第三十二話 戦後処理
ダンジョンマスターは、輝夜に脅されて部屋をもとに戻していた。あの人、美人だけどおっかないな。
元の円卓が戻ってくる。
俺とサトラは隣の席に座ることにした。
しばらく待つ必要があるみたいだ。
大和と輝夜がどうするのか話し合っている。
「もう処分するべきよ。」
「流石に暴走が眼に余るな。」
「ちょっと待ってください。もうやりません。」
「信用できない。」
流れは、ダンジョンマスターの方に不利だった。
だが、狸の獣人のあの子が話に割って入った。
「大丈夫ですよ。私が保証します。」
「だいたいなんなんだよお前は。」
「私ですか。私はマスターの1の眷属。天狸です。いざという時にしか出さない切り札なんですよ私ってば。」
「なんで自分から言うんだよ。」
思わずと言った調子でダンジョンマスターの男、優馬も口を挟んだ。
「マスターが隠すから全然外に出れなくなったんです。その鬱憤を晴らすときは今です。」
「なんでこんなやつを作ってしまったんだ⋯⋯。」
「マスターが作ったんでしょうが!」
二人の会話に、大和と輝夜は毒気を抜かれたようだった。
「もういい。とりあえず処分は保留にしてやるから話してくれ。どうしてこいつらを中に入れた?」
「私たちの仲間以外入れないようにって言ってたわよね。」
「それは⋯⋯。昔のライバルが、その女に殺されたと考えたからだ。俺ならあいつらの仇を取れると思ったんだ。」
「あなたは異世界から来たって言ってたわね。異世界のライバル?」
「ああ。俺と同じダンジョンマスターだ。一人は空、もう一人は海のダンジョンを作っていた。同期でライバルだったんだ。それがよく知らない女にやられるなんて信じられない。仇をとってやる。そう思ったからこそ、俺はあの女をここに招待したんだ。」
「男の子の方は?」
「あいつはなぜか付いてきた。どうでもいいから一緒に死んでもらおうと思っていた。」
あいつひどいな。俺の扱いが完全にモブの一人だったんだけど。
戦闘力ではそうかもしれないけど、俺だって傷つく心はあるんだぞ。配慮してくれよ。
「ついでにお前らの支配を脱するいい機会だと思ったんだがな。思ってたのの何倍かバケモノだったぜ、お前ら。」
「そりゃどーも。」
ふむふむ。大和と輝夜の傘下にあのダンジョンマスターが組み入れられていたと言うことか。あの二人はどう言う人物なんだ。
サトラのダンジョン攻略でさえ、まだ誰一人として成し遂げたことのない偉業のはずだけど、あの二人はダンジョンを完全に支配していたと。
⋯⋯。えっ。あの二人黒幕では?
いや、ダンジョンマスターに反乱を起こされているからそこまででもないのか。
「うちの最高戦力を隠しておいたと言うのに、歯が立たなかったからな。もう諦めた。煮るなり焼くなり好きにしろ。」
「⋯⋯どうする?」
「一旦愛に相談しましょう。怒られたくないわ。」
「俺だってそうだ。」
あまりにあけすけな物言いに、二人はこれ以上の追求を忘れてしまったようだ。ダンジョンマスターの話術だろう。
自分の持つ情報を大きく開示することでそれ以上の情報を隠している。
そんな気がする。油断のならない印象のせいでそう思えるのか。
まあ、向こうの話は俺には関係ない。
まだかな⋯⋯。
俺は暇だった。
サトラも手持ち無沙汰にしている。
これは俺が話し相手にならないとダメだな。
あっちの会話の内容もわからないだろうし。
「サトラ、あのダンジョンマスターが二つのダンジョンを君が攻略したって言ってるけど、ほんと?」
『二つ⋯⋯?』
一つはわかるけど二つも攻略した記憶はないみたいだ。
「心当たりがないんならいいんだ。」
『私も知りたいんだけど、どう言う状況なの?』
「あの話合いが終われば、地上に戻れるらしい。」
『よかった。』
サトラはずいぶんホッとしたようだった。
彼女が狙われたってことは話さない方が良さそうだ。
気に病んで欲しくない。
『直方、何か隠してない?』
「そんなことないよ。」
頑張ってしらを切る。
たとえサトラのせいでこのダンジョンに引きずり込まれたのだとしても、彼女がいてくれたおかげで死なずに済んだ。
レベルだって随分上がった。
なら結果オーライと言っていい。
いいのかな⋯⋯?
なんか不安になってきたぞ。
いやいや。無事に脱出できるならオッケーだ。間違いない。
あの人達の正体とか聞きたいことはあるけど、今聞く必要はないはずだ。
大丈夫だ。問題ない。
「よし。こっちは済んだ。」
大和がこちらを振り返った。
「地上に送ってあげよう。」
「その前に一ついいかしら。」
「なんですか?」
警戒しながら絶世の美女の方を向く。
あの人はちょっと怖い。
「聞きたいことがあるの。ギリシャの静止空間について何か知らない?」




