第六十五話 ダンジョンバトルだよ全員集合
前回までのあらすじ。
ダンジョンものだと思っていたらバトルロワイヤルものだった。
「あっ、間違えた。⋯⋯これから貴方達には戦争をしてもらいます。」
言い直したぞ。
何言ってるんだこの元凶の女神は。
俺は胡乱な目で彼女を見つめる。
「理由はもちろん、東アジアの貴方達が不仲だからよ。せっかく地上に進出しているのにどいつもこいつも仲間内で争ってるの。意味がわからないんだけど。」
現状を憂いているような言葉が続く。なるほど、考えもなしにやっているんじゃないことだけはわかった。
中国大陸の現状については俺も聞いたことがある。
圧倒的な物量のダンジョン生物に襲われた中国は、古の三皇五帝の時代の戦略に習った。
すなわち、城塞都市の建設だ。
都市の周りを壁で覆い、外界の脅威から身を守る。
昔は異民族や他国に対抗するために使われたその建築が今回は、ダンジョン生物への守りとして用いられている。
現在の中国では、一歩町の外に出ることは自殺行為だ。
とはいえ、主要街道はなんとか守られている。
これは、戦力を大量に投じている成果だ。アメリカと肩を並べる大国だった中国の戦力は今、自国の秩序を守るために差し向けられている。
さらに、魔物同士が仲間割れをしていることも大きい。
別種の魔物が出会った時、確実に争いが起こっており、協力して攻めようという意識が皆無なのだ。
そのため、今の中国は、絶望の中にか細い一抹の希望を残した地域となっている。
なんとかダンジョンに同士討ちを繰り返させ、領土を取り戻す。
それが今の中国政府が取りうる最大の手だ。
そして、今、この女神が変えようとしているのも、その不仲なのだろう。
「領土を取りたいという意識が強いのはわかっていたわ。それでも、ここを占領するくらいはやってくれると思ってたのに。アフリカの子達と比べて手際が悪すぎる。」
女神の言い分は続く。
「と、いうわけでね。あらかじめ最後の一人になるまで戦わせて、その子が大陸を統一してくれればいいかなって。」
「一番期待していた子がいなくなっちゃったしね。ここらで一発かましておきたいじゃない? 手伝ってくれるわよね?」
純真無害を装って、女神は無邪気に問いかける。
そして、それに応える声は、ほとんどがYESだった。
くっ。こいつら、女神に心酔してやがる。
「そう。じゃあ、始めましょうか。せいぜい私の退屈しのぎとして活躍なさい。」
彼女は指をパチンと鳴らした。
すぐに全員の前に光の柱が現れる。
触れた相手から消えていく。
⋯⋯ 合流は望めないか。
行くしかない。とりあえずこれを勝ち上がって、あの元凶女神に一発入れるぞ。
まずはサトラとの合流を目指そう。
今のレベルじゃ、他のダンジョンマスターの眷属と真正面から戦うことはできないからな。
⋯⋯ 全員、同じマップだよね? だよね?
合流できるよな?
一抹の不安は残る。それに構うことなく、光は俺の身を包んだ。
●
ーCAUTION!ー
これはダンジョンバトルです。バトルロワイヤルモードと単騎対戦モードがあります。バトルロワイヤルモードは、こちらを選んだ人々限定で最後の一人になるまで戦います。協力、裏切りなんでもありです。
単騎対戦モードはトーナメントです。最後の一人になるまで勝ち上がってもらいます。最終的に残った二人でダンジョンバトルをして、勝ち残ったほうが中華を統一することになります。
社歌の前に、そんなことを書いたウィンドウが現れている。
「社歌、バトルロワイヤルモードにしろ。仲間と合流したい。」
「なんでわたしがあんたのいうことをきかなくちゃいけないのよ!」
「死ぬぞ。」
「ひっ?! なっ、ならしかたないわね!」
脅された社歌は俺の言う通りにした。
大丈夫なのかな、この子⋯⋯ ?
今はやりやすいか。
と、今のうちに俺のステータスも確認しておこう。
二つのボスを倒したしめちゃくちゃレベルアップしてないかな。
名前 直方仁
Lv 133
職業「異世界主人公(召喚予定なし)」
技能「鑑定」「言語伝達」「威圧耐性」「超回復」「加速」「精神力」「料理」「西国無双」
称号「異世界主人公」
サトラがいないと厳しいな⋯⋯ 。さっき見た他の眷属たち、だいたいLv180くらいあったもんな。強いやつはLv200超えてたし。
ーバトルロワイヤルモードが選択されました。フィールドに接続します。ー
振動が聞こえた。
社歌の前に地図が広がる。
この周辺の地図だ。
現在地と、それに接続する大部屋。さらにそこから伸びる通路。
ダンジョンバトルらしいから、社歌のダンジョンを再現したのか。
全員のダンジョンが接続されたか、特定のフィールドに転送されたかだな。
うーん。見覚えがあるような無いような。
ヒカリゴケの光度的に別フィールドに転送された可能性が高そう。昼間のように明るい。
多分マッピングは必須だ。
「どうするの?」
「人形を出せるんだろ? とりあえず偵察だ。小さいサイズで機動力に優れた個体を作ってマッピングしてくれ。」
「おまえはいかないの?」
「俺は弱いぞ。」
「うそでしょめちゃくちゃつよかったじゃん。」
「俺はサトラありきの強さだからな。サトラと合流しないと話にならない。」
「⋯⋯ ほんとだ!えっ。わたしのせんりょくよわすぎない?」
「だから頭を使うしかないだろ。」
「とりあえずわなつくる。」
「もっと計画的にリソースを使え。」
「かんがえてるもん⋯⋯ 。」
「正直に言って、サトラとさえ合流できれば敵はいない。ここに引きこもるよりも、積極的に合流を図るべきだ。」
「なるほどね!」
方針は決めた。
「あっ。なにかみえたよ。」
偵察人形の視界が共有される。
あれは、蠍人間か⋯⋯ ?
鋏と毒針尻尾が特徴的だ。
黒光りしていてかっこいいけど、どこからどう見てもやばそうな雰囲気を発している。
「やり過ごせ。」
「もちろん!」
全力で頷いた社歌が人形の動きを止める。
蠍人間は、しばらく頭をフリフリと動かす。
次の瞬間、尻尾が伸びて、人形に向かってきて、そして視界が暗転した。
いや、感覚器官の性能いいな、おい?
「⋯⋯逃げようか。」
「はやくいかなきゃころされちゃう。」
尻尾を巻いて逃げ出すことにした。




