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Lv666の褐色美少女を愛でたい  作者: 石化
第二章 西へ

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第七十八話 褐色槍姫の戦技無双

 一方その頃。


 サトラは困っていた。

 湧いてくる敵は鎧袖一触で撥ね飛ばせる。

 だが、自分にべったり付いてくる千樹への対応がどうにもうまくいかない。


 直方仁の「言語伝達」がないというのが一番な問題だ。日本語に関しては相手が何を言っているかわかるくらいには上達していたけど、それを日本語に直して話すのは流石に無理だった。


 ちなみに阿弥那とレンのペアも同じ状況だったが、あっちは阿弥那の力により解決している。ダンジョンポイント交換により手に入れた翻訳機と辞書は万能だった。



 ご飯を分けようと収納空間から生肉を取り出したサトラだったがグロテスクすぎて千樹は泣きかけた。


 そしてなんで泣いたのか分からずあたふたするサトラ。できれば他二人と合流したかったが、彼女を置いていくわけにもいかない。


 神を名乗る女性が言っていたことはなぜか理解できたが、それも併せて考えると、千樹を守って戦う必要がありそうだ。


 何はともかく、仁と合流したい。空から落ちてきてからずっと隣にいた彼のことを、彼女は思い浮かべた。


 彼と一緒ならなんでもできるような気がする。


『仁、どこにいるの⋯⋯?』


 少しだけ、声が漏れた。


 そんな彼女を千樹が不安そうに見上げた。千樹にとってはサトラが生命線である。

 サトラの寂しそうな表情は、恐ろしいものだった。


「大丈夫と?」


 通じないとわかっていてもそう問いかけるしかない。


 彼女が、自分でモンスターを召喚するという手段もあるにはあったが、サトラと意思疎通ができない現状、迂闊に手を出したらサトラに殲滅させられる可能性もある。


 それより何より、サトラに足手まといはいらないように思えた。


 下手なことをするより、彼女に任せた方が良い。千樹には本能的にそれがわかっていたのだ。


 付近は水のせせらぎが聞こえている。

 近くに川のようなものがあることを確認していた。


 ただし、川に適応したモンスターもいるようだったのでむやみに近づかないようにしている。

 誰かがすでに放ったのだろう。


 飲み水に困らないというだけで感謝するべきだろう。

 もちろんサトラの「収納」には大量の水が含まれているため、気にすることはないのだが。


 なんなら収納で出し入れすることにより、大量の水や物質で相手を圧殺することもできるだろうが、そんなことをしなくてもサトラなら圧倒できるのだ。戦闘に「収納」を用いるまでもない。

 強キャラすぎる。


『なんだか嫌な感じがする。うん。仁を探そう。』


 彼女は一人頷くと、千樹を脇に抱えた。


「連れてってくれると⋯⋯ ?」


 見上げる彼女は凛々しい横顔を正面に向けていた。


 千樹は思わず見惚れる。


「頼りにするけんね。」


 彼女は完全にサトラに身を預けることにした。



 サトラの進撃が始まる。


 ただし完全に彼女の勘頼りである。


 そして基本的に彼女の勘はとても悪い。


 宇宙ダンジョンを長い間彷徨っていたことからもわかるはずだ。



 まっすぐに彼女は向かう。その方向には、大量の、そして手強い魔物たちがひしめいていた。平均Lvは250である。


 これからサトラに蹂躙される運命だが。


 一方的な虐殺が始まる。


 ●


「なんだあいつは?」


「誰か情報を持っている奴はいないのか?!」


「本土では見た覚えがないぞ!」


「あるじさまをお守りしろ!」


「ぎゃああああ」


「一時休戦だ!」


「陣形を整えろ!」


 ラミア、アラクネ、ゴブリン、オーガ、百足、地龍、ワイバーン。


 その全てが。


『うりゃああ!』


 槍の一振りで吹っ飛ばされた。


「すごすぎん⋯⋯ ?」


 間近で見ながら、千樹は圧倒されっぱなしだった。


 自分の作り出すモンスターとは雲泥の差だ。


 この人さえいれば、どんなダンジョンでさえも攻略できてしまえるだろう。


 そう思ってしまうほどにその力は隔絶していた。



 闘争の中心には、どんどんモンスターが寄ってくる。


 海の大渦のような作用が働いている。


 その中心で、千樹を守りながら、それでもサトラは好戦的に笑う。


『絶対に仁の元にたどり着いてみせるから!』


 その奮戦は、確実に仁のところへ向かう敵の数を減らしていた。




 ●


「どうしてみんなあんな危険そうなところに飛び込んでくのかな?」


 乳鉢で何かをこねながら女はつぶやいた。


「どう考えても危ないよ。」


 彼女が改造したらしきダンジョンの一室は、薬のかけらが並んでいて、いっそ壮観だ。


 ただ、彼女が手勢を作っている様子はない。


「まあ、ただ。弱らせてくれるっていうのなら大歓迎かな。」


 ちらりと隅に目を向ける。


 そこには、中華風の衣装を纏った優男が目を瞑って立っていた。


「私の可愛い王子様が、一番強いんだってこと、教えてあげないとね。」


 にへへと口を歪ませる。


 中華ダンジョンのマスターの中でも異端。戦闘によらずに、自身の戦力を強化し続けるというスタイル。

 行火あんか。それが彼女の名である。ついたあだ名は穴籠もり。


 その牙が、ついに剥かれる時が来た。






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