第七十一話 レンさんは友達以上
レンさんに責任をとってねと言われた。
サトラに純愛を誓いたいんだが、何かやってしまった場合、流石に責任を取らないのは無責任だ。
少なくとも、胸を揉んだ時点で有罪感がある。
俺は苦悩していた。
どうすればいいんだ。
「なんてね。冗談だから、そんなに気にやむことはないよ。」
さっきまでの真っ赤な様子から一転して、レンさんはいたずら小僧のような笑みを見せる。
俺の悩んだ様子から一瞬で重荷だと判断したのだろう。
こちらへの気遣いがありがたい。
ただ、レンさんに無理をさせているのではないかと、そう思ってしまった。
彼女の所属はアメリカ軍だ。
アメリカ軍は、こちらの話も聞かずに襲いかかってきた。
そのせいでめちゃくちゃ悪印象を抱いている。
だけど、レンさんは別だ。
最初にダンジョンで会った時から今に至るまで、ずっと彼女は好感が持てる存在だった。
自分の欲望に良くも悪くも忠実で、戦う時も後腐れのないさっぱりとした後味を残した。
そんな彼女が、いかに冗談めかして言おうと、その好意に一抹の真実が含まれないなんてありえない。
そんな演技ができるような人じゃない。
正直、そんなに好かれるようなことをした覚えがないのが疑問だけど、彼女の好意はおそらく本物だ。
そして、俺も、多分彼女のことは好きだ。嫌いになる要素がない。友人以上で恋人未満。少なくともそのレベルで好意を抱いている。
その気づきは俺に変化をもたらした。
体に力がみなぎっている気がする。
自身を鑑定する。
名前 直方仁
Lv 140(*1.5)
職業「異世界主人公(召喚予定なし)」
技能「鑑定」「言語伝達」「威圧耐性」「超回復」「加速」「精神力」「料理」「西国無双」
称号「異世界主人公」
⋯⋯ 。補正がかかっていますね。まだ恋人未満以上になるつもりはないんだけどな。
深層心理的に彼女のことをヒロインとして認めちゃったってことか。
俺の深層意識の節操のなさに呆れるべきだろうか。
でも、今は心強いことこの上ない。この状況から帰還するためには、俺のこの力は必要不可欠だ。
よかった。
今は喜んでおきたい。
「あれ、仁。なんだか強くなったみたいだね。ひょっとして、私のこと好きになっちゃった?」
レンさんには一瞬でバレた。くっ。鑑識眼とか言う技能が強すぎるんだけど。
露骨にスキンシップが多くなったレンさんをなんとかあしらいながら、こたつに向かった。
朝ごはん、作るか⋯⋯ 。
●
阿弥那の力で食材は確保できたので、とりあえず、俺が技能「料理」を最大活用して朝ごはんを完成させた。
阿弥那が目を見張って、さらに食材を呼び出そうとしたり、社歌がはしゃいで飛びついてきたり、レンさんが俺をお嫁にもらうなどと冗談を言ったりする程度には好評だった。
サトラと千樹がどうなってるかだいぶ不安だが、あっちはサトラの技能「収納」にたくさん食材が入っているから大丈夫だろう。全て焼肉オンリーかもしれないがそれはご愁傷様と言うことで。
しかし、サトラだけに食品の管理を任せてると今回のように転移魔法で離れ離れになった時が悲惨だな。
今度からは俺も非常食を持っておこう。正直に言うと英彦山ダンジョンを舐めていた。そんな初見殺しの罠なんてないと思い込んでいた。
実際なかったわけだけど、そのあとこのような催しに参加させられてしまったのだから、やっぱり備えあれば憂いなしだ。
ご飯を食べたら今後の方針を話し合う。
基本的には昨日言っていたとおりだ。
偵察人形で周囲を警戒しつつ、サトラとの合流を図る。
俺の戦力大幅アップが見込めるし、サトラ自身も一人で全てを相手取ってなお勝てる実力者だ。
彼女と合流できればもう負けはなくなると言えるだろう。
レンさんをヒロインとしてみると言う荒療治で、俺のレベルは実質210まで上がったけど、今回のダンジョン戦ではまだ不安が残る。
基本レベル200のダンジョンは往往にして、ボスのレベルは300に匹敵する。
雑魚モンスタープラス100くらいは余裕を見ておいたほうがいい。
昨日のゴリラたちを見ている限り、300と言うのは全然ありえる数値だ。
レベリングという概念を持った相手ならこれ以上の値になる可能性もある。
レンさんも、まだレベルは179だ。このダンジョン戦で安全に行動するには足りない。
二人で組めば勝てるかもしれないが、余計な危険は冒さないほうがいいだろう。
サトラを探す。それでいいはずだ。
『私もそれがいいと思うよ。』
「賛成。」
「じんがそういうなら!」
社歌は何も考えてないよな。
信頼してもらってるってことだろう。
「⋯⋯せんじゅがくるのはおもしろくないけど。」
彼女は思い直したようにそう言った。
「そういえば何でお前らは仲が悪かったんだ?姉妹だったんじゃないのか?」
「いいたくない。」
ぷいと彼女はそっぽを向く。
心を開いてくれたように見えたのは気のせいだったのか。
「昔は仲よかったんだけどね。今じゃご覧の通りさ。二人連れだって私のダンジョンに来た時は何事かと思ったよ。」
「何があったのか教えてもらってもいいか?」
「構わない。だけど、社歌には聞こえない場所でやりたいかな。」
「へ?」
社歌が怪訝な顔をする。阿弥那の話が意外だったのか?
「いいだろう。」
俺は頷いて、別の部屋に向かった。
ついて来ようとした社歌はレンさんが押しとどめてくれた。
有り難い。




