第八十三話 大ボス戦
どう考えても高火力な炎が、俺たち全てを殲滅しようと上から降ってくる。
Lv550相当の相手。しかもドラゴン。見た目通りか見た目以上の威力があることは想像に難くない。
俺には遠距離攻撃はない。つまり、迎撃手段は皆無だ。なんとか千鳥の「雷切」を発動させるか、それとも、「超回復」を頼みに素受けするか。だが、俺が良くても、確実に千樹が死ぬ。避難させる時間はなかったとはいえ。もう、厳しい。すでに、ブレスは放たれたあとだ。今のこの思考は、危険を認識したときに時々起こる時間が引き伸ばされたような感覚によって許されているに過ぎないのだろう。
『水よ!』
サトラの位置から大量の水がブレスに向かって放たれる。これはサトラの水魔法だ。それはブレスの一部を確かに貫き、穴を開けた。
だが、相手のブレスの領域が広すぎる。俺の位置とサトラの位置が離れているのが問題だ。
サトラの水魔法では俺の安全は保証されない。
『直方。私の後ろに!』
レンさんの鋭い声に従った。
硬直している千樹を無理やりレンさんの背中に引き摺り込む。
『炎脚っ!!!!』
正面から迫ってくる青白い炎に、こちらも炎で燃え上がったレンさんの脚蹴りが向かう。
炎と炎。相性は互角。
だが、レンさんのレベルは、龍鳳のレベルの二分の一以下だ。
到底、勝てるとは思えない。
それでも俺は、レンさんを信じた。
彼女なら何かしらの手段を用いて迎撃できる。
そうに違いない。
その炎の激突は、衝撃ではなく、音と閃光をあたりにまき散らした。
炎を纏うレンさんと、向こうのブレスが拮抗する。
あたり全てを舐めるように焼いているにも関わらず、俺たちの周りには炎は来ていない。
レンさんの炎が相殺しきっているのか?
本当に?
前方のレンさんの顔が苦痛に歪んでいる。
『限界突破ァ!』
レンさんから感じる力が膨れ上がった。
とてつもないエネルギーだ。
これなら押し返せる。
俺と千樹の期待を背負ったレンさんの蹴りは、ついに、炎の壁をぶち抜いた。
『ハアハア。どう?直方。見直した?』
そう言って笑う彼女には疲労の色が濃い。
限界を突破する技能を使ったんだ。当然だろう。
「とっくの昔に見直してるから、安心して休んで欲しい。」
俺はそう言って、龍鳳の方を見上げた。
鳥の翼をはためかせて、宙に浮かんでいる。
かなり広いこの部屋も、流石に飛行する龍を入れるには容量不足のようで、龍鳳の頭は、天井ギリギリだ。
とはいえ、滞空している敵は厄介だ。少なくとも俺の攻撃は届きようがない。
「サトラ!叩き落としてくれ!」
『おっけー!』
気負いのない返事をサトラが返す。こちらから見れば強敵のドラゴン相手にもサトラは微塵も怯んでいない。それを頼もしく思いながら、俺は千鳥を構える。
紅葉刃は、刃が通るかわからない。それに、さっき俺を殺しかけた武器でもある。
何よりレンさんに蹴飛ばされたのをわざわざ拾いに行く時間がない。
「「帯電」」
千鳥がビリビリと刺激を放つ。
刀の上を火花が散っている。
今日の調子は絶好調らしい。
力が尽きかけのレンさんと千樹を守るべく、前に出る。
ブレスの二発目がくれば終わっていたが、流石にあの大技を連続では打てないらしく、いやに静かだ。
サトラが弾丸のように飛び上がる。彼女の圧倒的な実力は、翼が生えていない生身で宙に浮かぶことを可能にする。
『どこに、消えた?』
キョロキョロと辺りを見渡す龍鳳はその早さに全く対応ができていない。
そのまま振り下ろされた槍の重みを頭上で受けて、龍鳳は地面に沈んだ。
どしん
落下の衝撃と音が大きい。
それだけ巨大な質量ということだ。それ相応のタフネスもあるだろう。
心してかからなればならない。
それを心に刻んで、雷切を起動する。
帯電してから雷切を用いることで、俺の実力以上の鋭い一閃が出せる。
これが、この千鳥という刀を持って帰り、色々試した俺の結論だった。
無論、他に能力がある可能性もあるが、これ以上は扱いきれない。
雷属性の攻撃が付与される切れ味の良い太刀として運用していくつもりだった。
後ろからレンさんたちの視線を感じて俺は若干後悔する。
この「雷切」を発動した状態の俺は、髪色が青くなり、髪の毛が天を目指すようになる。
こんな髪型カッコ悪いだろ⋯⋯ 。
『かっこいい⋯⋯ 。』
なぜか純真な憧れの目線を向けてきた。
いや千樹ならまだわかるけど、レンさんはもっと他に仕事することがないのかな。
まあいい。とりあえず、こいつを討伐する。
雷の力で超強化された状態で、俺は手近にあった右翼を切り飛ばした。また空を飛ばれると面倒だからな。
方法は飛び上がってからの一刀両断だ。
以前はできなかったことも、危険なダンジョンに潜るに当たってどんどんできるようになっている。
成長している。そんな確かな手応えを感じた。




