第七十話 レンさんはヒロイン?
レンさんに説明することにした。もちろんこたつにくるまりながらだ。
こたつあったかい。こうしてぬくぬくできるのは最高だな。
「俺が弱くなっているのは俺の職業の効果だ。異世界主人公(召喚予定なし)って言うんだが。」
『聞いたことないね。』
「そんなたくさん持ってる人がいたら俺の立つ瀬がなくなる。」
『それで、どんな効果なの?』
「ヒロインと認識する相手と一緒にいた場合、レベル二倍扱いになる。」
『⋯⋯ やばくない?』
「やばい。」
『それでレベルが上下して感じる圧力が変わってたのか。』
「俺の今のレベルは133。いや、140になってるな?」
さっきの戦闘でレベルが上がったらしい。蜂しか倒していないんだけどな⋯⋯ 。
蠍に少し攻撃を仕掛けたからその分も加算されているのかもしれない。
あとこのダンジョンの過剰とも言える経験値効率のおかげだろう。
『つまり、トライヘキサが合流したらレベル280なんだね。』
「ああ。だから、早めに見つけたい。」
『私の『英雄』も全能力値1.4倍、パーティを組んだ相手の能力値1.2倍だから随分すごいと思ってたんだけどね。』
「いや、それはすごいよ。」
俺と違って条件もないんだろ?
汎用性が段違いだ。
「ふむふむ。ヒロイン扱いにすればいいと言うことなら、別にあの褐色娘でなくてもいいんじゃないかい?」
阿弥那が爆弾を投下した。
その可能性は高いんだよなあ⋯⋯ 。
ハーレムものを許容するかどうかという話だ。
できればサトラ一筋でいたい。
いたいんだが、この平均レベル180環境においてレベル140というのは不安すぎる。
技能「加速」と技能「西国無双」の効果でギリギリ渡り合えているとはいえ、200レベ台の敵がでてきた時点でこの戦略は瓦解する。
さっきのゴリラを見ればわかるように、弱くても同格と渡り合って勝てばレベルは上がるだろうしな⋯⋯ 。
レベリング効率がいいのも良し悪しだ。
一応西国無双は働いているらしい。ここは多分中国なのだろうし、頷ける話だ。
福岡から海を渡って西に行くと中国に達するからな。
『私がアプローチしてみようか?』
レンさんは冗談めかして笑った。
サトラがいないこの状況だと、冗談にならなそうなのでやめてほしいな⋯⋯ 。抗える自信がない。
「わたしも!」
社歌は意味がわかってないんだろうな。微笑ましい。
「むう。ほんきだもん。」
とりあえず頭を撫でておこう。よしよし。
社歌はリラックスをした表情になった。
まだまだ子供だ。
「私としては恋人を作ることを推奨しておくよ。」
阿弥那は幾分そっけない。
とはいえ、彼女の言うことは正論だ。耳が痛い。
「まあ、今日は疲れただろうね。疲労が溜まっているようだ。適当に布団を出しておくから疲れを取るといい。こたつは私が使う。」
阿弥那は断固とした調子で言った。
こたつ大好きだな。寝る場所を用意してくれるだけ有情と言うべきだろう。
確かに、英彦山ダンジョンに潜ってから何時間経ったことだろうか。
神経が高ぶっていたから感じなかったけど、おそらくもう深夜と言うべき時間帯だ。
眠気を自覚する。あっという間に猛烈に眠くなった。
実家に連絡しないと⋯⋯ 。一日でこんな事態に陥るとは思っていなかったぞ。
そう思いながらも、阿弥那の出した布団の誘惑に耐えきれなくなった。
布団にダイブするこの感覚。最高すぎる。
どうせ携帯の電波も通じてないだろうし、全てが終わってからでいいか。
ダンジョンに行く時は連絡がつかないこと時間が数日にわたることも多かったし、両親も理解してくれるだろう。
布団に関しては阿弥那に感謝しないとな。
自分の快適さのために妥協をしない性格のおかげだ。
ものすごく眠い。おやすみなさい。
誰かが俺の布団に潜り込んできたような⋯⋯ 。気のせいだろう。
柔らかくて気持ちいい。
意識は布団の中に落ちていった。
●
むにむにむに。
柔らかな感触が手にあった。
手ですっぽりと包むことができる。
とても落ち着く。
ゆっくりと覚醒する。
形の良い金の髪が目の前にあった。一つの布団を被っている。
俺の手が揉んでいるのは、彼女の胸だ。
これは、あれだな。朝チュンってやつだな。
⋯⋯ 。
まずくね?
レンさんとそういう関係にならないって昨日決めたばかりだろ?
いやいやいや。まだそういうことだと決まったわけじゃない。
落ち着け。クールになれ。
起きたレンさんの反応を見て考えても遅くない。
あ、レンさんが体を起こして目をこすってる。
眠たげだった目が開かれて、いつものレンさんになった。
朝に強い人みたいだ。
「あ、おはよう。昨日はありがとね⋯⋯ 。」
いやちょっと待って。なんで、そこで顔を赤くして目を逸らす。
勘ぐってしまうだろ。もっと快活にきてくれよ。レンさんはそんなキャラじゃないでしょ。
何もないよな。そうだよな。
確認してみようか。
「レンさん、昨日、布団の中で何もなかったよね。」
「とっても激しかったよ。」
顔を赤くしたまま彼女は目を合わせない。
言い逃れができない⋯⋯ !
「責任とってね?」
俺は決断を迫られていた。




