第七十五話 砂浜合戦参戦
オーガとリザードマンの勝負の戦況は、リザードマンの優勢だった。
指揮官が優秀だ。
オーガたちを一匹ずつ孤立させ、ちまちまと削っている。
連携させる隙を与えないようにしているようだ。
一騎当千とばかりに得物を振るうオーガたちも全員やりにくそうだ。
盾で阻まれ有効打は出ず、後ろから剣をくらいダメージを負う。
静かに、だが着々と彼らは負けへと近づいていた。
「うーん。これは介入する暇はないかもな。」
『リザードマンの方が優勢だね。』
リザードマンの方がやりにくい。「炎耐性」持ちがちらほらいるのはかなりのネックだ。
混戦になったらまだやりようはあるのだが、妙に組織だった動きをしていてそれもあまり望めない。
規律的な動きをされると辛いな。
『でも、そろそろ戦況が動くと思うよ。君も気づいているでしょ?』
そう、オーガの戦力が少なすぎる。
確実に伏兵がいる。
頃合いを見て突っ込ませるつもりだろう。
リザードマンがこの戦場において勝利を収めるには、戦術だけでなく戦略が必要だった。
雄叫びが聞こえた。
リザードマンたちの動きが少し止まる。
その雄叫びが、戦場の外から響いてきたのがわかったからだろう。
指揮官は戦場に集中しろと檄を飛ばす。
そこに、巨体が突っ込んできた。
ジャイアントオーガ
Lv160
職業「将軍」
技能「突進」「斧使い」「軍略」「筋力増大」「破壊力増大」
その後ろからも続々とオーガが続く。どうも、軍を半分に分けていたらしい。
100体ほどのオーガがいきなりのことに混乱しているリザードマン軍に突っ込む。
おそらく、あの先頭のジャイアントオーガがこのオーガ軍の元締めだろうが、なかなか面白い判断をする。
最初に戦ってたオーガたちが崩れたら伏兵もクソもなかっただろうに。
随分と味方のことを信頼しているようだ。
さて、戦況は変わった。
リザードマンの優勢から、混乱に満ちた戦いになっている。
きちんと戦列を組んだところに突撃が入ったのだから当然だろう。
戦列は崩され、ボロボロだ。
「そろそろ行こう。」
『やってやるよ!』
そしてそれは俺たちが望んでいた状況でもある。
砂の中に身を潜めるのは終わりだ。
俺たちも参戦するぞ。
抜き放つのは千鳥。紅葉刃はリーチの短さから却下だ。
レンさんが「鼓舞」を用いて俺を強化する。
バフが俺を満たし、体が軽くなる。味方を強化することに関していえば彼女は一級品だ。
軍隊が彼女の鼓舞によって強化されて突撃してくる様を考えるだけで恐ろしい。
そうでなくても彼女の職業「英雄」はパーティを組んだ相手の能力値1.2倍にする効果がある。
味方としてこれほど頼もしい人もいない。
俺は前に走り抜ける
『ファイア!』
レンさんの炎魔法が、戦線の真ん中に爆煙を生み出した。
『魔術師がいるのか?!』
『ええい。動揺するな。』
爆炎に巻かれて状況を理解できているものがいない。
そこに俺は突っ込んだ。
「「纏雷」!」
千鳥に雷を纏わせる。
踏み込んで、袈裟懸けに切り上げる。
「うおりゃああぁ。」
リザードマンの鱗はなかなか硬いが、雷がバチバチと反応して耐久を減らしたおかげで、するっと刃が通る。
レベルが上がる。
確認するまでもなく次の相手が見つかる。俺より少し大きいくらいの大きさだな。
さらに切る。
1人だけで行くと囲まれて終わりだっただろうが、混戦の今ならみんな目の前の敵と戦うことで精一杯だ。
1人でも戦える。
後ろから炎が飛んできて、目の前のオーガが燃え上がる。
レンさんの援護だ。心強い。
リザードマンよりオーガの方が手強いが、オーガに関しては炎魔法に弱いからな。
全然いける。
「「雷切」!」
槍を投げて飛ばそうとする相手にはこちらも中距離攻撃があるから大丈夫だ。
纏った雷が飛んで行って跳ね飛ばす。
ビシビシと雷が弾ける。
神経を雷が高速で刺激し、目に見える世界がスローになる。
技能「西国無双」職業「異世界主人公(召喚予定なし)」。
この二つのおかげで戦闘能力は他を圧する。
切り上げ、切り捨て、胴切り。
砂地であることだけがネックだが、レベル差と技能の力で当たる気がしない。
体力が尽きないように振る舞うのが一番大事だ。
『お前、強いな? バトルしようぜ!』
ジャイアントオーガ
Lv159
職業「壊し屋」
技能「筋力増大」「握力増大」「斧適正」
最初から奮闘していたジャイアントオーガに捕捉された。
最初Lv150くらいだったはずなのにもうLv159になってる。レベルが上がりやすいフィールド効果は健在のようだ。
それでもこちらの方が実質的なレベルは高い。技能の効果で高まった破壊力は脅威だが、当たらなければどうということもないのだ。
大ぶりな斧を最小限の動きで躱す。
動きは見えている。
握力に任せて振るわれた斧が再び頭上を通過する。
下から踏み込んで、足を切りとばす。
見上げるような相手でも、こうしてしまえば怖くない。
『こんなんで終わってたまるかよ!』
片足のみで思いっきり踏ん張って、ジャイアントオーガは腕を回す。
叩きつけるような斧の風圧が、予想していなかった俺に襲いかかる。
砂浜に足が取られて、思うように回避できない。
一瞬の油断が命取りになる。
ダンジョンの基本だ。
なんとか、斧の一撃に千鳥を合わせた。
だが、力で勝てるわけもない。
1、2mほど吹っ飛ばされる。
着地も砂地。
衝撃はあまりない。
だがジャイアントオーガはその巨体に似合わぬ俊敏な動きで俺のあとを追ってきた。片足で踏み込んで、ひとっ飛びで俺のすぐそばに着地する。
片足だろうが。もう少し自重しろ。
追撃されたら流石にやばいぞ。




