第六十四話 転移?
さて、邪魔が入ったが、今の所一番の問題は、この三人のダンジョンマスターに英彦山ダンジョンを統一させることだ。
もともと社歌から聞いたことだったけど、多分阿弥那に聞くのが一番良さそう。
あの子が一番よく説明ができそうだ。
ということで、阿弥那に聞いてみた。
「え〜。私たちのダンジョンの統合? 確かに一つの手ではあるのかも?」
はぐらかしているんじゃないとは思うけど、彼女の言葉はふわふわとしていてとらえどころがない。
「まー、あんまり気にしなくてもいいと思うよ。人間世界への侵攻なんて考えてないし。」
「ふたりにまけなければいいもんね!」
「わたしもそのとおりだとおもうっちゃん。」
確かにこの三人がダンジョンマスターだったら、あんまり気にしなくてもいいのかもしれない。
ある日突然スタンピードが起こる可能性は低そうだ。
ともかく詳しい話を聞こうと俺は彼女たちのそばに向かった。
三人ともゴロゴロとくつろいでいて羨ましい。
前触れはなかった。だからこの後起こったことに対応することは不可能だったと言える。
「あっ。」
「へっ?」
「なによこれぇ?」
三者三様の叫びとともに、三人の後ろに光の柱が立つ。
ー従者はダンジョン内の一人を選ぶことができますー
謎の声がした。
社歌が俺を、千樹がサトラを、阿弥那がレンさんをそれぞれ指差した。
社歌はテンパっていて、思わず指差したという感じ。
阿弥那は落ち着いて、いくらか状況を把握しているらしい。
千樹は流れで指差したようだ。
後ろの光が膨れ上がる。
数秒後、そこに、六人の姿はなかった。
沈黙とともに、お互いの目を見合う勇者たち。
彼らはなにが起こったのか理解できなかった。
理解できるのは、縛られたままダンジョンの奥深くで取り残されたという事実だけ。
徐々に恐怖が背中を駆け上がる。
彼らは恐慌の一歩手前にあった。
そこに寄ってくる涅槃人形の群れ。
彼らの生命は風前の灯火だ。
勇者が限界突破に目覚め、縛られたまま強引に突破するまで後10分。
縄は硬く、彼らが地上に帰還してやっと解けた。
サトラは縛るためだけに本気を出しすぎである。
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謎の光に包まれた俺が目を開けると、そこは奇妙な場所だった。
おそらくどこかの宮殿だと思われる豪奢な空間だ。
天井が高く、装飾も華美。建築様式的には、中華だろうか。
そこに、俺は転移させられた。
慌てて、周囲を見渡す。
サトラとレンの姿がない。
孤立させられた。
冷や水を浴びせられたような気持ちだ。
俺が人類の中では高レベルを誇っているというのはサトラ込みでの話。
レベリングをしたとはいえ、まだ130という数値は、あまりにも心もとない。
周りには大勢の人がいた。いや、人と言っていいのかは微妙だ。
半分のレベルがなしと表示され、もう半分はかなりの高レベルー200を超えているものもいるーに人外じみた格好だ。
つまるところ、これはダンジョンマスターの集会か何かだろう。
魔女集会で会いましょうみたいなノリだ。
なんでそんなところに一冒険者でしかない俺がいるんだよ。
くいくいと袖を引かれた。
見下ろすと、そこには心細そうな社歌の姿があった。
「わたしがえらんだんだから、まもってよ⋯⋯ 。」
つまり、あの指差しはそういうことね。
よりにも寄って単体では最弱の俺を選ぶとかなにを考えてるんだろうか。
とっさに選んだことを考えれば単純にこの子は運がないってことになるな。
とはいえ、希望は見えてきた。
他の二人も同じようにサトラとレンを選んだことは確認している。
なら、この会場に二人ともいるはずだ。なら探し出すことが急務だろう。
自然と社歌の頭に手を置いた。
社歌の不安そうな表情が安心したものに変わる。
俺は信頼されているのか。
あの短い道中で、そこまでのことはした覚えがないんだけどな。
まあ、悪い気はしない。この状況が解決するまでは一緒にいよう。
「よく集まったわね、ダンジョンマスターの諸君!」
朗々とした声が響いた。
声に種類があるとも思えないが、言うなれば神のようなというのが適切な声だ。
神秘性と神々しさが同居した声質。ただ、微妙に胡散臭かった。
細工を弄して大衆を扇動する独裁者。神の声を聞いて人を導く預言者。
信じてもいない俺にとってはただひたすら胡散臭い。
だが、ここに集まった人々にとっては違うみたいだ。
熱狂的な歓声が響いてその声の主人を迎え入れる。
扉が開く。
大きな海原、青すぎる空、舞い散る赤い花びらを背景にして、美しすぎるほどに完璧な女性が現れた。
リゾートにでも行ってたんだろうか。
場違いな気もするが、そんな感想を抱いてしまった。
さらに歓声が大きくなる。大した人気だ。
「ありがとう。私の子達。久しぶりね。」
「女神様ー!」
「待ってたぞー!」
「美しいー!」
熱気に当てられて気分が悪くなる。
社歌は歓声を上げるかどうか迷って、俺の顔色を見て口をつぐむことに決めたようだ。
そんなにひどい顔してるか?
ともあれ、彼女が親玉のようだ。
ダンジョンマスターを子と呼ぶ女神など、元凶に決まっている。
ダンジョン発生の真相に迫っているような気がしてきた。
麗しく周囲を落ち着かせた彼女は口を開く。
「貴方達には殺し合いをしてもらいます。」
いつものだった。デスゲームの入りに必ず言われるやつだ。
なんでここでいつものが来るんだよおかしいだろ。
俺は突っ込みたくなる口を必死で抑えた。




