第二十九話 ダンジョンマスターとかぐや姫
その部屋はやけに明るかった。
天井に光源がぶら下がっているようだ。
電気ではなく魔術的な明かりのようで、一定の強さでこの部屋を照らしている。
下のゴーレムがいた部屋と比べて半分くらいの大きさだろうか。十分に大きい。
真ん中に円卓めいた席と椅子があって、そこに一人の男が座っていた。
顔の印象は油断のならない曲者という感じだ。
少しでも油断をすれば後ろから刺されそうである。
だが、現在の彼は何かを恐れているようだった。
何か。それは決まっている。
彼の後ろに立つ絶世の美少女の存在だ。18歳くらいだろうか。
にこにこしているが、目が笑っていないしなんなら手から炎出してる。怖い。
いや、それ以上に綺麗ではあるんだが。
ええっと。服装は割と一般的だよな。
髪は濡羽色で艶のある長髪。
ただ美人すぎる。サトラとタメを張れる存在がいるなんて信じられない。
俺の場合は惚れた贔屓目もある。
それで同じくらいと言ってるんだから、フラットに見たらどうなるか。
二人が並んだら多分百人中八十人はあの人の方が可愛いっていうだろう。
誰がなんと言おうと俺はサトラの方が可愛いっていうけど。
名前 輝夜
Lv 567
職業「巫女」
技能「黄金生成」「全体自動回復」「秘道具生成」
「忍術超級」「諜報超級」「房中術上級」「軍勢召喚上級」
「全体麻痺付与上級」「雲乗り超級」「呪術超級」「射撃超級」
称号「輝夜姫」「大和杉の巫女」「美の化身」「森人の姫」「土の神の加護」
鑑定が発動する。彼女のステータスが見えた。
なんだそれおかしいだろ。まずLvが500を超えている。
その時点で大概なのに技能の数でサトラを上回っている。
うまく立ち回られたらサトラでさえも負けるかもしれない。
称号に輝夜姫ってあるから、ひょっとして、おとぎ話のかぐや姫か⋯⋯?
それならわからないこともない。技能は謎だらけだけど。
名前 御門優馬
Lv なし
職業「ダンジョンマスター」
技能「ダンジョン操作」「眷属作成」「罠設置」
称号「樹の大ダンジョンマスター」
男の方はこんな感じだ。
なんか輝夜っていう人の衝撃に比べれば大したことないような気がしてくる。
いや、レベルなしだったりダンジョンマスターだったりするのはやばいんだけど。でも、見劣りするな。
警戒たっぷりに立ち止まった俺とサトラを見て、その少女は口を開いた。
涼やかな声が響く。
「ごめんなさいね二人とも。こいつが暴走して取り込んじゃったみたいで。」
出てきた言葉は、少なくとも敵意を含んではいなかった。
俺はホッと息をつく。
彼女と敵対したら厄介なのは間違いない。
「とりあえず手違いよ。出してあげるわ。」
「ちょっと待て。俺はあいつを許したわけじゃないぞ。」
ダンジョンマスターの男は喚く。
「あなたの言うことは聞いてないわよ。」
彼女は脅すように手の中の火を近づけた。
それだけで彼は黙る。
そこには歴然とした力の差が存在していた。
ダンジョンと言う謎だらけの迷宮にダンジョンマスターがいると言う噂はまことしやかに囁かれていたが、本当だったんだな。
そのおそらくラスボス的な存在がもっと理不尽な存在に屈している。
もしかしたら俺が知らないだけでこう言うことは一般的なのか?
いやでもサトラだったりかぐや姫だったりと言った人が一般的なはずはない。
そうなってたら恐ろしすぎる。
「さあ、出口を作りなさい。」
「チッ。わかったよ。」
反抗的な態度をとりつつも逆らえないようで、彼は何やら操作を始めた。
円卓の中央に画面が灯る。それはステータス画面によく似ていた。
ダンジョンマスターはこれでダンジョンを掌握しているんだろう。
「⋯⋯。ちょっと待って。」
かぐや姫の現し身は、何かに気づいたようにこちらを見た。
「あなた。どこかで見たわね。」
サトラを指差して言う。
『?』
サトラは心当たりがないようで、当惑していた。
「私の愛しい人にぶつかろうとしてきたわよね。」
『????』
「空から落ちてきたときは逸らすだけで精一杯だったけど、今回は逃さなくて済みそうね。」
何のことを言っているのかはわからない。
だが、彼女が、こちらに敵意を持ったことだけは確かだった。
唐突で気まぐれ。だが、それを押し通せるだけの力が彼女にはある。
俺は紅葉刃を構えた。
「あんたに用はないわ。引っ込んでなさい。」
「そう言われてやめるほど人間ができちゃいない。」
『いや。私は大丈夫。それより、あの男を見張ってて。』
サトラは俺を制した。
確かにあのダンジョンマスターは曲者だ。
目を離したらまずいのは間違いない。
それに多分、二人の戦いにはついていけない。
「わかった。」
俺は頷いた。
まだ二人の領域に達していないのは悔しい。
それでもそう言うものとして受け止めよう。
こっちはこっちで大事な役割だ。
俺は円卓に走り寄る。
逆方向から輝夜がサトラに近づく。
あっちはゆっくりだ。
俺と違って近接戦専門というわけではないのだろう。
ダンジョンマスターの男は目論見が外れたらしく、めちゃくちゃ悔しそうな顔をしている。
「おかしなことをしたら刺すぞ。」
とりあえず脅しとこう。
レベルなしだし、この男自体にさほど脅威は感じないが、用心しておいて損はない。
「⋯⋯わかった。」
男は不承不承頷いた。
これで二人の戦いを見守ることができる。
ちょっぴり不安は残るけど、サトラを信じよう。
第四話でサトラが落ちてくる描写を長々とやったのはここの伏線のためです。




