第五十九話 玉屋窟
ダンジョン内はひどい暗闇である。
レンさんがすぐに火魔法で明かりを作らなかったらどうなっていたことか。
ヒカリゴケといった東京のダンジョンではよく見た植物もない。
完全な闇だ。
対策としては、ヘッドライト、もしくは松明がある。
もちろん、今俺たちがやっているように火魔法を用いてもいい。
高レベルな火魔法の術者なら、火を投げ入れて先制攻撃兼明かりとして使用することもできる。
レンさんは高レベルなので簡単にそれができる。
外と比べてレベルは上がったようだが、それでも雑魚な敵モンスターたち。
そいつらを蹴散らしながら進む上でこの上ない魔法だ。
サトラも火魔法は習得しているから別にレンさんいらなかった説には気づかないふりをしておこう。
それが優しさというやつだ。
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英彦山は、普通のモンスターと、人形系モンスターの複合ダンジョンである。
球体関節タイプの人形と、仏像に手足が生えた気持ち悪いモンスター。大別してこの二つが主戦力となる。
とはいえ平均レベルは50前後。
サトラを伴うことで職業「異世界主人公(召喚予定なし)」の効果が発揮され、レベル200を超える俺。
それにレベル666固定のサトラ。
少しだけ見劣りするが、レベル170という人類最高峰クラスの力をもつレンさん。
このドリームチームの前に敵はいないと言っても良かった。
人形も仏像も火に弱い。明かり目的の火でさえ発火してしまうのには失笑を堪えられなかった。
サトラもレンさんも、マッピングには疎い。
その点は俺がカバーできる。
一応ここには何度か来たことがあるし、そうでなくても弱かった俺には必須技能の一つだった。
道迷いもほとんどせずに俺たちは迷宮の中へ中へと進んでいく。
暗闇。
火を投げる。
人形に発火。
殲滅。
このルーティンでどこまでもいけそうだ。
おそらく弱いモンスターを何体殺しても、経験値的な実入りは少ないだろうから、レベリングという観点で言うと微妙かな⋯⋯ ?
とはいえ、やれることはある。
火に焼かれる時間が長く、絶叫が尾を引くモンスターたち。その数が多い方へ俺たちは進む。
なんで人形なのに声を出しているのか。
それがわからない。絶対にいらないだろその機能。
罪悪感を植え付けにきているのか⋯⋯? 性格が悪い。
おそらくこのダンジョンにもダンジョンマスターはいるだろうから、そいつの趣味だろう。
やめてほしい。
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だいぶ歩くと、心臓部っぽいところに来た。相対する敵も100を超えるレベルになっている。
最初が50なのにいつの間にか100って攻略させる気ないだろ。
適正レベルを考えてほしい。
転移呪文は発見されてないんだぞ。
一旦潜ったら、そのまま行かないと攻略できない。
人形ダンジョンは人形の残骸が積み重なった部屋と、たくさん仏像が置いてある部屋に大別される。
どちらも、どこにモンスターが潜んでいるかわからないと言う点で大差ない。
炎で燃えて炙り出せるので、なんの意味もないけど。
滑稽な火付人形の出来上がりだ。尻に火がついて踊っている。人形の踊り焼きってやつだな。
さて、ここがおそらくこのダンジョンの心臓部。
人形と仏像が融合した奇怪なモンスターがこちらの前に立ちふさがっている。
仏像の浮かべるアルカイックスマイルが不気味だ。
ドール・アグレ
Lv170
職業「ダンジョンボス」
技能「人形生成」「軋む身体」
称号「南岳の守護」
頭は仏で腕は球体関節。
足元に餓鬼を踏みつけて、その人形はこちらへ何かを投げてきた。
武器を携えた人形だ。
叩き落とす。
だが、人形はそれだけでは止まらなかった。
本体はさらに何体も投げてくる。
それだけではなく、叩き落としたはずの人形が動き始めた。
立ち上がって、ナイフを突きつけてくる。
この前のフォレストオリハルコンゴーレムと同じように、生成した眷属は別個の存在となるらしい。
『私が行く。』
サトラが飛び出した。
単騎で攻略するつもりのようだ。
槍が突き刺さる。
「ぎしぎし。」
謎の効果音とともに、ドールアグレの体が軋む。体に空間が開いていく。
突き出された槍はその体の間を通り過ぎた。
レンさんの炎魔法で近づいてくる雑魚は一掃しつつ、漏らしたやつを俺が倒す。
そんなことをしている間に、サトラとドールアグレの戦いは佳境を迎えていた。
おそらく回避系技能である「軋む体」を連発して人形はサトラの一撃必殺を避けていく。
人外じみた速さで連続突きを放っても、全て体をぎしぎしいわせながら避ける姿は敵ながら見事だ。
多分あれ、同時に二箇所攻撃しないと倒せないな?
こちらを処理したらサトラの助太刀に向かうとしよう。
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二人で攻撃したらちょろかった。
それ以前に多分、サトラが炎魔法を使っていればもっと簡単だった。
倒れ伏した人形から宝箱が落ちた。
ボスドロップか。
このダンジョンで初めての宝箱である。
やったぜ。




