第四十四話 退学処分です
戦闘終了して異界から帰ってきたら、時間が飛んでて夕方だった。
時計を確認したから間違いない。すでに午後6時を回っている。
窓口が閉まるのは5時だからもう遅い。
やってしまった。
いやでも戦い始めたのって午前中だったよな。
いかに白熱してたとはいえそんなに時間が経つほどやった覚えはないんだが。
もしかしてあれか。精神と時の部屋の逆バージョン。
中の時間が引き延ばされるのではなく逆に中の時間だけが外から見るとめちゃくちゃ早く過ぎていたみたいな。なんでそんなの使ったんだよ。絶対おかしいだろ。
いかに武装したアメリカ軍でもあんな制圧まがいのテロ行動してみろ、自衛隊が黙っちゃいないぞ。
すぐに引き上げたのかな。そして終わった頃に合流する予定だった。それなら辻褄はあうか。
異界の中は外とは行き来できないようになっているみたいだったし、俺たちを戦闘不能にしてからというのは賢い選択に思える。
まあ、勝ったのは俺たちだけど。
足元には服を裂かれてなかなかエロい格好になったレンさんと、気絶したリンがいる。
どうしようか⋯⋯ 。帰らせても面倒なことになりそうだ。
というか一般人の俺にアメリカ相手の抵抗なんてできるのか。
ぶっ飛ばしておいてなんだけど不安になってきた。
気絶した二人をどうするかも決められないし。
どうするのが正解なんだろう。
彼女たちを人質に、もう手出しするなと交渉するとか⋯⋯ ?
いや、逆探知されて終わりそうだよな。
使ってるスマホとか完全に米国の会社のものだし。
あと、いうまでもないけど学費どうしよう問題もある。
振込手続きができなかったということは、退学もあり得る。
せっかくお金に余裕ができたところだったのに踏んだり蹴ったりだ。
俺は途方に暮れていた。
『直方、大丈夫?』
サトラの気遣いが嬉しい。
とりあえず、そうだな。
レンさんたちをここにおいておくわけにも行かない。
特にレンさんは風邪をひきそうだ。⋯⋯ 毒を食らったとか言ってたけど、大丈夫かな。
でも毒物に対してそんなに知識があるわけでもないしな⋯⋯ 。
吸い出すくらいしか思い浮かばない。
レンさんの様子を見てみる。
かなり苦しそうだ。毒が残っているらしい。まあ昏倒させたんだから弱い毒のはずもない。
紅葉刃を使うのが怖くなってきたぞ。なんだよこの武器。
とりあえず、俺の責任なので吸い出すのを試みよう。
●
紅葉刃がつけた傷跡はよりにもよって胸からおへその間までだった。
薄皮一枚程度なんだけどな。紅葉刃の効能にちょっと引いてしまう。
あと、流石に胸は触りにくいので、おへそのあたりからやっていきたい。
上着をはだけさせて、すべすべの肌にどぎまぎしつつ、思い切って顔を近づけた。
何か倒錯的な行為をしている気になってくる。これは人命救助。間違いない。
お腹に吸い付いて、毒を抜き出す。
ある程度溜まったら吐き出す。
これを繰り返す。
最初は正直興奮したけど、舌にピリッとした刺激がきたのでそれを楽しむ余裕はなくなった。
これはやばい。間違いなくやばい。
無心で吸い出して吐き捨てる。
レンさんは敵扱いではあるけどいいひとだ。死んでほしくない。
何十回か繰り返したところで、彼女の呼吸が落ち着いてきた。
舌に感じる刺激もほとんどなくなっている。とりあえず一安心と言ったところだろう。
なんだかじとっとした視線を感じる。
見上げると、嫌そうな顔をしたサトラと目が会った。
「いや、これは違うぞ。ただの人命救助だ。」
何も言われていないのに言い訳してしまう。
『どうだか。』
サトラは全然信用していないようで、プイと顔を背けた。
サトラの機嫌が悪くなるのは嫌だ。
俺はなんとか言葉を重ねようとした。
その時だ。
横でいきなり声がした。
「失礼します。少し、お伺いしたいことがあるのですが。」
驚いた。一瞬前まで確かにそこには誰もいなかったのに、そこには背の低い女の人が立っていた。
サトラとかレンさんとかと比べているから低いと思うだけで、ほんとは普通かもしれない。
一見したところ、普通の顔つきで、よく見たところ美人だとわかる。そんな人だ。
いやそれはいい。問題は、こんな登場の仕方をする人が只者なはずがないということだ。
ステータスはどんなもんだと目を凝らす。
名前 風魔愛
Lv 420
職業「忍者」
技能「諜報」「忍術」「房中術」
称号「暗躍者」「真の実力者」
やばい。間違いなくやばい。
変な技能はあるが、間違いなく風魔一族の末裔だし、称号に真のと付いているのがヤバさを際立たせている。絶対に怒らせてはいけない人だ。一見したところ人畜無害そうなお姉さんにしか見えないのがもっと怖い。
「なんでしょう。」
とりあえず気づかなかったふりをして、話を進めよう。
「私は、この大学の管理を取り仕切っています。直方仁さん、あなたは学費を滞納し、期日までに所定の手続きを取らなかったことで退学の一歩手前です。」
「はい。」
なんで今日のことを把握してるんだと問いただしたかったが、聞いたら負けな気がした。
どんなことをしていても暴かれそうだ。
「そこで、私があなたの利益となり得る提案をしましょう。もし受け入れていただけるなら、退学を取り消しても構いません。」
彼女は願っても無いことを提案してきた。




