第六十三話 グータラ系ダウナー幼女(ちょっと賢い)
俺たちは絶句する。
少なくとも、社歌と千樹は、こんな部屋じゃなかったぞ。壁むき出しのダンジョンそのままの部屋だったぞ。椅子くらいはあったけど、それだけだ。
それに対してこっちはどうだ。人をダメにするものがたくさんある。
あの椅子とかまさにそれでしょ。謳い文句が人をダメにするだったでしょ。
「ん〜。いらっしゃい。ゆっくりしていって。」
ウェーブがかった黒髪の、社歌と千樹によく似た女の子が寝転がりながらこちらに声をかけた。
黒森阿弥那
Lvなし
職業「ダンジョンマスター」
技能「ダンジョン操作」「眷属作成」「罠設置」「ダンジョンポイント還元」
称号「北岳のダンジョンマスター」
「ダンジョンポイント還元」という、他の二人にはなかった技能を所持している。
おそらくこの力で、ここにある引きこもり用品を手に入れたに違いない。
二人とは生活の質が違いすぎる。
「すごか⋯⋯ 。」
「なんなのよあみだばっかり!ずるいわ!」
「でも、君たち戦ってばっかりだったじゃん。」
「いいかえせない⋯⋯ 。悔しい。」
「じゃけん、うちのほうにあんまりせめてこんやったんね。」
「戦うより楽しいことがあるからね。」
「よくわかんない。」
阿弥那は他二人よりも精神的に進んでいるようだ。
舌足らずな感じがしない。
「何はともあれ、私はダラダラするだけだから。」
そう言って、彼女はまたゲーム画面を向く。
一人で完結した世界を持っている、そんな子だな。
ふむ。
これで、英彦山ダンジョンのダンジョンマスター三人が揃った。
社歌が最初に言ったことを思い出そう。
ここから三人の中で一番を決めて統一させれば、ダンジョンを消すことができるようになるという。
正直なところ眉唾ものだ。
そして、そういう雰囲気でもない。
社歌と千樹は、こたつに潜ってぬくぬくしている。まだ夏だと思うんだけどな⋯⋯ 。
なんでこの子たち対立していたんだろうか。
そんな様子は微塵もないんだけど。
気になるな。そして、このまま放置していても全然話が進まないことが目に見えている。
俺は口を開こうとした。
「何者だ、お前ら! 誰がこれをやった!?」
それを誰かの大声が打ち消した。
そちらを振り向くと、大剣を携えてファンタジーじみた衣装を纏った男、優美な杖を持った女。拳闘士のような装備を纏った男が、大部屋に踏み込んできていた。
「逆にお前らが誰だよ⋯⋯ 。」
「俺は勇者、都丸勇気だ!」
「私は聖女、平瀬茜です。」
「俺は拳闘士。狭間道之。」
ん? なんだか、聞いた覚えがあるな。
というか、高校で見た覚えがあるんだが。
「あっ!」
思い出した。
こいつら、俺の高校から、ダンジョン攻略専門学校に移籍した奴らだ。
最強職業を持っていた彼らは、学生時代から華々しい活躍をしていると聞いた。
それが聞きたくなかったから、俺は東日本に渡ったんだ。
そんな奴らとここで再会する事になるなんてな。
「鑑定」を通して見える奴らのレベルは、140前後だ。
西日本の基準で考えれば、特異的と言ってもいいレベル。
ここにいた頃の俺の二倍以上のレベルだ。
素直にすごいかもしれない。
今となってはそこまでの驚きはない。常識では測れないレベルの存在を知りすぎた。
サトラとか、輝夜さんとか、愛さんとか。
世界は広い。
「そうだ。俺たちはあの学校の生徒だ。なら、君たちができるだけ便宜を図るのは当然だろう? 」
その学校に通っている間に選民思想でも植えつけられたのかな?
そんなやつじゃなかったと思うんだけど。
いや、俺は遠巻きに見てただけだったから、もしかしたらこの性格がデフォルトなのかもしれない。
「勇気くん、言い過ぎです。でも、その後ろの子たちが何者かは、教えて欲しいですね。」
聖女さんが、後ろでだらっとしている幼女三人に厳しい視線を向ける。
「ひぃ。」
社歌だけ、怯えている。
他二人は、寝ている方と、ゲームを続ける方に別れているけど気にしていない。
薄々気づいていたけど、社歌って、威張るわりにヘタレだよね。
「それより俺はあれが気になるぜ。あの、人形、どう考えてもボスだろ? 俺たち以外にあの面倒な敵を倒せる奴がいるとは思えないんだがなあ。」
拳闘士の男が、ドール・コンルの残骸を指差す。
「そうだな。教えてくれ。」
『仁、あいつら、嫌な事言ってるよね。脅す?』
『私もそっちがいいと思うよ。ああいう輩は言葉じゃわからないから。』
二人とも物騒だぞ。通じないからいいものを。⋯⋯あっ。俺の技能「言語伝達」に進化してたんだった。
向こうにもサトラとレンさんの言葉が伝わっちゃう。
「おい。それはなんの冗談だ?」
「俺たちを脅すって? あの学校の卒業生だぞ。」
「流石に無謀だと思いますよ。」
煽ったと思われちゃったじゃんか。
⋯⋯ もう大人しくさせた方が早い気がしてきた。
「サトラ、頼む。」
『わかった。仁のため。頑張る。』
次の瞬間、サトラの体が矢のように加速する。
「へ?」
「は?」
「ふ?」
三人は目を白黒させることしかできなかった。
各自の喉の前を、サトラの槍が一閃する。
ただの一行動、それに対して、誰も反応できなかった。
それは彼らと彼女の圧倒的な実力差を示すものだ。
彼らは自然と両手を上にあげて、敵対の意思がないことをアピールする。
一瞬で、格付けが決まってしまった。
サトラの強さは反則級だ。
そのまま、「収納」から縄を取り出して縛り上げる。
三人は喚くことも忘れてなされるがままだ。サトラの実力を肌で感じて何もできなくなったのだろう。
ちょっとわかる。勝ち目がないって思うよな⋯⋯ 。
それでも俺は追いつくけど。




