第五十八話 英彦山(ひこさん)ダンジョン
鰻づくしの昼食の中で食べると、うなぎパイもそこまで悪くなかった。
いや、悪いんだけど、悪すぎて逆に口直しに最適と言うか。そんな感じだ。
『ねえねえ。ダンジョン行こうよ直方ー。』
その元凶ことレンさんは現在、俺にまとわりついている。
そういえばこの人、ダンジョン狂だったな⋯⋯ 。
『この近くにもダンジョンあるって聞いたよ。行こうよー。強くなったんでしょ?』
うなぎパイを食べた時にかなりひどいことを言ってしまった自覚はあるから、彼女の要望を断りづらい。
「出かけるの? いいんじゃない。」
母は無関心だ。
昔から俺のダンジョン行きに関しては、中立のスタンスを取っている。
頭ごなしに行くなと言われなかっただけ感謝している。
普通新しい物事に大人は反対するからな⋯⋯ 。
「サトラはどうだ? ダンジョンに潜りたいか?」
『仁が行くならついてく。』
「それは嬉しいけど、自分がどうしたいか教えて欲しいぞ⋯⋯ 。」
『⋯⋯ なら、潜りたい。あそこは落ち着くから。』
常在戦場の心構えができているようで、彼女は口の端を釣り上げる。
闘争を望む本能がちろりと舌を覗かせていた。
「なら行くか。」
俺とて、レベリングはしたい。
正直、もう少し休んでからの方がいいとは思うが、パーティーメンバーが乗り気なら否定する理由はない。
『やったー!』
⋯⋯ レンさん、軍にいた頃とキャラ変わってない?
●
俺の実家の最寄りのダンジョンは英彦山にある。
日本三大修験場の一つにして、太古から多くの山伏たちで賑わっていた山。
そこは現在、北九州有数のダンジョンとして知られている。
奉幣殿と言う江戸時代に建築された赤いお社の上部がダンジョン化している。
英彦山49窟と呼ばれた洞窟群がダンジョンとなり、そこからモンスターが溢れたと言う説が有力だ。
ただ、鳥居の効果か、奉幣殿より下にはモンスターは入ってこない。
何かしらの縛りがあるのだろう。
上宮である山頂まで石段が整備されているため、安定した足場で戦えると言う魅力。
それに、山がダンジョン化したものとしては特異的なほどにコンパクトなダンジョン領域。
この二つの要素により、山頂までの回峯と呼ばれる行程を日課的にこなす人が多い。
マラソンというか周回というか。
ダンジョンで稼ぐとしたらこれ以上ない場所だろう。
と、いうわけでやってきました英彦山奉幣殿。
普通の神社の三倍くらいはありそうな朱色の社が鎮座している。
採取物を回収するために大きなザックを背負った人々が数人いる。
地方では珍しいなかなかの賑わいと評価できるだろう。
英彦山神宮に入場料を納めて、俺たちも出発しよう。
●
山頂に登るルートは、人が多い上になんども登ったので今回は南ルートを行くことにした。
こちらはあまり人気がないが、多くの洞窟が存在しており、そのどこかにダンジョン最深部があると言われている。
サトラとレンさんでオーバーキル気味な戦力があるんだ。もともとそこまで強いダンジョンでもないし、そのくらいのハードモードは選ぶべきだろう。
出現するLv30くらいの雑魚を跳ね飛ばしながら洞窟へ向かう。
登山ではないとはいえ、鬱蒼とした針葉樹の森だ。そこにつけられた緩やかな道を行く。
この木は、杉だな⋯⋯ 。
うっ。頭が。
いやいや。
高さも太さも全然違う。あれとは関係ない。
フラッシュバックしそうな記憶を頭の底に追いやって、虐殺していく。
そんなにたくさん出てくるわけでもないから、虐殺というのは違うな。確殺が正しいか。
千鳥の強さを確かめながらの道中だ。
スキル「雷切」は、「帯電」させた後に使うと雷を飛ばせる。
帯電しなければ、ただの鋭い一閃になった。
組み合わせるタイプか。
レンさんが、めちゃくちゃ興奮して入手経路を聞いてきたけど、お茶を濁した。
確定ドロップとは思えないし、なんなら次行ってもいない気がするんだよな。あの馬。
妙に気を持たせるようなことはするまい。
それにレンさんは火魔法に格闘術を組み合わせた戦闘スタイルだ。
剣なんて使わないだろうに。
もしかしてアメリカ軍に情報を流すつもりか?
油断も隙も無いな⋯⋯ 。
とはいえ、味方になったレンさんは非常に心強かった。
森の中で火魔法は危ないのであんまり使わなかったけど、「鼓舞」やら、「カリスマ」やらは味方の攻撃力に補正をかけるようで、目に見えてこちらの火力が上がる。
火魔法も使えるし、文字通り火力特化だ。
ちょっと意味合いが違う部分もあるが、大枠では間違っていない。
もちろんサトラは言わずもがな。
いつものように槍を振るっては、モンスターが面白いように吹っ飛んでいく。
三人で無双するのは、割と楽しかった。
そんなわけでやってきました玉屋神社。
ここは大岩を背にして神社が建っている。
あー岩を信仰対象にしてたのねということが一発でわかる神社だ。
ダンジョン化してからは整備されなくなったのか、社の真ん中に大穴が開いている。
うん。もしかしなくても、これは英彦山ダンジョン最深部に続く道だね。
それじゃあ行こうか。
俺たちが公式的なダンジョン初代攻略者になってやるよ。
なんとか書き続けていきたいです。




