第三十七話 築地素材買取所
新宿から築地へも地下鉄でオッケーだ。
東京の鉄道網は覚えるのは大変だが、慣れれば便利である。
大江戸線に乗り築地市場駅で降りる。
築地市場はもともと水産物を卸売りする場所だ。
初マグロが一匹三億円で売られ、威勢のいい売人が競りを行う世界有数の市場として有名だった。
古くて狭くなったとかで豊洲に移転したが、いまだに築地といえば魚で有名である。
その跡地に、ダンジョン産素材集積所はあるらしい。
トラックがひっきりなしに出たり入ったりしていた。
水産物ほど取引量が多くないから、ちょうど良かったのだろう。
入口がわからなくてしばらく右往左往した。
そろそろお昼だ。
サトラがお腹を鳴らして、恥ずかしそうに口を抑えた。
いや、そこを抑えてもお腹の音は聞こえてくると思うけど。
せっかくだし海鮮を食べられる店に行こうか。
なぜか両手を広げたポーズが思い浮かぶお店に入ると三階に案内された。
テーブル席だ。回ってないけど、一応チェーン店のはずだし、値段は大丈夫なはず。それよりサトラにお寿司を食べさせてあげたい。あれは日本の美味しいものの中でも上位に入るからな。
とりあえず握りセットを注文した。
いつもだったら買うのをためらう値段だけど、さっき10万円を手に入れて気が大きくなっている。この程度ちょろいと錯覚してしまった。
『直方が食べさせてくれるのは全部美味しいから楽しみ。』
「期待は裏切らないはずだよ。」
『早く食べたい。』
サトラは待ちきれない様子だ。
本当に食べるのが好きなんだな。
⋯⋯ずっとダンジョン飯ばっかりだったんだから当然か。
食事に関しては妥協しないようにしよう。俺は固く決意した。
寿司が運ばれてきた。12貫も載っている。
お高かっただけはあるな。
『これは、魚とご飯?』
「そう。一緒に食べると相乗効果でさらに美味しくなるぞ。」
『いただきます。』
手を合わせて、食べ始める。
アナゴ、ネギトロ、コハダ、サーモン、とろマグロに玉子。
ネタは数々。どれも美味しい。やはりたまに食べる寿司は格別だ。
今まで食べたどの寿司よりも美味しい気がする。
この場所が築地だからだろうか。
サトラも幸せそうにモグモグと口を動かしている。
『今まで食べた魚の中で一番美味しいかも。』
「それは良かった。」
『ありがとね。直方。』
彼女は柔らかく微笑んだ。
思わず見惚れる。
その間に彼女は次から次へとお寿司を口に入れていった。
えっ? もしかしてそういう作戦か?
⋯⋯もう一個くらい注文しよう。
美味しいな。
サトラが満足するまで注文を繰り返してたら、金額がやばいことになった。
大丈夫なはず。これからオリハルコンゴーレムの残骸を売却するんだし。
出るついでに素材集積所の入り口を聞いておく。
近所の方ならわかるだろう。
店員は、きちんと教えてくれた。ありがたい。
先ほど店で聞いた方へ行くと、入口が見つかった。
中に入る。
競りで賑やかな光景を想像していたが、静まり返っている。
確か競りは午前五時に始まるらしいから、もう終わってしまったんだろう。
買い取ってもらえない説が出てきたな。
いやでもまだ午後に入ったばかりだぞ。流石に大丈夫だろ。
曲がった屋根が続く卸売り市場は、思っていたより幅広い。
多分、水産物からダンジョン集積所に変わった際に改装されたんだろう。
ようやく見つけた事務所の窓口にはやる気なさそうな若い男が座っていた。
あんまりここに持ち込んでくる人はいないのかもしれない。
専属契約を結んだ冒険者なら、その企業に持ち込んでいくだろうし、それ以外の人々で大物を取れる冒険者は多くない。そう思えば納得できる。
「⋯⋯。」
男は何も言おうとしない。
俺が口を開かないと話が進まないらしい。
受付嬢のいた新宿とは大違いだ。
「すみません。大きな素材はこちらで買い取ってもらえると聞いたんですが。」
「⋯⋯どれほどの大きさだ。」
「ここではちょっと。」
彼は俺とサトラをじっくりと見つめる。
はっと息を吐いて、立ち上がった。
「なるほど。ついてこい。」
裏手に大きな倉庫があった。
「ここなら出せるか?」
「サトラ、ゴーレムの残骸をだしてくれ。」
『わかった。』
彼女が腕を振ると、砕けたフォレストオリハルコンゴーレムの頭部が落ちた。
「⋯⋯なんだ。これは。」
男は目を見張っている。
「オリハルコンゴーレムです。」
「伝説の金属でできたゴーレムか⋯⋯。ちょっと待て。鑑定する機械を持ってくる。」
男は小走りで去っていった。
あの不愛想な男が驚くほどの素材なのか。これは金額にも期待ができそうだ。
確かに大和杉のあのダンジョンは知られていないダンジョンだ。
その中ボスの素材とくれば市場に流れていない可能性もある。
『直方、嬉しそうだね。』
「高く売れたら色々な問題が解決するからな。」
『たくさん美味しいものを食べられる?』
「ああ。サトラのおかげだ。売れたらたくさん食べよう。」
『やったー!』
彼女は無邪気に喜ぶ。俺も嬉しくなった。
男が戻ってきた。鑑定装置らしきものを抱えている。かなり大きい。
⋯⋯鑑定ってそんな大掛かりなもの必要だったんだ。
自前で持ってて良かった。




