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Lv666の褐色美少女を愛でたい  作者: 石化
第二章 西へ

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第五十二話 技能「料理」

 技能「料理」の効果は、全貌がつかめなかった。

 とりあえず、食材を見つめると頭の中にレシピが浮かぶのはその効果だろう。


 だが、それ以外にも効果はありそうだった。

 いつもなら野菜を切ってもどうしても不揃いな部分が残ってしまう。

 だが、今日の俺は、一定のリズムで包丁を扱うことができるようになっていた。

 千切りだろうが乱切りだろうが思いのままだ。


 さらに、手順で戸惑って手が止まった時には、なぜか体が自動で動いて次に必要な動きをしてしまう。



 とりあえず、今までより美味しい料理が作れそうだ。

 それだけでこの技能を習得した意味はある。


 サトラのために美味しい料理を作るぞ。



 いつものように丸焼きにしようとするサトラを止めて、半分くらい馬刺しにした。

 完全には止められなかった。まあ、丸焼きも美味しいし⋯⋯ いいか。


 醤油がないな⋯⋯ と考えてたら、なんか豆から作ろうとしていたので技能「料理」さんは人間の時間軸がわからないらしい。自分の体が勝手に動くのはなかなか怖いぞ⋯⋯ 。


 なんとか自分の意思でやめさせることはできた。

 引っ張られて取り返しのつかないことになるってことはないだろう。一安心だ。



『なんか今日のご飯、美味しいね。』


「そうだろそうだろ。」


『仁の料理はいつも美味しいけど、今日のはもっと良いね。』


 サトラは、満足そうにモグモグと口を動かしている。

 俺は打たれたように固まった。

 何気なく放たれたいつも美味しいという感想に素直に感動してしまう。

 

『ん?どうしたの。先に食べちゃうよ。』


 サトラに言われてて慌てて食事を再開する。


 いつの間にかたくさんあったはずの料理は消え去ってる。

 サトラが食いしん坊すぎる⋯⋯ 。


 食べきる前に、俺に教えてくれたのでなんとか俺も食べることができた。


 自分の料理ながら天才かと思うほど美味しい。

 技能「料理」は当たりだったな。


 ●


 後片付けをした後、妙に目が冴えて、テントに引っ込む前に空を見上げた。


 星は綺麗で、初めてサトラと会った晩を思い出す。



 あの日の空は一生、思い出に残るだろう。

 その後の劇的な出会いとともに。


 ちょっと腰を下ろしてみる。


 また、流星が落ちるかもしれない。

 期待をしているような、していないような。


 サトラだけで十分だから、純粋に綺麗だと思っているだけだ。


 少し、寒いな。

 標高が高いからだろう。


 身震いした。


『仁、どうしたの?』


 テントの中からサトラが顔を出した。


「サトラに初めて会った日を思い出していたんだ。」


『ああ。あの時の。』


 彼女も懐かしくなったようだ。目を細めている。


 そのままもぞもぞとテントから抜け出して、俺のそばに座った。


『いろんなことがあったね。』


「ああ。」


 東京から離れて、少しは薄まるかと思った思い出は、明確な色を伴って頭の中に色濃く根付いていた。


 新宿御苑に潜って、レンさんに会った。

 花火大会に行って、杉ダンジョンを攻略した。

 大学に行ってリンに襲われた。


 一週間にも満たない出来事だったけど、意味がわからないくらい濃密だった。


『本当に、最初に出会ったのが仁でよかった。』


「俺もサトラに会えてよかったと思ってる。」


 危険なことは何度もあった。

 命の危険を感じたのも一度や二度じゃない。

 その全てをひっくるめて、やり直せると言われても、俺は彼女と会うことを選択するだろう。


 それほどまでに今の俺の中のサトラの存在は大きかった。



 弛緩した時間が流れる。ここがダンジョン領域内だとは思えないほど、リラックスしてしまっていた。

 サトラが隣にいるのが心強い。



 こてんと彼女は俺の肩に首を預けた。

 体重を感じて、心臓が跳ねる。


 どんなことを考えているんだろう。

 いくら頭を働かせても答えは出そうになかった。


 ⋯⋯ てか、サトラ寝てない?

 耳元からすうすう寝息が聞こえてくる。


 本当に初めて会った時みたいだ。


 あの時も、すぐに気を失ったしな。


 仕方ない。


 俺は、起こさないように注意しながら、彼女をテントの中に入れた。

 疲れているだろうし、申し訳ない。


 俺も結構疲れてるな。


 3000m級の山越えを行なったから当然だろう。


 今日は早めに寝て疲れを取っておこう。


 ⋯⋯ サトラの方が一方的に意識がないと、変な妄想をしてしまうな⋯⋯ 。

 良くない。

 目をつぶって眠気を呼び覚ます。


 フクロウの鳴き声が夜のしじまを破って響いていた。










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