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Lv666の褐色美少女を愛でたい  作者: 石化
第二章 西へ

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第八十一話 行火と龍鳳

 俺は慎重に部屋に入った。

 鬼が出るか蛇が出るか。

 サトラなら一番嬉しいんだけど。


 恐る恐るな俺の前にとんでもない光景が広がる。


 これは、スライムか?


 ぶよぶよとした物体が視界を一面に覆っていた。

 でかすぎる。こんなスライムなんているのか?キングスライムってレベルじゃないぞ。


 だが、そのスライムは次の瞬間、溶けたようにその体積を減らした。


 代わりに見えたのは、見覚えのある槍。スライムの核らしき物体を貫いて、サトラの槍がまっすぐに伸びていた。



『あっ!仁!』


 スライムで見えなかった対面に、とても嬉しそうなサトラの姿があった。ぶんぶんと手を振っている。

 戦闘の激しさを偲ばせるような乱れた服装で、正直目のやり場に困る。


 それでも久方ぶりに見るサトラの姿に心が跳ねた。


「ようやく合流できた。大丈夫だったか?」


『うん。ちょっと大変だったけど、仁に会えたから問題ないよ。』


 引き締まった表情を少し緩めて、サトラは笑った。

 そう言われるとこっちとしても嬉しくなる。


『その服装もかっこいいね。』


 レンさんのくれたラバースーツだ。⋯⋯ 良いのかな。ほんとかな。まあサトラが良いって言ってるんだから良いんだろう。間違いない。間違ってても良い。


「ふたりだけのせかいをつくらんでほしいっちゃけど。」


 不満げな声の方向を見やれば、千樹が頰を膨らませていた。


「千樹も無事か。良かった。」


 心の底から安堵する。ここで千樹に死なれたら、社歌と阿弥那に申し訳が立たない。


「これであとは、拠点に帰るだけだな。」


 ふたりのそばに駆け寄ろうとして、静止した。



『あっ。気づいちゃったかー。まあ気づくよね。』


『誰?』


 サトラが鋭い声を出す。


 俺とサトラの反対側に、もう一つ入口があった。


 そこに一人の女と、顔立ちの整った男が立っている。


 女は団子を二つ頭に乗っけたような髪型で、ゆったりとした中国風の服を着ており、男の方は、動きにくそうな服を着ている。カンフー映画でよく見るようなものではなく、もう2王朝くらい遡った時代の衣服に似ている。


「鑑定」が発動する。


 行火

 職業「ダンジョンマスター」

 Lvなし

 技能「薬物生成」「薬物技能向上」「薬物効果向上」



 龍鳳

 職業「執事」

 Lv250

 技能「操心」「魔獣化」「理性保持」「薬物耐性」



 大した相手ではなさそうだ。


 サトラとの合流が叶い、俺のレベルは二倍。Lv312相当だ。

 その上今は最強のサトラもいる。負ける要素はない。


 正直に言って俺は慢心していた。


『おー強そう。でも、うちの龍鳳の方が強いよ。』


 こちらの実力が推し量れないほど弱くはないはずだ。

 なのに、行火にはどこか余裕が感じられた。


『じゃ、噛んで。』


『はい。主人。』


 龍鳳が優雅に一礼する。


 口元でガリッと音がした。


 途端、感じる圧力が跳ね上がる。

 存在のレベルが一段階上がった。


 そんな感じだ。


 恐る恐る龍鳳のステータスを確認する。


 龍鳳

 職業「執事」

 Lv250(+200)

 技能「操心」「魔獣化」「理性保持」「薬物耐性」



「バグかよ?!」


 俺は思わず叫んでいた。

 なんだよ200Lvアップって。俺でもそんな詐欺できないぞ。


 いや、もし俺が龍鳳と同じレベルだったらそれ以上の強化になるのか?

 俺の方がバグだな。まあそれは良い。


 ただ、これで、俺は確実にあいつに勝てなくなってしまった。


 サトラに任せるというのは心苦しいが仕方がない。


「サトラ。あいつを倒してくれ。」


『うん。まっかせて!』


「千樹はこっちに来い。俺が守る!」


「わかったばい!」


 一目散に駆けてくる。


 俺も、そちらに向かう。


 よし、これで、サトラが全力を出せる。


 サトラの全力なら、いかに相手がドーピングしようと負ける道理はない。




 あとは千樹を守りながら見守れば良いだけだ。




 サトラと龍鳳が相対している。


 強者の気配が強者にわからないわけがない。事実、龍鳳はだいぶ警戒している。


 だが、後ろの行火という女は、余裕の表情を崩さなかった。


『いかに強くても、うちの薬の力の前には無力だよ。』


 彼我の戦力差を理解できていないがための大言壮語か、それとも、何かまだ手があるのか。


 前者なら良いが、後者なら面倒だ。


「サトラ。早めに片付けてくれ。」


『もちろん!』


 サトラの筋肉が収縮する。


『操心!』


 その出鼻の隙に、龍鳳が技能を行使した。



 なんだ⋯⋯ ?


『待て。俺を襲う前に、あっちを見てみろ。』


 龍鳳は、なぜか俺の方を指差した。


 サトラは、出鼻を挫かれて、気勢がそがれたようだ。


『どういうこと?』


 渋々ながらこちらを見て、そして、あっけにとられた顔をした。


『俺の技能は、効果内の一人を操ることができる。だ。お前はなぜか無理だったが、あいつは操れた。」



 俺は、今、何をしている?


 ナイフを抜いて、千樹の首筋に当てている?


 なぜかそうしなくてはいけない気がする。

 なんのために?


 これは必要なことだと誰かが囁いている。


「くっ。」


 首を振って抵抗する。


『ほう。抵抗するか。だが、その程度では無駄。お前は俺の操り人形だ。』


 龍鳳は淡々と、宣言した。

 それは、今の俺の立場を如実に表している。


 思考の自由が奪われて、体の制御もできない。


 やるつもりのないことを体が勝手にやっている。


 まずいまずいまずい。千樹が消えた場合、サトラも一緒に消える可能性がある。


 絶対に殺されちゃならない子なんだ。


 俺の手の自由が効きさえすればこんなことはすぐにでも辞めるのに。


『お前のマスターが殺されたくなければ。大人しく、俺たちに従え。』


 龍鳳は、サトラに降伏を迫った。



仁は龍鳳とはかなり相性が悪いです。操心はレベル参照なので。

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