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Lv666の褐色美少女を愛でたい  作者: 石化
第一章 東京

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第七話 自己紹介

 

 一夜明けて、ベッドから身を起こした。

 俺がソファを使うのもやぶさかじゃなかったんだけど、彼女があんまり気持ちよさそうに寝ているもんだから、起こせなかった。


 彼女はまだ寝ているようだ。

 朝ごはんでも作ってやろう。

 普通にご飯に味噌汁でいいだろうか。

 納豆は⋯⋯。

 やめたほうが良さそうだ。初見であれを気に入る人はそうそういない。

 豆腐にしよう。


 あっちの方がまだ食べやすいだろう。


 そんなに手間でもないのでぱっぱと作っていく。

 まだ夏休みの間で助かった。

 大学があったら彼女を置いていくか迷って、おそらく学校を休むことになっただろう。

 それくらい彼女の存在は俺の中で大きなものになっていた。


 置き机にご飯を並べる。

 彼女は身じろぎをした。ひょっとして、ご飯の匂いに反応してる?

 彼女の鼻先に香りを送り込んで見る。


 表情が緩んだのがわかった。ほんとは起きてるんだろと言いたくなる。

 でも、起きてる彼女は多分こんな表情は見せない。

 表情筋が死んでるんじゃないかと思うくらいには無表情だから。


「はい、あーん。」


 思い切って彼女の口にご飯を運んでみた。当然、何も起こらない。

 恋人みたいなことをするには気が早い、か。


 それはわかってるけど、俺はこういうことに憧れていたんだよ。


 でも、柄でもないことをした。

 一人で恥ずかしさに震える。


 ⋯⋯ん? これ、彼女の口に運んで戻したスプーンだよな。

 どうしてご飯がなくなってるんだ?

 床に落としたか?

 見てみたけど、そんな様子はなかった。


 まさか⋯⋯。

 彼女の方をもう一度良くみてみる。


 口をもぐもぐさせている。お前が犯人かよ。

 飯が消えたのに気づかないとか、どんな早業だ。


『⋯⋯むにゃ。美味し。』


 そしてまだ寝てますね。なんで寝ながら食べられるんだよ。すごいな。


 流石にこれ以上はやっちゃダメな気がしたので、おとなしく彼女が起きるのを待つことにした。


 問題はこれから何を話すかだな。

 気になっているのは、彼女の素性と、過去と、どうしてここにいるのか。

 その三つだ。


 まだ警戒しているだろうし、口数も多い方じゃなさそうだからな。

 聞き出すのは難題かもしれない。


 それよりも、普通に仲良くなりたい。

 そのほうが、話もしてくれるようになるだろうし。

 でも、女の子と仲良くなるにはどうすればいいんだろうか。

 なんか大きな出来事を一緒に解決するのが王道のはずなんだけど、交流だけで好感度上げる方法はわからない。

 いや、彼女に関していえば美味しい食事を作っていれば大丈夫かもしれない。

 未だ幸せそうな顔でもぐもぐしている寝姿を見るとそう思った。

 となると、料理の修行を積むのがいいのかも。


 自分の手料理で彼女の表情が緩むのを妄想してしまう。

 今は無理かもしれないけど、いつかそうなってくれたらいいな。


 そのまま彼女の寝顔を見ていた。相手が寝ていると落ち着いて見られる気がするのはなんでだろう。

 睫毛とか、鼻梁とか、純粋に綺麗だなと思える。


 ゆっくり目を開けた彼女は、ゆっくりとあたりを見渡して、跳ね起きた。


 こちらを、きつい目つきで睨んでくる。


「昨日ぶりだな。飯作ったぞ。」


『⋯⋯。ありがとう。』


 ようやく状況に合点がいったのか、彼女から感じる圧力が減った。


 Lv差を考えれば当然だろう。

 彼女が俺を殺そうと思えば、すぐに殺されてしまう。


 それは怖い。偽らざる感情として、そう言える。

 それでも、仲を深めたい。


 ご飯をおかわりする彼女に付き合って、俺も朝食を食べた。

 いつもよりも美味しい気がする。いつもの朝食は適当で時々抜いていたからな。

 それよりも何よりも俺以外の誰かと一緒に食べているからだと思うけど。


 片付けまでして一息入れて、俺は彼女に話しかけた。


「とりあえず、自己紹介をしよう。お前の名前は?」


『私はトライヘキサって呼ばれてる。』


「俺は、直方のうがた仁だ。よろしくな。」


 最初に名乗ったけど、多分覚えてないだろうからもう一度言っておいた。


『よろしく。』


 うんうん。鑑定で名前がわかっているとはいえ、いきなり呼んだら驚かれるだろうからな。

 名前を言ってもらえたのは大きい。


「じゃあ、なんて呼べばいい?」


『トライヘキサって名前は好きじゃない。』


「そっか。」


『好きな風に呼べばいいよ。』


「サトラとかどうだ?」


 単純に、トライヘキサの中から三つの音を選んだだけだけど。


『悪くない。』


「じゃあ、そう呼ぶぞ。」


『いいよ。』


「サトラ。」


『うん。』


 自分で決めた名前で呼ぶのはちょっと後ろめたいな⋯⋯。

 俺のエゴを押し付けてしまった気がする。

 で、彼女に今言いたいのは、問い詰める言葉じゃなくて⋯⋯。


「ちょっとあれだが、お風呂に入ってくれないか?」


 臭いというわけじゃない。どちらかといえば焦げ臭い。

 やはりあの彗星は彼女だったのか?

 ⋯⋯ それはいいんだ。

 何はともあれ、お風呂に入ったら生き返る。

 だからこそ、落ち着いた彼女に、お風呂に入って欲しかった。


『お風呂⋯⋯?』


「ひょっとして知らない⋯⋯?」


『わからない。教えて。』


 まあ、見せればいいか。


 風呂場に案内した。そういえば、お湯を入れるのを忘れていたな。


 蛇口をひねって、お湯を出す。


「この中に浸かることをお風呂に入ると言うんだ。気持ちいいぞ。」


『なるほどわかった。』


 わかってくれたか。良かった。


「じゃあ、俺はこれで。わかってるだろうけど、鎧は脱げよ。」


『一緒に入らないの?』


「むしろなぜそう思った。」


『ご飯は二人で食べたら美味しかったから。』


「お風呂はだめ。」


『どうしても⋯⋯?』


 俺は彼女のまっすぐな視線にたじろぐことしかできなかった。

 無知シチュかな?


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