得した「一心同体」の効果だろう。

 レンさんと連携した時よりも、強い効果が受けられそうだ。

 もしかしたら、技能の効果だけじゃないのかもしれないな。


 凛々しいサトラの横顔を眺めて、俺はこっそりとそう思った。


 彼女が隣にいるなら何者にも負けない。


『認めよう。お前たちは強い。だが、時間稼ぎは済ませてもらった。クールタイムは過ぎた。さあ、俺の業火を受け取れ。』


 吸い込む息は先ほどのブレスの予備動作。

 そう判断した俺とサトラはまっすぐに前に突っ込んだ。


「その口、閉じさせてやるよ!」


『させない!』


 こちらのスピードが想定を上回ったからだろう。龍鳳はわずかに表情を硬くして、それでも引くわけには行かないと口を広げた。青白い炎が、その中に見えている。



 本当にこのまま突き進んで大丈夫か?


 そんな疑念が頭をかすめたが、先行するサトラを、その強さを信じた。


 青い炎が漏れる直前に、サトラの槍が、サトラもろとも、その口を貫いた。


 無茶をしすぎだと文句を言おうとして、以前の自分なら、その無茶もわからなかったと思い直す。

 その無茶に、少しは付き合える男になった。そのつもりだ。


 だからこそ俺は、雷切を真下に振り下ろした。龍鳳の顎を両断する。


 放射口を失った炎が野放図に周囲に放たれた。



 俺は素早く退避する。



 龍鳳は、自分の出した炎と、サトラの空けた風穴に苦しんでのたうちまわっている。


 それでも死なないのは、流石の生命力と言うしかない。




 それでも彼の命はそろそろ尽き掛けようとしていた。


 空いた風穴から漏れる血が、サトラの方向に向かって飛んでいる。


 そういえば彼女は、血で回復することができるんだったなと、思い出す。


 俺は、疲れた。


 サトラと並んで戦うための気力と体力はさっきの動きでだいぶ削られている。


 一回休まないと、同じ動きはできなそうだ。



『龍鳳!逃げるわよ。早く⋯⋯ っ?』


 龍鳳の主人のダンジョンマスターの女ー行火ーが、怯えた様子でこちらに入ってきた。


 そして、致命傷を受けている龍鳳を見て硬直する。


 俺は疲れた頭で疑問に思った。


 こちらの結果で飛び込んできたわけではない。

 その証拠に、龍鳳の姿を見て驚いている。


 なら、彼女は何から逃げようとしていた?


『そんなところで寝てないで。私を、ここから逃して!』


 眷属の状態がわからないわけでもないはずなのに、行火は龍鳳が生きている前提で話を進めている。


『主人の仰せ、ならば。』


 致命傷を負ったはずの龍鳳が動いた。


 その体が、小さな龍に分裂する。


 比較的ダメージが少ない部位が行火の元へ向かい、他の部位は俺とサトラ、そして少ないながらもレンの方へ向かい、交戦を始めた。


 危険度は下がったが、それでも疲れた今の状態では油断ができない相手。

 俺はその対処に追われる。



『では。また機会があれば会おう。』


 龍鳳は、小さな龍から、人型に戻ると、行火を抱きかかえた。

 先ほどの美丈夫然とした姿は消え、代わりに、美少年として、笑みを浮かべていた。


 ⋯⋯ 体を切り離すだけで若返れるのか。


 あっけにとられて、彼らが離脱するのを見逃してしまう。



 こちら側に向かってきた龍鳳の一部は本当に足止め程度だったようで、対して苦労もなく倒せた。


 とりあえず四人で集まる。


『まずい状況かもしれないよ。』


 レンさんが、真剣な表情で切り出した。


『あのマスターが、こちらの交戦状況を確認せずに助けを求めたって言うのは、それだけの危険が迫っていることを察知したからかもしれない。』


「確かに。」


 もともと、向こうから勝負を仕掛けてきたのだ。

 それを途中で切り上げるなど、レンさんが言った言葉以外にはあり得ないと思う。


『でも、それが、あの二人だけの敵とは限らない。むしろ、私たちにとっても敵と考えた方がいい。』


 俺はそれに頷いた。あの二人では手に負えないモンスターの襲来。何かしらのステージギミックの発動。

 どちらにしろろくなものではなさそうだ。


『だから、まずは拠点に帰還する。いい?』


 レンさんに反対するものはいなかった。






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