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Lv666の褐色美少女を愛でたい  作者: 石化
第二章 西へ

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第七十二話 過去話っていらないと思うんだ

 阿弥那と向かい合う。彼女は見た目は普通の幼女だけど、大人並みの知性を感じさせる瞳をしている。

 だいぶ歪だと感じてしまう。


 何はともあれ、こういう状況になった以上、彼女たちと俺たちは運命共同体だ。



 余計なトラブルの元は無くしておきたい。


 別に姉妹同士が仲良くしなくちゃいけない道理はない。

 それでも、仲良くして欲しかった。

 つまりは俺のわがままだ。

 それでもわだかまりはどうにかして解こうと思う。


 そのためには、彼女から話を聞くことが一番の近道だ。



「本当なら話したくないんだけどね。」


 阿弥那はしばらくためらっていた。

 一人だけ精神年齢が飛び抜けているように見える彼女がそんな風に言う姿はとても信じられなくて、俺は目を疑っていた。どれだけのものが待っているか知らないけど、覚悟だけはしておこう。


 大丈夫だ。サトラの過去ほどひどいものは出てこないはず。

 あれっ、俺サトラの過去のこと知ってたっけ?

 聞いたことはないんだけどな。

 でも、それがとんでもなくひどいものだったことだけはなんとなく覚えている。



 あれを超えることはないだろう。


 俺は正直舐めていた。


 人の経験に優劣などつけられないことを考えていなかった。


 俺は幸運にも、どうしようも無いほど不幸な出来事に遭遇したことはほとんどない。


 阿弥那が語り始める。


「まあ、簡単な話なんだけどね。」


 つまり私たちは、互いに裏切りあったんだよ。裏切り合わされて殺されたと言う方が正確かな。


 彼女はあっけらかんとそう言った。


「私たちの家に強盗が押し入って来たんだ。私たちのうちの役に立った一人だけ生かすと言われてね。恐怖で、言われるがままにしてしまったんだ。幼かったし。」


「三人で争うように金目のものを探したよ。恐怖でおかしくなってたんだろうね。うまく誤魔化そうとかそういう考えは一切湧いてこなかった。」


「階段で二人に蹴落とされて、私はしばらく動けなかった。でも、痛みで冷静になれた。強盗が目を離している隙に両親に連絡すればいいことに気づいた。」


「ただ、私も幼かったんだ。親の部屋にある受話器が子機というやつだったと知らなくてね。こちらが電話していると、居間の連中にバレてしまったんだよ。当然強盗どもは激怒したさ。」


「お前らの中に、裏切った奴がいる。せっかく一人生かしてやろうと思ったんだが、気が変わった。全員殺してやるよ。そう言う強盗の目は血走っていて、とても正気じゃなかったよ。」


「千樹も社歌も、互いに互いを疑っていた。いつも張り合っていたからね。まあ、私も似たようなものだったさ。」


「死ぬ前、最後に、家のドアが開いて、誰かが駆け込んでくるのを見たような気がした。私はそれで救われた。私のやったことは無駄ではなかったんだってね。でも、他の二人はそうは思っていなかっただろう。」


「女神に誘われて別世界でダンジョンマスターをやることになったのは悪くなかった。幼くして死んだ私のボーナスステージだと思っていたよ。ただ、社歌と千樹は互いに攻撃し合っていたし、私の方にも攻撃してきた。」


「最後まで、姉妹を呪いながら死んだんだ。そりゃ、存在が許せなくもなるだろうよ。まあ、こんなところかな。私たちが仲が悪い理由は。」


「さて、仁兄さん。あなたは何かできるかい? この救えない私たちに救いをもたらせるかい?」


 俺はすぐには答えられない。


「まあ、それはそうだ。こんな事情、背負えるものじゃない。あなたならあるいはと思ったんだけどね。」



 阿弥那はずいぶん残念そうだった。

 俺に期待をしていたのかもしれない。

 姉妹の争いという状況を止めた俺と言う人物に。


 だが、流石に、彼女たちの事情は重すぎた。

 単純に英彦山ダンジョンを攻略してやろうという気分でやってきただけだったし⋯⋯ 。

 どうすれば解決できるんでしょうね。

 とはいえ、このままにしていいことでもないだろう。


 なんとか解決策のようなものを考えなくては。


「とにかく、ありがとな。話してくれて助かった。阿弥那も辛かっただろ?」


「これくらいどうってことないさ。でも、その気遣いは受け取っておくよ。」


 阿弥那は強がっていたけど、ちょっとだけ嬉しそうだった。

 思い返せというのを躊躇うほどに辛い記憶だったと思うが、阿弥那は強いな。

 素直に感心させられる。


 サトラのためにも辛い記憶を封印する方法はたくさん学んでおきたい。

 このケースなら、うん。あれが良いだろう。


「そうだな。とりあえず、それを社歌にも話して仕舞えばどうだ?」


感情はともかく、理屈の面では頷かざるえないと思う。阿弥那がやったことは、間違ったことではないのだから。


「あの子が聞くわけないよ。こちらからコンタクトを取ろうとしても、兵が殺されるばかりだったからね。」


「それは昔の話だろ? 今は俺たちのせいもといおかげで、一緒に過ごさざるを得ない状況になっている。話すのならば今しかないと思うぞ。」


俺の言葉に、阿弥那は難しげな顔をして下を向いた。


「それができれば苦労はしないよ。」


「意外となんとかなるかもしれないぞ。」


「気楽なもんだね。」


「まあ部外者だからな。でも、だからこそ一歩引いて見られると思う。」


「それは、そうかもね。」


「俺の提案は以上だ。まあ、あれだ。どうせ恨まれているんだから、話したところで、マイナスには働かないさ。」


少なくとも、俺が伝えるのは悪手だ。こういうことは自分で伝えてこそ、意味がある。




「ふたりでなにはなしてたの!?」


レンさんに抱きしめられていた社歌が、腕から抜け出してやってきた。


随分と不満そうで不安そうな様子だ。


とりあえず頭を撫でておく。


「大したことじゃないから心配しなくていい。」


「ほんと?」


「ああ。」


ことさら心配させるようなことでもないだろう。


「ならよかった。」


目に見えて安心したような様子になる。


やっぱりちょろい。

でも、阿弥那の話を聞いた後だと、そのちょろさが逆に不審かもしれない。

そんな目にあって、どうして信頼できるんだろう。


「どうしたの?」


俺の戸惑いに気づいたのか、上目遣いで彼女は言う。



「社歌はいい子だと思ってな。」


「そんなことはないよ。」


何故だか社歌は否定して、悲しそうな表情をしていた。



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