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Lv666の褐色美少女を愛でたい  作者: 石化
第一章 東京

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第四十五話 甘い話には裏がある

 古来より、甘い話には裏があると決まっている。俺は、すぐに条件を聞き出すことにした。


「そうですね。簡単にいうと、一年くらい休学して良いので、ギリシャに行って異変を解決してくださいということです。」


 ⋯⋯ ギリシャの異変って、輝夜も言ってたな。

 二人のあいだに何かつながりでもあるんだろうか。

 それはいい。いや良くないけど、今はもっと大事なことがある。


「あれって解決できるんですか? 例えばダンジョンを踏破すれば解除できるみたいな。」


 空間停止という怪現象だ。解決策なんてあるのか?


「それに近いものなのではないかと私たちは考えています。」


「なるほど。」


 確かにダンジョンをクリアするなら、サトラと一緒に行けば簡単だろう。

 結構な難易度だったはずの杉ダンジョンも、俺とサトラは一応攻略できている。

 今更他のダンジョンで苦戦するとは思えない。

  流石にダンジョンをなめすぎか。


「なら、あなたが行けばいいのではないですか?強いんでしょう?」


「⋯⋯ 隠しているはずの私の強さを見破りますか。やはりあなたもなかなか侮れない。」


 いつの間にか鎌をかけられていたみたいだ。


 正直自白感も強いが置いておこう。



「私たちにはここを離れられない理由があります。なので、私たち以外で動ける戦力が欲しかったのです。」


「なるほど。」


 筋は通っている。

 ギリシャに行って、ダンジョンを攻略したい。

 だが、自分たちは日本を離れられないので、俺たちを利用するというわけだ。


 ⋯⋯ うーん。でも、別に大学を退学になったとしてもサトラと一緒なら生きていける気がするんだよな。

 残りたいモチベが薄いというか。


「もう少しメリットを提示したほうが良さそうですね。まず、あなたのアメリカ軍とのゴタゴタ、これを解決しましょう。」


「本当ですか?!」


 それができるというなら話は変わってくる。さっきまで対応に苦慮していたところだ。降って湧いた救いの手と言ってもいい。


「コネはあります。こちらもそれなりに強い組織を持っていますから、圧力をかける程度はできるでしょう。」



 圧力だけか。もう一声欲しいところだ。


「学費を無料にしてもいいですよ。あと、あの子の住民票をこしらえるのも協力しましょう。」


「任せてください。」


 俺はころっと転んだ。至れり尽くせり、痒い所に手が届く感じだ。

 サトラの身分を保証するものがないと、この国では安心して病院にも行けない。

 かっちりと法律が決まっているから、サトラのような存在は入り込むのが難しいのが日本社会だ。


 なんか、俺の心が読まれているように欲しい言葉をぽんぽん言われたけど流石に偶然だろう。

 そんな技能あるわけがない。⋯⋯ ないよね? 鑑定さんで見えなかったらお手上げなんだが。



 愛さんは怖い。

 何はともあれそれだけは確かだ。


「あと、割ったガラスの修理費はきっちり頂きますから、覚悟していてくださいね。」


 駄目押しされた。もう少し首を縦に振らなければこれも免除されていた可能性がある。

 もっとしっかり考えてから返事すればよかった。手強い⋯⋯ 。


 ●


 とりあえずレンさんたちは愛さんが預かって向こうと交渉してくれるらしい。


 俺と違って人質として交渉することもできるだろう。何を背景とするかで取れる行動も変わってくるんだな⋯⋯ 。そんな巨大なものを背負うつもりはないけど。俺はサトラと一緒にいれたらいいから。



 それはそれとして、サトラの機嫌が治らない。


 俺がレンさんの傷の吸い出しを行ったのがよくなかったのに加えて、言い訳しようとしたところに愛さんがやってきて長いこと話していた。

 彼女にとっては意味のわからない話だっただろうし、しょうがない部分もある。

 でも、いつまでも顔を背けられるのは流石にいやだ。


 なんとか許してもらえないだろうか⋯⋯ 。


 愛さんの部下らしき人々がワールド姉妹を運び出していった。


 そろそろ夜景が始まる。

 サトラが宇宙ダンジョンを攻略して以来当たり前になった綺麗な夜空だ。

 見上げて思わずため息をつく。美しいものに感嘆してしまう。

 ちょっとした現実逃避だが、これくらい許してほしい。



『何見てるの?』


 いつの間にかそばにサトラが寄って来た。


「綺麗な夜空だなって。」


 言の葉を継ぐ。


『⋯⋯ そうだね。』


 少しだけ微妙な顔をしているのがわかった。夜空に何か嫌な思い出でもあるんだろうか。


 とてもありそう。

 まずったか?

 せっかくサトラの方から歩み寄ってくれたのに。


 やってしまったことは仕方ない。


「サトラ、今日はありがとう。助かったよ。」


 お礼の言葉を言ってなかった。

 サトラがいなかったら最初のリンのナイフで死んでいたはずだ。

 彼女が俺を抱えて飛び出してくれたおかげで、襲撃に対抗できた。


 サトラのおかげだ。


 彼女は一瞬虚をつかれたようだった。お礼を言われると思っていなかったんだろうか。

 俺としてはいくら言っても足りないと思うけど。


『直方も、強かった。一緒に戦えて嬉しかったよ。』


 今まで彼女の助けで戦闘するだけだったけど、今回はだいぶ役に立てたと思う。


 リンの異界化という特殊技能のおかげではある。

 でも、いつかたどり着きたいところに、一時的にでも立てたのは素直に嬉しい。


 最初はゴブリンを殲滅してもらった。杉ダンジョンでも、ほとんどの戦闘は彼女が行っていた。

 その彼女の力になれた。本当に良かった。そう思っている。


 それを改めて口に出すのは照れ臭くて、俺は別の話題を選んだ。


「なあ、サトラ。一回里帰りしてもいいか。」


 唐突に、俺は切り出した。


 なんというか、いきなりギリシャに行けと言われて心が落ち着いていない。


 無駄にざわめいている。


 一旦心を落ち着けるのも悪くないと思うんだ。


 愛さんは、いつまでにギリシャに行けとか言ってなかった。

 大学も休学になったんだから、そのくらいの暇はできる。


『直方の、お父さんとお母さん? 会ってみたい。』


「なら決まりだ。」


 帰るとしよう。故郷に。


あと2話で一章幕です。

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